第243話 この大胆不敵なめぐみんと一線を越えそうな感触を!!(2)

 俺は嫌な汗をかきながらも、腰に抱きつくめぐみんの体をゆっくりと抱き寄せる。

 利き手でそのショートの髪をそっと撫でると無言の彼女はピクリと動き、僅かばかりの反応を見せた。


 童貞の俺としてここで告げるぜ。

 おお、天界人のチェリー様、ここから先の行動が分からないんですが……。


「ドクン、ドクン」


 無駄に心音が高まり、頭の中をかぼすじゃなくカオスが広がっていく。


 そうだな……大人の対応として、まずはキスフライのテンプレートとかから始めて、その後は甘い言葉、あんころ餅と囁いて……じゃあ、みたらし団子は好きかみたいな。


 くっ、緊張し過ぎで俺が食べたい和菓子のことしか頭が浮かばない……この世界でもあるのだろうか。

 おまけに胸が苦しくて、心臓の爆音も止まらん。 


 前髪で瞳を隠しためぐみんが大人しいのも気にかかる。

 そうか、これがときめきメモリンアルの主人公の恋するルンバな気分か。


 オシッ、男カズマ、気合いを入れろ。

 俺はしがみついていためぐみんもろとも上半身を起こす。 


 安心しろ。

 今の俺には資産も家もきちんとあり、ホームレスのように路頭に迷うこともない。


 例えこの先、何があってもめぐみんと一緒なら富○山だって乗り越えられる。


 だからここで……。


 俺は受け側のめぐみんの肩に手を置き、唇を思いっきりタコのように尖らせながら、同じく唇を寄せてるめぐみんに徐々に顔を寄せる。

 今、二人の心は一つに……。


『──めぐみーん、どこにいるのー?』


 ──そんな一つになろうとする寸前に廊下から能天気宴会女の甲高い声がした。


『なあ、アクア。めぐみんは見つかったか?』

『ううん。ちょむすけを捜すとか言ってたわりにはゴミ箱やネズミ捕りのトラップにもいなのよね。どこに消えたのかしら?』

『あのなあ、めぐみんは小動物じゃないんだぞ』


『──ズドォォーン!』


 ──ドアの向こうの二人の声に理性を失っていた俺の脳内に激しい落雷が落ちる。

 アブねー、どうせこんなオチが来ると思ったぜ。


 でもこれで安心したな。

 このまま川の字に流されたままなら後悔していたに違いない。


 めぐみんだって俺らに髪の毛を入れたお守りを作りながらも、誰も欠けずにずっとみんなと一緒にいれたらいいな、人間っていいなとせっせとボランティアな内職に勤しんでいただろ……。


 めぐみんの願いは誰とも恋仲になることはなく、いつまでも友達感覚のこのパーティーで仲良く過ごすことなんだろう。

 だったら話は早い、さっさとこの想いから早退し、ここから重い腰を上げて……。


「ギュッ」


 めぐみんが身を起こそうとした俺の腰に再び腕を回してくる。


「……てっ、めぐみんさーん!?」


 そんな抗えない行動を続ける乙女に己の自制心と戦う俺。


「おい、お前さあ……アクアとダクネスが近くにいるんだぜ」

「こんなヤバエことしてバレたりしたら……」


 どうしてめぐみんは推しの抱き枕みたいにしつこくしがみつくんだよ……!

 さっきのは前座にすぎなくて、これから本格的な笑えるプレイを再開したいのか……。


『──あの、お二人さん……』


 ──今度はドア越しにゆんゆんの遠慮がちな呼び止める声がする。


『今のめぐみんは一人になって色々と考えたいんじゃないでしょうか?』

『……あのウォルバクとは私と同じく、めぐみんとも深い縁が繋がっていたお方でしたから……』


 おおう、相変わらず優しくていい子だな。

 自称友達思いのゆんゆんはめぐみんの心をよく見透かしてる。


『そうなのか。まあ、傷心して外に出てまで心の在所を捜すまではしてないだろうし、私たちは先に寝ることにしようか』

『えー、私は四人用のカードゲームで一番のお金持ちになりたかったんですけど……』


 アクア、何不自由ない水の女神の癖して、大富豪好きだよな。


『パタパタパタ……』


 ──三人の女子のスリッパの音が遠ざかる中、以前とベッドの上で抱き合ったままの俺たち。


 おてんば三人娘は去り、無事にイベントは終わったと思ったのに、こんなにもめぐみんと肌を触れ合っていたら、俺の身も持たないぜ。


 パーティーの絆がどうした?

 屋敷に住むのに色々と気を使う?

 そんなん俺の知ったことか!


 俺はめぐみんをベッドの上に座らせ、お互いに対面する。


「めぐみん」

「そのあれだ。俺のことが好きだって告白してきたよな……それでだな」


 めぐみんの華奢な肩を添えながら、心にずっと引っかかっていた想いを吐き出す。

 喉に詰まった魚の小骨を取るように……。


「俺もそんなめぐみんのことが好きなんだと思うんだ!」


 予期せぬ言葉だったのか、めぐみんがポカンと口を開けたまま、俺の目を食い入るように見る。


「……それ、本当ですか?」

「はひ?」


 俺の思考が真っ白に染まる。

 冷却された脳内に大雪警報発令。


「だとしたら私のどこが好きなんですか?」

「え、えーと、あーと、いーと、ううーと……」

「ううーと?」


 考えろ、宇宙語じゃなく、今の俺の精一杯の想いをめぐみんに伝えるんだ。


「……あ……あっとあれだ。爆裂魔法のところとかな……」

「とりあえず、問いに困った時は爆裂魔法を褒めるとか、適当な返事をしていませんか?」


 めぐみんのクールなツッコミに俺の心がかき乱される。

 ああー、ヘタレな俺ってば、何で女の子一人の心さえも動かせないんだろうな……。

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