第241話 このウォルバクと紅魔族との爆裂魔法での終結を!!(3)

 よく晴れた青空にプカプカと浮かぶいわし雲。

 砦や建物は何事もなく復旧し、俺たち5人の戦隊レンジャー(カズマ御一行)と一匹の猫は多くの冒険者の歓声を浴び、砦を後にする。


 そんな冒険者たちのエールに俺のパーティーはクールに立ち去り、片手を上げて『これからも世界を救った英雄としてよろしくな』と白い歯を輝かせて答えるのは俺だけだった。


 ──魔王軍の連中のチームワークは見事に崩れ去り、連中と林にあった臨時の宴会場で日中どんちゃん騒ぎをして楽しんでいた魔王軍幹部のウォルバクは完全に敗北した。


「おい、約束通りムフフな店を教えろよ」

「ムフフ、ようやく俺にも大人の階段を昇れる日が来るなんて」


 ターバンを被った商人が親指を突き立て、ソフトモヒカンの男がデレデレと鼻を伸ばす。


「はあ? 新しい形の筋トレメニューなのか?(疑問系のミツルギ)」


 久々な出番なミツルギは不思議そうにそのやり取りを見ていた……。


 ──本当なら俺らに関わった砦のみんなに旨い飯と酒を振る舞って、お祝いしたい気分だったが、めぐみんがあの日のせいか(失礼な)調子が悪そうだったので、この任務が終わると同時にお店の予約をキャンセルした。

 もちドタバタだったので、めっちゃお店側から『次はないぞ』と忠告されたが……。


 そして砦にいたみんなに別れの挨拶を告げた俺は次の日には帰る姿勢となり、ウォルバクとの戦いの傷を回復させるため、あのウォルバクと風呂場で出会った因縁の宿屋に泊まっているのだ──。


「──おうっ、今回は激戦だったぜ。マジで死ぬかと(もう死んでる)思ったぜ」


 ──宿屋にて寝間着のジャージに着替えた俺は比較的広い一人部屋のベッドで横になり、ウォルバクとの死闘に酔いしれる……はずがない。


 今までの幹部は真っ向勝負ではなく、逃げるや戦闘自体を避けるとか、痛くない作戦コマンドも練れたけどな……。


 爆裂魔法は便利だけど、敵さんに使われるとなるとマジ恐怖しか生まれないし、今後めぐみんをキレさせないようにしないと備長炭にされかねん……。


「なー……」


 俺は起き上がり、ベッドを椅子代わりにし、一緒に部屋について来たちょむすけの顔を優しく撫でる。

 何も感づいてない獣はいいよな。


 ……だけどなあ。


 俺はちょむすけを股下に置き、腕組みして色々と考える。


 最終的にウォルバクはあれからどうなったのか……。


 どんだけ強い爆裂魔法でも魔王軍の幹部クラスなら、それなりの跡が出来るはずと思ったんだが、そんな痕跡一切なくて純粋で綺麗な月のクレーターみたいになっていたからだ……。


 あのお姉さんは……あのウォルバクは綺麗さっぱり醤油ラーメンのように消え去ってしまったのかどうかさえも謎のままだ。


 俺は八の字に眉を曲げ、あんな美人さんを出汁(跡形)も残さずに討伐したことに、正直、罪悪感を覚えていた。


 いや、あんなお姉さんがボロボロになり、虫の息で呪怨の魔法でも口ずさみながら、ジタバタと死にゆくさまなんて見たくなかったし、結果的に良かったのだろうか。


 俺はちょむすけをひざに乗せ、一人反省会を続ける。


 ……っていうか、めぐみんが爆裂魔法をぶちかます時に……、


 ──爆裂魔法を詠唱中のウォルバクが右手を向けたままの構図を思い出す。

 彼女はこの世のものとは思えない優しい母性の表情を浮かべて──。


 ……俺の気のせいだろうか。

 自身の最期に遭う前に、ウォルバクが穏やかな笑みでこちらを見ていたのは……。


 気のせいじゃなかったら、少しはモヤモヤとした心が晴れるんだが……。


 俺はちょむすけをたるんだ腹に乗っけて、再び横になり、ボケーと宿屋の天井を眺める。

 この宿の天井、数えようにもシミが少ないな。


『──コンコン』


 お姉さんとの妄想ごっこを済ます前に、遠慮気味に響く扉のノック音。


『カズマ起きていますか? 全員入浴は済ませましたよ』

「おおっ、ニューヨーグのロリ女神よ。もう少ししたら入るから」

『海苔がどうかしましたか?』

「いや、ほんの気の迷いだ。聞き流してくれ」


 めぐみんの声に反応しつつも、こちらから扉を開けようとはしない自堕落な俺。


『カチャ』


「ああ、ちょむすけ、カズマの部屋にいたのですね。どこにもいなかったので捜していたんですよ」


 めぐみんが鍵がかかってないと認識し、休息中の俺がいる部屋に入ってくる。

 昨日とは違い、赤いネグリジェ姿のめぐみんは上機嫌だった。


「いや、今は俺がこの毛玉に癒やされてるタイムセール真っ最中なんだ。もうちょい俺と戯れさせろ」

「いいえ、別に配送ごっこでもないですし、その子を連れていくわけじゃないので」


 俺が寝そべるベッドの近くまで来て、運送会社がどうこうと。

 ベッドを空飛ぶベッド(一日レンタル)にするためにアメゾン配達員、呼んだ覚えはないぞ。


「宿屋の外で毒の草でもかじってるかと心配してましたが、カズマの所にいるなら安全ですね」


 猫は鼻が効くので毒草は食わんと思うが、安心したのか、上下の呼吸のリズムが心地よいのか、俺の腹の上で眠るちょむすけ。


「……」


 すると無言のめぐみんが俺の寝転んだベッドに片ひざを乗せる。


「!」


 俺は信じられない面持ちでめぐみんの動きに釘づけになる。


『ぱふっ』


「お、おいっ! めぐみん嬢よ、いきなりどうした!?」

「俺の横とか何のつもりでえ……!?」


 江戸っ子口調になるのも分かるだろうか。

 俺の隣に女の子が突然、寝転がってきたからだ!


 足元に敷いていた掛け布団に身を包んだめぐみんに敏感に反応したちょむすけは軽々と床へと飛び降りた。


「……カズマ」


 布団に顔だけを出しためぐみんが甘い言葉を囁く。

 そのほっぺは紅に染まり、悩ましげな大きな瞳で俺を見つめてくる。


 おい、筆者。

 この世界、恋愛小説とかじゃねーよな?


「今晩はカズマと一緒の布団で寝てもいいでしょうか?」

「はああ!? いいわけねえだろっ」


 気が動転した俺は白目になりながらも正論を言い放つ。

 二人の夜はまだスタートしたばかりだ……。

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