第239話 このウォルバクと紅魔族との爆裂魔法での終結を!!(1)

 砦から少し離れた芝生にてダメージ大な彼女を待ち受ける冒険者と騎士の集団。

 彼らはボロボロのウォルバクを前にして、気合いを入れ直す。


「おい……来たぜ。誰がやるんだよ?」

「俺がやってやんよ!」

「いや、忍びは黙ってな。俺の出番だぜ!」


 ソフトモヒカンの戦士に答える忍術使いが槍を上空に掲げ、それに負けまいとダガーを見せつける頭にターバンを巻いた盗賊。


「わりいな、ちょっと通してくれ」


 俺は片手に素敵な枕になりそうなちょむすけを抱え、変な意気込みを語るモヒカン男たちに声をかけた。


 その後ろにはマナタイトの杖を握ったままで、地面に目線を落としためぐみんがオプションのようについてくる。


「ウォルバクの相手は俺らだ。ここは勇者珍味(酒のつまみ役)の登場ということで一歩引いてくれないか」

「さ……佐藤和真さとうかずまか……」


 モヒカン男が俺の名を呼ぶと同時にその場にいた集団が俺たちに目を向ける。


無論むろん、俺らも無料参加とは言わない」

「その条件としてオスな君たちに俺のオススメ店を紹介してやろう」

「へ?」


 冒険者たちの目から黒目が消える。

 まさに猫みたいなヤツらだな。


「あの店は今までになく凄まじいぞ?」

「チート能力で奥までガンガン突き進んだお前らでも、アクセルの街にあるお店のことまでは未経験だろうし」


「えっ、何のお店か教えてあげようか……」


 何も理解出来てない冒険者連中に指を立てて、一から説明する俺。

 決して美味しいラーメン店の会話ではない。


「──おっしゃ、分かったぜ。勇敢なる男の中の男、佐藤和真!」

「俺らはたんまりと金を稼いでるから何も心配はいらないぜ!」

「ここはお前に譲るから、例の店のことを詳しく教えろよな!」


 その内容が過激過ぎたのか、連中が俺のことを聖なる神として崇め祀るようになった。


「「……」」

「カズマさん?」


 一方でアクアとダクネスは白い目で軽蔑し、何も分かってない無垢なゆんゆんは不思議そうにこちらを見ている。


 ──そんな中、ウォルバクは無言で俺とちょむすけの前に姿を現す。


「そういうわけで君の相手は俺たちだ。ここは俺に身を任せ、遠慮なく抱きついて……」

「ねえあなた、本当に勇者じゃないの?」  


 残念ながら、俺はお姉さんが望むような勇者ではない。

 いかがわしいサキュバスのお店に入る勇気はあるけどな。


「ほんととんでもない強力な物を使ったわね」

「この私自身もドッキリしたわよ」


 おいおい、このお姉さん息切らしてるし、シンクの汚れを拭いたボロ雑巾みたいじゃないか。


「あのアイテムは俺の発明した近代兵器だよ。まあ魔王軍の幹部にそんだけ痛手を負えるとは思わなかったが……」


 俺は内心ビビりながら、あのダイナマイトを直撃させても堂々としてるお姉さんへと声を絞り出す。


「そんなことよりもだ……」


 美人だし、胸デカイし、セクシーで魅力的だけど、ゾンビーな相手に体が震えてやがるぜ……。


「こんな状況下で何で砦にノコノコと来たんだ?」


 広大な草地で俺のパーティーと、吹き荒れた風でマントを靡かせたウォルバクとで危ない交渉を続ける。


「……どう考えても俺らの方が有利だし、そのまま尻尾を巻いて逃げる気はないのか?」

「ちょむすけへのしつこいファンのストーキングごっこは辞めにして、俺たちにも一切関わらないなら、こちらも静かに去ろうと思うしな」


「フフッ。その誘いには乗れないわね」


 ウォルバクが息を弾ませながら俺の方を見

る。


 恐らく立っているのもやっとなんだろう。

 この砦は行列の出来るお店じゃないが、非常に辛そうだな。


「だって私はもう……」


 ウォルバクの左手で押さえた右腕が闇に染まっている。


「……これからゾンビーズのリーダーにでもなるんですか?」

「失礼しちゃうわね。かなりの力が奪われたせいか、その反動で自分の半身に飲みこまれてしまうのよ」


 ちょむすけって肉食系だけじゃなく、実はヘビの化身だったとは……。


「だったらこのぬいぐるみをあげたら、どんな風に力を取り戻すんだ?」

「上空を舞って大空で『トランスス、フォームゥゥゥー!!』と叫んで、メイド服のコスプレを着た猫人間にでもなるのか?」


 俺の頭の中でバラバラだったブロックがメイドの姿へと積み重なっていく。

 別にバランス栄養食のPRじゃないからな。


「いいえ」

「私自らの魔力でその子を消し去るの」


 私は怠惰たいだかてにして、その子は暴虐ぼうぎゃくを糧にする。


 そう言ったウォルバクは影となった右手を赤く染めた。

 おいおい、そんなに染めたらクリーニング店でもおとせないぜ。


「幾分か昔に、偶然にも封印が破れた時に、その猫モドキは腹が減ったと大暴れしちゃって」

「その時にほぼ全ての食欲を奪い去ってから封印をしたんだけど……」


 うーむ。

 大食いのことは未知数だが、色々と理由があるから、ちょむすけを攻撃するかもしれんという果し状みたいなもんか。


 俺は冷や汗をかきながら、相手の出方を伺っていた。

 ちなみに万馬券は握りしめていない。


「お姉さんとちょむすけが封印から目覚めたときに」


 今度はめぐみんがお気に入りの杖を握りしめた状態でウォルバクの前に立つ。


「すぐそばに赤い目をした5歳くらいの女の子がいませんでしたか」


 紅魔族を知らん相手なら、その女の子は結膜炎なのかとツッコまれそうだ。


「さあ? 全然知らないわね」


 ウォルバクが明後日の方向を眺めながら、興味なさげな態度をとる中、めぐみんは寂しそうにウォルバクに目をやっていた。

 その表情が大人びた色っぽさを放っていて、少しばかり俺の胸がドキドキした。

(高血圧カズマ)


「なあ、ウォルバク。こんなにも話が通じ合えるのに、何で魔王軍なんかにいるんだよ?」


 ウォルバクが言いにくそうに下唇を噛み、荒い息をしながら、目線を下にやり、火照った表情を曇らす。


「その答えが知りたければ、私を倒すことね」


 おかしいな、俺の気のせいか、ウォルバクの様子が変だ。

 いや、そんな親ネコの観察日誌の真似事よりもだ……。


「……あんなあ、お姉さんもご存知だろうけど、俺の隣にいるめぐみんは爆裂魔法が使えるんだ」

「決着がついた後は片方が灰になって友好的に話ができる状況じゃないんだよ」


「……それもそうよね。ならば」


 気のせいか、ウォルバクが少しだけ笑ったような気がした。


「この場で消し炭になって、魂になって魔王に聞いたら教えてくれるわよ」

『ゴンッ!』


 悪戯げに白い歯を見せながら、ウォルバクが右手から炎の玉を生み出して詠唱を始める。


 しもうた!

 まだウォルバクには、爆裂魔法が撃てる魔力があるのかよ!?

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