第238話 この落ち込んだめぐみんに本来の目的を!!

「あのさあ、めぐみん……」


 俺は頭を悩ませながらも、ご傷心のめぐみんに言葉をかける。


「ちょっと酷いんじゃないの」

「おわっ!?」


 そこへ、いつになく無表情なゆんゆんが俺とめぐみんとの間に薪割りのように割って入る。

 ナタは持ってないが、俺の非常さに日頃大人しい彼女さえも怒らせたか。


「めぐみん、あの人はね」


 何だ、焦らすなよ。

 俺への反発心じゃないのか。

 驚いて支えていた腰が砕けそうだったぜ。

(泳ぐ石膏)


「あの人はね、魔王軍で幹部でもある邪神さんなんだよ」


 それはもう知りつくしている。

 お陰で脳内のセーブデータも満タンだ。


「あの人はね……紅魔の里帰りの私を買い食いに誘おうとしたちょっと悪めのお姉さんだったけど」


 何だ、コロッケとかの惣菜か何かか。

 その程度ならヌルいな、俺なんか学校帰りに新作のゲームソフト買って帰ってたぜ。


「真面目な私にはそれが嬉しくて、絵日記に書いて、下手くそな文章だけど想いは伝わるなあと何千回と推敲して読み返して」


 アナログで何千とか、消しゴムで消しすぎて紙が傷みそうだな。


「しばらくは買い食いに参加しなかったことを悔やんで、日々枕を濡らしたこともあったけど」


 悲しみで床を湿らせるとか、いかにもゆんゆんらしい乙女な設定だな。


 ──ふと、雷が落ちる暗雲の大地に映し出される、紅魔族グループ野菜戦隊ぶっころりーたちが格好いいポーズで立ち並ぶモザイク入りの画像。

 また至らんモノローグに引き込もうとする筆者の仕業か。


 いてなお、そのぼかし画像をバックにゆんゆんの言葉は続く。


 ──私たち、紅魔族は魔王軍に立ち向かうために博士に作られた最高レベルの魔法使いの選りすぐりのエリート軍団。


 どんなにワケアリな事情があっても、底辺カケル高さ割る二の二乗のように、魔王軍とおままごとのような仲良しごっこをする訳にはいかないと──。


 ──ゆんゆんは俺らから、くるりと背を向けて走りだそうとした所で不意に足を止める。

 何だ、何か人生の旅路の忘れもんか?


「あのお姉さんはカボチャの馬車の中でちょっとだけお茶会をした仲だったけどね」

「見知らぬ冒険者の手によって場外に張り倒されるくらいなら……」


 カボチャもお茶会も出し物だと思うし、張り倒すくらいなら別に良くね?


「おっ、おむすびの、わっ……、私がぁぁ……!」


 それは小結じゃないのか?


 元相撲力士ゆんゆん(勝手に命名)は泣きながら、今度こそ止まらずに廊下を走り去っていく。


 あんな清楚可憐な女の子を泣かせるとは、このめぐみんめ……あれ、なんか表現法がおかしいな?


「なー……」


 めぐみんが足元で切なげに鳴いたちょむすけを抱え、ぺったんな胸に押しつける。

 彼女は影のある顔つきで唇をきつく噛み締めていた。


「めぐみんは……どうすんだ?」

「えっ?」


 俺の何気ない一言で生気を取り戻すめぐみん。 


「俺はさ、数学の二乗にも、それなりの事情も知らないけどさ」


 ちなみに初めてもまだなんで、純情な感情さえも知らない。


「お前さん、あの次女的なウォルバクと何か関連性があるだろ?」


 俺はロビーの方向へと歩きつつ、ここはあえて、めぐみんをしっかり者の姉にしておいた。


「このままママのフリしたパパ活共に退治されておしまいでもいいのかよ?」


 冒険者のパパ共は手加減というものを知らない。

 子供の世話はもう一人のパパに任せっきりだ。

 おいおい、正統派王道異世界ファンタジーなのに(嘘つけ)中身はBL小説かよ!?


「相手も反撃の手は緩めないし、もしあのお姉さんがちょむすけを狙うんだったら、俺たちも危うい状況なんだぜ」


 俺は立ち止まり、腕を組んだまま、その場から一歩も動きもしないめぐみんに本心をぶつける。


「このまま他の冒険者がウォルバクにトドメをさしてもいいけどさ」


 多少雲が多めな青空の下、砦の建物と俺たちのハートに明るい日差しがさしてきた。  


「紅魔族ってヤツらはカラスのように、美味しい部分を残さず拐っていくもんなんだろ?」


 俺の台詞にめぐみんがハッと我に返り、勇ましい顔つきに戻る。

 そうだ、いつも太陽のように明るい君に暗い顔は似合わないぜ。


 さあ、乾ききっていた心は取り返した。

 狂いきった魔女っ娘による戦いの再来だ。

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