第235話 この宿命となるお姉さんに爆裂魔法のお返しを!!(3)

「おっし!」


 魔力切れで顔からぶっ倒れて死んだめぐみん(生きてる)はさておき、俺はめぐみんが爆裂魔法を放った巨大な土地が炎上するのを持ち前のスキルで感知する。


「今日はこんなもんだろう。とっとと帰っていつもの打ち上げやろうぜ」

「……そうですね」


 俺が威張って腰に手を当ててニヤける側から、ゆんゆんが緊張した面持ちで出来たばかりのさら地を眺める。


 あいつらも根性なしだな。

 初めの頃は我こそが勝機を掴むと、砦にガンガン二日酔いの如く反撃の巨人してたが、今となってはやる気もなくて隠れるのに精一杯。

 だがあの宴会場を見捨てず、魔王の元に帰らないのが謎であり、背徳感すらも覚えてくる。


「あの……、カズマさんも立派な魔王軍の兵士みたいな口振りですね」

「そうかな。でも俺的には平和主義者(嘘つけ)だし、そろそろこの戦いも何事も無かったように自然消滅させたい気分なんだがな」


 ゆんゆんのテレポートで砦に戻り、俺はめぐみんをおんぶしたまま、ゆんゆんにクールビューティーモードで会話を繋ぐ。


「逃がすものか、あいつらは憎き敵、根絶やしにしてやるうぅぅ……」


 背中におぶっためぐみんがブツブツと物騒な術を唱えているが、きちんと日本語変換可能な内容で……ヤンデレじゃないみたいだな。

 でも気になる点としては近頃のめぐみんがおかしくなってきてる所か……。


 無理に興奮気味なのに何もかも悟ったような修行僧の振る舞いで……いつもと変わった様子だが……。


 まあそれは物置部屋に置いといてと。

 ウォルバクも壁を叩きにクラッシャーよろしくしなくなったし、すでに勝ったようなもんだし、後は時間が経過するのを地道に待とうかな……。


 ──次の日、山頂の朝日を三人で拝みながら、気合十分のめぐみんが崖の上で口を開く。


「あれれ? どうしたことでしょう。魔王軍の連中が全滅寸前で目標の敵が確認できません」

「目標ロスト、私のレベルアップに貢献してくれる優しいモンスターたちがいないなんて……」


 あの冷酷非道なめぐみんが杖を片手に何かしら戸惑っている。

 昨日、あれほどやつれていて、次の朝にはこの復活シャキーンな様子。

 ニワトリの鳴き声じゃあるまいが、元気が良いのは良いことだ。


「あのな、お前の自衛隊ごっこのためとか、レベル上げを手伝ってるわけじゃねえから」


 俺は腕組みしながらも、崖下の悲劇な状況を見渡す。

 まあ、ここまで月の月面のようにボロクソに破壊すれば安全圏だし、ほっと一安心か。

 今頃、砦を守っている冒険者や騎士団たちにここを占領させ、この場所(月面?)に勝利の赤旗をぶっ刺せば、何もかも終わるはず……。


「爆裂魔法で吹っ飛ばせないのは惜しいですが、大人しく家路に帰りますか……ゆんゆん嬢、テレポの用意をしたまえよ」


 いや、めぐみんよ、明らかに平静な顔で凶悪なこと言ってるけど、もうやってることは絨毯爆撃だからな。


「あらあなたたち、こんな所でピクニック気分かしら」

「ああ、家に帰ってランチタイムだぜって、あれ?」


 ピクニックと言う単語に俺たちが振り向くと、そこにはいつもの朗らかさはなく、ゆっくりと近付いてくる極悪人面のウォルバクがいた。


「ようやく見つけたわ。あなたたち、好き放題にやり過ぎたわね……」

流石さすがの私もここまでされたら黙ってはおけないわ……!」


 うおっ、ウォルバクとこんな所でバッタリしちゃうとか、天国の花嫁以上にヤベエだろ! 

 今の俺、手持ちが少なく、プルタブの指輪しか持ってないんだが!?


