第244話 この大胆不敵なめぐみんと一線を越えそうな感触を!!(3)

「クスッ」


 さっきまでツマミは塩対応だっためぐみんが心から微笑む。


「まあ、私はそんな中途半端でいい加減なカズマのことも好きなんですけどね」


 なあ、いい加減ってお湯の温度じゃあるまいし、俺ってばそんなに褒められるレアな素材か?


「己の弱い所をよく理解してて、強敵相手なら変にカッコつけて女性を守らないし」


 おい、ちょっと待て、女は守られてなんぼだろ?


「さらに本格的にヤバい事件に首を突っ込む勇気もないし、正義感のある性格でもありませんし」


 悪かったな、俺は勇者じゃなくて盗賊だからな。


「人が見てないのを逆手に悪いことをたまにして気が向いた時に良いこともする。そんな性格もネジ曲がった男で……」


 なあ、俺、さっきから褒められてんのか?

 俺は眉を曲げて歌舞伎役者のような白目となり、めぐみんの好意の攻撃? を受け流している。


「借金があったら、がむしゃらに働き、でも少しでもお金に余裕ができたら家に引きこもる自堕落で」


 あのなあ、金があったら老後に向けて、無駄遣いしたくねえし、てこでも動かないは鉄則だろ?


「気分屋で毎日を過ごし、異様に優しい時もあったり、変な悪戯などの意地悪をしたり、仲間を大切にしてる器の広い人と思いきや、平然とパーティーメンバーを入れ替えたり」


 なあ、そんなに入れ替わりに不満か?

 何ならお前さんがべっぴんさんいらっしゃいになって影分身すればいいじゃん。


「気配りができてキレもので凄く頭が良いかと思いきや、何でそんなバカなことをするのかと思うところもちらほらと……」


 ああ、やっぱりな。

 俺ってば褒められるどころか、目の前の女の子相手にけなされてんな。


「でもそうやって文句を言っても最後はみんなを助け出してくれる」


 そりゃ、後で恨まれて呪いの人形でやられたらイタイからな。


「実は優しい心の持ち主なのにひねくれていて、結局、美味しいところで三枚目の芸人気取りになってしまう」


 めぐみんがいつにない優しい笑顔で俺の姿を大きな瞳に映す。


「そういうの全部ひっくるめたカズマが好きなんですよ」


 俺は女の子に面と向かって好きと言われ、その感情に思わず赤くなってしまう。


 トロンとした瞳をしためぐみんも察したのか、まぶたを伏せ、小さな口をきゅっと閉じる。


 チェリーの神様いいよな?

 もうこの小さくて潤った唇、奪っちゃてもらってもいいだろう?


 そうさ、この場所は異世界なんだ。

 齢15を過ぎれば、この世界では十分に立派な大人で、平然と酒も飲めるし、おまけに平均寿命も短いと聞く。


 それに現実世界では色恋なんて無縁だったし、ギャルゲー以外ではロクな恋愛イベントもなかったんだ。 

 だからせめて、この異世界でこんな美少女に恋しても神は黙って許してくれるさ。 


 俺は口を尖らせ、めぐみんの恋心に答えることにする。


 ふっ、キスくらいで動揺するんじゃね。

 今の俺なら十二分に責任は取れる……。


 あれ、ちょっと待てよ……。


「おい、お前……やっぱり無理してるんじゃないか?」

「泣いてる女の子にこれ以上のことは出来ないぜ」


 想いを秘めた雫が俺の足下にポロポロと溢れ落ちていく……。


「えっと……」


 気になった俺が視線を合わせると、涙を溜めためぐみんが非常に悲しい表情をしていた。


「あ……い、いや……、これはですね……。今日の夕ご飯の玉ねぎサラダを思い出して……!」

「ああ、確かにアク抜きが甘かったよな」


 めぐみんが手の甲で必死に涙を拭うが、それは一向に止まる気配を見せない。


 こんなにも思い詰めた悩みを抱えていた女の子相手にオスとして欲情していた自分が恥ずかしいぜ。

 ベッドの上であぐらをかきながら、俺は少し後ろめたい気持ちになった。


「……なあ、めぐみん」

「正直に言えよ。こんな夜更けに何で俺のもとに来たんだよ?」


 俺は涙を流すめぐみんをできる限り優しい声をかけ、彼女を落ち着かせるために一緒にベッドに横たわる。

 恋愛の経験値なくて、泣いてる女のなだめ方なんて分からねーからこうするしかない。


「──あれは私が小さい頃の……」


 ──大の字になった俺の横から呟くような声が聞こえる。

 ようやく、めぐみんが重い口を開いたようだ。


「妹のこめっこと同じくらいの歳の時でした……」


 紅魔の里にあった邪神の封印。

 めぐみんはゆっくりと自身の異世界昔話を語り出す。


 私がその封印を解いたことがきっかけでしたと──。

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