第233話 この宿命となるお姉さんに爆裂魔法のお返しを!!(1)

「あっ、あのお姉さん!」


 ウォルバクが帰ろうとするのを背に、ゆんゆんが声をかける。


 私、ハイシー。

 ビタミンシーじゃなくて、私のお姉さんになってくれ的な。


「私のことはご存知ないですか? その……私の名前はゆんゆんなのですが……」


 あのコミュ障のゆんゆんが必死に引き止めると、ウォルバクは首だけをそちらに向けた。


「……ええ、覚えてるわよ」

「馬車をヒッチハイクしながら一緒に旅をしないと誘った子でしょ?」


 ゆんゆんの熱意ある言葉に対し、これとなく無表情で語りかけるウォルバク。


「あなたのそのゆんゆんとか言うのもニックネームとかじゃないのよね?」

「はい、これは紛れもなく本名です!!」


「あの……遠い昔に私を誘ってくれた時、馬車の座席の地面から足元まで、赤い絨毯を敷いてくれたことは永遠に忘れません!!」


 そりゃ、いくら族長のおさ希望でも、そんなお嬢様扱いされたら忘れられんよな。

 この異世界でも地面にレッドカーペットを敷く習慣とかあるんだな。


「あの日の出来事なのですが、きちんと絵日記に書いて、何度も読み返してる日々です! 出来れば、これからもより良いイベント作りに……」

「そう。でもそんなに深く捉えなくていいわよ。半分は興味本位だったし」


 ゆんゆんもボッチだからって大変だな。

 よく聞いてみると、ウォルバクとの育みを絵日記のダシに利用しようとしてるし。


「あの、すみません!」


 今度はめぐみんが家に帰ろうとしたウォルバクを呼び止める。


 おい、お姉さんだって色々忙しいんだぞ。 

 子供の戯言だったら、その小さな鼻を洗濯バサミプラス2倍で挟んでやる。


「私のことは覚えてるでしょうか?」

「私の名前はめぐみんなのですが……」


 ウォルバクはそんな一生懸命に問いかけるめぐみんに横顔を向ける。

 何だよ、お姉さんもツンデレゲームみたいな身の振り方(態度では?)は止めろ。


「……あなたのことなんて覚えてないわよ」


 そのままめぐみんと視線を合わすことなく、無言にてテレポートで消えるウォルバク。


 めぐみんは切なそうな表情でちょむすけと一緒に、背中が寂しそうだった相手を見つめ続けていた……。

(幻影か?)


****


 ──雲の動きが緩やかな青空が広がる砦。

 アクアの力技で完全修復した外壁。

 あれからウォルバクの攻撃がない今、砦内のロビーだけがやたらと賑やかだった。


「おしっ、じゃあ、今回の作戦の再確認だぜ!」


 俺は教壇に片手をつけて、集まった冒険者たちに任務を伝える。

 詳しい内容はこうだ。


 まずは俺とめぐみん、ゆんゆんの三人は俺の潜伏スキルで敵さんのアジトに乗り込む。


 そして、敵さんの魔法が当たりそうな位置まで接近し、問答無用で爆裂魔法をぶっ放して、そのままテレポートで帰り、お前ら、いい夢見ろよ、さようならという計画だ。


「だが、相手もただやられるだけの馬鹿じゃない。敵が反撃してくる可能性も大なので、俺ら三人が留守となるこの砦を中心に奴らを退治して頂きたいのだ!!」

「「「ウオオオオオオー!!」」」


 俺は腕を組んだまま、冒険者たちの歓声をビールのように浴びる。

 めぐみんは伏し目がちに格好いいポーズのまま固まり、ゆんゆんは照れながらも冒険者たちに熱い期待のまなざしを送っていた。


「そうか。今までウォルバクがしてきたことをそっくり真似してやり返す戦法か。いかにもカスマが考えそうなことだが……」

「ヤツらにとっては驚異となる攻撃かもな」


 ダクネスが腕を組んだまま、俺に対する目線が冷たいような……カスって酷くねーか。


「おうよ。こんな不利な展開から相手さんの動きを鈍らせている状態にしてるんだ。俺たちも大人しく耳を塞いで床下で怯える生活とはおさらばさ」

「うむ。怯えるどころか、張り切って壁を修繕してたような……」


 それで爆裂魔法に耐性があるダクネスと、支援、回復、おまけに壁の修理ができるアクアをこの砦にて待機ということにする。


「ああ。例え、お前がいなくても頑張って砦を守り抜くぞ!!」


 なあ、ダクネス。

 それだと俺が死に急ぐような感じじゃねーか?


「よっしゃー、サトウカズマ頼まれたぜ!!」


「俺たちの明るい未来を取り戻してくれ!!」


 冒険者たちの威勢のある応援が俺の生ハムな心を強くする。

 今なら心臓に毛が生えてもおかしくない。


「おう、任せろ! 目には目を、ハムにはハムを(歯では?)だぜ」


 俺は服の袖をめくり、二人の紅魔族を引き連れて部屋を後にした──。


 ──カズマさんが前を堂々と歩く中、私はめぐみんの元気のなさに不安を感じていました。


 マナタイトの杖を握り、もの悲しい顔のめぐみん。

 やっぱりあのことを気にしてるの?


****


 ──草原を踏み、野を越え、さらに林を抜け、ヤツらが居住する森の住処に来た所で足を止める俺ら一行。


「あの集落で間違いないな」


 モンスターたちはウォルバクの奇襲攻撃で難なく攻略できると余裕の様子なのか、完全に宴会やっちゃってるな。


「うっしゃ。めぐみん。アイツらがどんちゃん騒ぎしてる中でドカーンとぶっ飛ばしてやろうか」

「思う存分、爽快飲料のようにやってやれ」


 杖を前方に構えためぐみんが俺の前に出て、モンスターの集落へと見据える。


「……はい、了解です」


 心なしか、元気がないようだが、ちゃんと飯は食ってきたか?

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