「今回はあの詐欺師の女神? はいないみたいだし、存分にやれるわね」

「……と本来は言いたいんだけど、私にしてはあなたたちとは戦いたくないんだけどね……。気兼ねなくサクッていこうかしら」


 ウォルバクの言葉の影からサクサクとした殺意を感じる。

 このままでは俺は製菓工場に運ばれ、ギョロちゃんのように体をチョコでコーティングされる切ない運命だ。


「ちょ、ちょっとタンマ!」

「俺もお姉さんとは世界大戦はしたくないんだ」


 俺は両手を振りながら、何も武器は手にしてない人畜無害さを主張する。 

 今日の運勢最悪な俺なんか相手しても名犬ラッキーにはなれないぞ。


「だってさ……!」


 こうなったら覚悟を決めるしかないな!

 俺は腹を括り、ウォルバクから顔を思いきりそらす。


「お互いに素肌を見せ合って、混浴風呂に入った関係だから!」

「「はい!?」」


 二人の紅魔族の女子組がワンオクターブ高い声を出す。

 お前ら同族だからって仲良く共鳴してんな。


「あの、カズマさん。どういうことですか?」


 色恋沙汰に免疫がないゆんゆんが、落ち着きのない動きで俺とウォルバクを交互に見やる。

 勝手にお花が咲き乱れた脳内で恋人さんいらっしゃーいなカップリングすな。


「あなたね、こんな緊迫した雰囲気であのことを赤裸々に語らないでくれる……」


 ウォルバクが頬を赤らめて照れ顔で俺の方を見る。

 そんな彼女はまさに乙女のようだった。

(いえ、乙女です)


「「ええっ、ホント!?」」


 またもや綺麗にダブる紅魔族の叫び。

 お前らな、いくら俺が未経験とはいえ、失礼にもほどがあるぞ。


「あのねえ、あの紅魔族の子たちに変なことを思わせてるみたいなんだけど……」


 ウォルバクが真っ赤な顔で俺の意見を否定する。

 いや、俺への選挙券を提出してないお姉さんには拒否権はないぜ。


「ムフフ。お姉さんとは立場が違えど、二回も風呂に入った仲であって……」

「俺のことを『他人とは思えない……』とか好きな素振りを見せる問いかけ(第223話参照)

をしてきたりと、風呂よりも熱い関係なだけで……!」


「ええ、確かに言ったわよ! 一緒にお風呂にも入ったわよ!!」


 ついに自身の愛を認めたのか、俺の発言に投げやりになるウォルバク。   


「まあそれよりも、あなたの素性を探らせてもらったわよ!」


 えっ、そんなに俺のことが気になります?

 俺は真剣な目つきになったウォルバクから目をそらせない。


「ベルディア、バニル、ハンス、シルビア。この四人の名前に心当たりはないかしら?」

「うーん、そんな果物の幹部で食あたりしたことはないし、やっぱりあんたとは戦いたくないぜ」


 例え、敵同士でもこんなお姉さんを傷つけたくない。

 か弱い女の子に手を出すな(ウソつくな)って、おとんに何度も言われたからな。


「あなたはその程度でも私には冗談で済まないのよ」

「私の半身も取り戻したいし、その上、幹部を四人も倒して……まるで一国を守った勇者様の絵本みたいな響きじゃないの」


 あのさ、突然、マジ顔で何を言ってんの、この人……。

 必殺技は物を盗むスティールだし、最弱な職業の勇者とか格好悪すぎるだろ。


「それにね、あなたの名前を知り、さらに私はあなたを見逃すわけにはいかなくなったわ」

「ふーん。そんなウソッピな絵本は読んだことないけど、その絵本での勇者の名前はなんて言うんだ?」


 俺はパーティーの前に出て、お姉さんの至らぬ誤解(妄想?)を解くのに忙しい。


「相変わらず誤魔化すのが上手いのね。遥か昔の物語りだから覚えていないかしら?」


 ウォルバクが両腕を組んで、揺るぎない冷めた表情で俺に問いかける。


「そうよ、絵本に出てくる勇者の名前はサトウ」

「あなたと同じ名前でサトウというのよ」


 ああ、砂糖なら天然の甘味料だから、その辺でもいくらでも売ってるけどな……って言ったら瞬時に首が飛ぶだろうか。


「こんなにも特徴的な名前で偶然とか信じられないでしょ。それとも何、己の力量が怖いのかしら?」


 あのぉ、言いにくいんだけど、サトウって俺の居た世界ではトップレベルの多さの名前なんですがぁぁぁー……。

(心から出せない日本語)

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