第237話 このワケありなめぐみんに慰め役を!!

『──ズササササッー!!』


 ゆんゆんのテレポートで砦の廊下に体ごと滑り込む俺と紅魔族二名。


「カズマ、これは何事だ!?」


 たまたま廊下にいたダクネスが驚いて駆けつけてくる。

 後ろに居たアクアは状況を理解せず、のほほんとしていたが……。


「まあとにかく、強豪ウォルバク相手に逆転スリーベースヒットからのホームインで助かったけどな」


 野球球児ではなく、引きこもりゲーマーだった俺は床にあぐらをかいてダクネスとアクアに事の真相を打ち明ける。

 ゆんゆんは大きなため息をついてその場で女の子座りをしていた。

 めぐみんはいつにも増して無表情の正座だ。


「なんだと、あのウォルバクと真っ向に戦っただと?」

「ああ、もう少しで爆裂魔法をシャワーのように浴びる所だったぜ」

「ゆんゆんのテレポートが間に合わなくてガチでやばかったんだけどさ……」


 すすと泥で汚れた服を纏いながらも乱暴に頭をかく俺。


「偶然ポケットにあったチョークサイズのダイナマイトを着火させて、そのすきに逃げ出してきたんだよ」

「えっ、ねえねえカズマさん、そのチョーク何たらのダイナマイトって……」


 金魚鉢先生ではなく、生徒役になりたそうなアクアが俺の話に珍しく反応する。


「それさあ、この前作った私の自信作のアイテムよね? そのアイテムであの女神もどきを倒したの? どう考えても私のお陰よね?」

「そうだぜ。お前がつまらん手品とやらで貴重な一本を駄目にしたアイテムだよ(第216話参照)」


 俺はシラケた顔で腕を組んで、この駄女神の詐欺手品には今後とも関わるまいと心から思った。


「……まあ、それで助かったのは事実だけどな」


 俺はウォルバクがそのダイナマイトでどうなったかまでは知らない。


「でも……やっつけたかまでは不明だな」

「あれくらいの火力で魔王軍の幹部を葬れたら苦労はしないけどな……あいっ?」

「なーっ」


 いつも以上に惚けた表情のちょむすけが大きく鳴きながら俺のひざに乗ってくる。


「おうおう、自分からノッてくるなんて、今日のお前は絶好調だな」


 俺はちょむすけを抱き抱えて、猫科に見えるちょむすけを猫のようにあやす。


「やっぱりもう半身のお前が身近にいるからなのか?」


 めぐみんが立ち上がって里親のように様子を伺う中、ちょむすけはただ鳴いてみせるだけだ。


「……すみませんでした、カズマ」


 俺はちょむすけを抱いたまま、めぐみんのか細い声に耳を傾ける。


「あんなにも自信げに大威張りをしてモンスターの宴会場に行っても、いざ、あの敵を相手にしたら爆裂魔法を放てず、誠にすみませんでした……」


 めぐみんが顔を沈めたままで小声で謝ってくる。

 俺は超能力者じゃなくて心は読めないが……。


「なあ、めぐみん。お前さん、あのお姉さんとワケありなのか?」


 俺の何気ない言葉にめぐみんがハッとなり、細い眉をへの字に曲げる。


「……それは言えないです」


 そして小さく震えながら泣きそうな顔になるから困ったもんだ。


 ヤベエ、しまったあああー。

 乙女の心に障る地雷を踏んじまったかああ。


 でもさ、どう思考回路を広げても、あんだけ狂犬乱舞なめぐみん閣下が躊躇ためらいの表情をしてるんだぜ。


 何か隠し事をしてることは確かだよな。

 何もない方が逆におかしいだろー!


 どうすんだ。

 めぐみん泣いちゃいそうなんだが!

 おい、お前ら、何かめぐみんの機嫌が良くなりそうな言葉か、お菓子かでも投げかけて……、


 あっ?

 お前ら、無視するんじゃねえよ。

 さりげなく目を逸らすなよな!


「──おい!」

「こっちに向かって来てる女ってウォルバクてヤツじゃあ?」


「なっ、何だって!?」


 俺は外の様子を把握するため、ヤモリのように窓ガラスに体ごと貼り付く。


 遠方の草原から歩いてこっちに向かってくる赤い髪の女性。

 体はあちこち薄汚れてるのに無感情な態度に心が凍りつきそうになる。


「おおっ、天下無敵なウォルバクがボロボロの状態だぜ!」

「マジかよ!?」

「何でも俺らと同じ転生者の佐藤和真さとうかずまがやったようだぜ」


 俺の名を皮切りに一気に部屋の空気の流れが変わり、ザワザワし出す。


「ヒューヒュー。やるじゃねーか、兄ちゃん!」 

「アクア様から聞かせてもらったぜ。あんた何も武器とかは頂戴してないんだろう? 凄いよな……」


 アクアが転生させたチート持ちの二人が耳元で話しかけてきて、ウザいの何たら。


 でも左右の耳からお褒めの言葉を受けても釈然としないんだよな。

 あれだけべっぴんな女性を傷だらけにして……。


 いやいや、燃えない家電ゴミじゃないんだ、つまらぬ情けは捨てろ。

 俺がやってないと確実に命を奪われる所だったんだ。

 人としてやられるくらいなら、正当防衛でやって当然なんだ。


「でもさ、ウォルバクのヤツ弱ってるようだし、俺たちでも余裕で倒せるんじゃね?」

「「「あっ?」」」


 冒険者の戦士が窓を見ながらポツンと呟いた一言に周辺の冒険者たちが、ふと顔を見合わす。


「よっしゃー、これは天使がくれた大いなるチャンスだ。行くしかねえな! 魔王軍の部隊だって全滅寸前なんだからさ」

「セクシー女優さんのような美人さんだけど、相手は俺たちを脅かした破壊魔だからな!」

「そうだ。そんな甘い言葉を叫んでる背後から体を押さえられて、永遠のお別れとかもあり得るからな」

「おーい、まだ戦える勇敢な者は戦の準備をするんだ!」

「うおおおおー、やったるぜー!!」


 冒険者や騎士連中の士気が高まり、次々と砦から出ていく。


「何なに、色々と酒のツマミになるような戦いになりそうね。いい加減、塩にも飽きてた所だし、ちょいと私も行ってくるわ」

「すまぬ、私も司令官の立場として現場を伺わなくては……」


 シラフでも酔いどれなアクアがすたこらと寝床を後にし、ダクネスに至っては無言のピースサインで俺に『あとは頼んだ』な合図を出す。


 おおい、お前ら、ちょっと冷たくねえか?

 この泣きそうな状態のめぐみんを俺に押し付けるなんて!


 今までの生き様が軽かったんで、こんな重たい空気は苦手なんだぜ……。

 正直湿っぽいのはゲームの物語だけにしてくれよー。

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