第234話 この宿命となるお姉さんに爆裂魔法のお返しを!!(2)
大きな森がそびえ立つ地平線。
めぐみんは自身に満ちた顔つきでマナタイトの杖をターゲットに向け、高らかな声で例の魔法を繰り出す。
『エクスプロージョン!』
額に一本角をつけたノンアルをがぶ飲みしていた兵士と一緒にポテチを食べていた二本角の戦士。
お互い前線で居座り、色々と世間話に夢中だった。
その二人の魔族がちょっと気になって後ろを振り返ってみると……。
『ドオオオオオオーンー!!』
激しく光る閃光、襲いかかる紅の大爆発。
二人以外のお仲間さんも熱と爆風で跡形もなく吹き飛び、宴会場は地獄と化した。
「なっ、何が起こったんだ!?」
一本角の魔族がスルメイカを口にくわえたまま、驚きのあまり声も出ない……いや十分出てるか。
ああ、比喩表現って難しい。
「て、敵襲だぞおおおっー!!」
林となった場所から黒い煙が上がり、大きな衝撃による円がクッキリと残っている。
「おい、あそこの崖を見てみろ!」
兵士の一人が尖った赤い爪先を目の前にある高い丘に向ける。
丘のてっぺんには女の子をおんぶした青年と何やらポーズを決めるのに忙しい女の子の三人がいた。
「こりゃ、確定だな」
「ああ、あいつらが魔法を放ったんだ!」
『テレポート!』
例の三人組はモンスターと目が合った瞬間、その丘から瞬時に魔法で消えた。
「はあ、これだけ派手にやって戦わねーの?」
二本角の兵士がその場で立ち尽くす中、近くでうつ伏せに倒れていた傷だらけの兵士が問いかける。
「隊長さん聞いてよ、オレさあ、これでも結構、生命線長い方なんだよね……」
「……永遠に寝てろ」
****
流れる青空に身を委ね、サボテン人間が外壁と調和した、見事にあっぱれな砦のロビーにて。
「よっしゃ、作戦成功だ!!」
確実な手応えを感じ取った俺は、嬉しさのあまり熱く拳を握る。
「奇襲攻撃完了。あのモンスター共に二泡吹かせて(ノンアルビール?)みせたぜー!!」
「「「うおおおおーっ!!」」」
冒険者たちが俺の報告に拳を上げ、喜びの感情を表に出す。
「おい、魔王軍のモンスターがこちらに来たぞ!」
「凄く怒った形相でこっちに来てるよ!」
冒険者たちが慌ただしく身支度を整える。
こんな時におしるこ飲んでるヤツもいるが……汁粉も仏だな。
(知らぬが仏では?)
「おおっ、俺の思った通りだぜ」
「それではお強ーい冒険者の皆さん。後のことはお任せします」
「おうよ!!」
やる気100%な冒険者の男共が俺たちに背を向けて、外壁の方へと足を進める。
俺たちの出番はここまでだな。
ちょっと前までの軟弱冒険者たちと違い、今は外壁も問題ないし、あんな酔いつぶれモンスターよりも、こちらの方が守備範囲は格段に上だ。
「……ですが、カズマさん」
「ゆんゆん心配するな。みんなも今までの仕返しとばかりにイキイキしてるし、魔王軍の宴会場にも爆裂魔法をお見舞いしたんだ。酔いも回って陣形もバラバラだろうし、こちらが負けることはまずないさ」
「はい。そうですね」
でもこれで終わったと思うなよ。
本当の恐怖はここから始まるんだからな。
反撃の狼煙を上げる時間だぜ。
一方で主戦力でもあるめぐみんは魔力切れで部屋の隅で仰向けに寝転んだまま、飾りっ気のない天井を虚空な瞳で眺めていた……。
──そして次の日から、三人の逆襲が始まった……。
『エクスプロージョン!!』
『ズドオオオオーン!』
めぐみんの爆裂魔法で吹き飛ぶモンスターの集落。
「うわあああー、オレの天ぷら蕎麦がー!!」
「くっ、こんな昼飯時に来やがったな。逃がすなよ、あいつらを捕まえてミンチにし……」
俺は悪代官のようなギラついた目つきで、クールに状況を見下しているゆんゆんと一緒に心の中で笑っていた。
(ゆんゆんはそんなキャラじゃないだろ)
『テレポート!』
俺たちはその混乱に乗じて、またもやこの高台の丘から姿を消した──。
『──エクスプロージョン!!』
『ズドオオオオーン!!』
今日もめぐみんの最強な魔法が魔王軍の休憩兼寝場所を魔族ごと吹き飛ばす。
「ああー、トイレと水回りをやられちまったー!!」
「大の大人がうろたえるな。誰かウォルバク様を連れて……」
『テレポート!!』
こうやって毎日時間帯に関係なく、気が向いた時間に敵のアジトを奇襲し──、
『エクスプロージョン!!』
『ドオオオオーン!!』
『エクスプロージョン!!』
『ズガアアアーン!!』
昼でも夜中でも笑えないセールスマンのようにしつこく爆裂魔法で魔族のお家に叩き込み──、
「ククククッ。我の名はめぐみん。アクセルの街で生き残ったたった一人の大魔法使い!!」
「お前たち、今日も私の経験値の糧になってもらおうじゃないかあああー!!」
レベルがガンガン上がっていくめぐみんが、頭がおかしい下品な笑いをしながら、魔法で攻撃を続けていくと……、
「もう、こんな生活嫌だ。降参する!!」
「オレらが悪かった。ここは見逃してくれ!」
敵さんは俺らカズマ一行を目にしただけで泣き言になり、土下座して謝るようになった。
「なあ、一度話し合わないか! 俺とあんたたちは話せば分かるはずなんだ!」
「オレの差し入れの茶菓子でも食うか? お茶もサービスするから命までは狙わないでくれ!」
「おうよ。三歳の愛娘を捨ててまで戦う覚悟なんて……」
「……めぐみん、抜け殻もだが、情けも捨てろ」
「はい、マスター」
召喚獣めぐみん(違う)は杖を置いて、その場で帽子を深く被る。
「おい、武器を手放したぞ!」
「ああ、理解してくれたぜ。気高き紅魔族のお嬢ちゃんがこんな一方的な叩き方とかするはずがないもんな!!」
『エクスプロージョン!!』
『ズコオオオオーーン!!』
そう、爆裂魔法は魔族の生活ライフさえも炎の爆風でなかったことにする。
「……フッフッフッ。魔族は一人残らず焼却な運命なのですよ……」
魔力が尽き、地べたに顔を付けたままの姿勢で語るこの小娘は最早、悪女と言ってもいいだろう。
その後も言うまでもなく──、
『エクスプロージョン!!』
『ドコオオオーン!!』
『エクスプロージョン!!』
『ガコオオオーン!!』
『エクスプロージョン!!』
『ズガアアアーン!!』
めぐみんの怒り狂った爆裂攻撃は続いて──、
『エクスプロージョン!』
『ジャイアーンドコーン!!』
おい、この爆音だけは違うだろ。
人様が親身になって説明してんのにふざけんなよー!!
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