第232話 このウォルバクの意外すぎる真実に聖なる女神の天罰を‼(5)

「それよりもあなた、その黒猫をちょんすけって?」

「ちょむすけです。お姉さん」

「そうそう。変な名前で可哀想な飼い主をもったのと同類にされて嫌だろうと思ったけど、最近はそれもありかなと思ってね……」


 ちょむすけが口をポカンと開け、瞳を大きく開いたまま、女魔術師二人の攻防を見守る。

 いや、ただ腹が減ってるだけかもな。


「おい、失礼なお姉さんよ。私が付けた最高傑作のネーミングにケチをつける気か!!」


 めぐみんのやわな脳みそが火を吹いた。

 吹いた先が日本海なら新しい大陸が出来そうだ。


「どうしてそうなるのかしら!?」


 アクアとめぐみんが不思議そうに慌ててるウォルバクを見つめている。


 おい、お前ら、この際だからガツンと言ってやれ。

 もう取ってるから、新聞の勧誘ならお断りと。


「ちょっと黙って聞いてくれる?

その子は女の子なのよ……だからちょみすけっていう名前は良くないと思うのよ」

「ちょみすけではなく、ちょむすけです。今は私の使い魔の職に就いていて、同時にペットでもあるちょむすけなのです」

「なっ? ペットってどういうつもりなのよ!?」


 ペットと聞いて動揺してるみたいだけど、ペットボトルのフタじゃねーぞ。

 いい大人なのに、感情の開け閉め出来てるかー?


「元は私の半身なのに、今ではこんな酷い目に遭っていて?」

「半身……半身浴?」


 半身と聞いたアクアの耳がピクリと反応する。

 半身浴どころかおバカな水の化学反応に侵されたか。

 水の女神の哀れな末路だな。


「なるほどね。あんたの神のレベルが底辺だと思っていたら、この猫モドキに大半の力を奪われているみたいね。リアリー?」


 所々に生えた雑草を気にもせず、その大地に足を踏みしめ、ウォルバクの前に堂々と立ち塞がるアクア。


「ほおほお。シ○ーロック・ホームズが憑依した推理の目で見てみたところによると……」

『シャー!』


 睨みを利かしたアクアに、酒の肴にされて、頭から食われてたまるかと威嚇をするちょむすけ。


「……この猫モドキには封印のようなオーラが漂ってるわ。おまけに国宝級並みの強度ね」


 そうか。

 飛行機雲のようにキーンと来たぜ。

 名探偵ピーナッツな俺の推理が正しいのならウォルバクが捜し続けていたメンバーが……!


『シャー!』

「なっ、ちょむすけ暴れないで下さい!?」


 突然、めぐみんが腕に抱いていたちょむすけが尖った歯を剥き出しにし、前足を回しながら抵抗する。


「おい、めぐみん。

ちょむすけの親はお前なんだ。何があっても離すなよ!」

「はいっ!」

「最悪、肉巻きおにぎりになってもいい! 体中を縄を縛ったようにガッチリとちょむすけを押さえつけとくんだ!」


 俺はパーティーの前に出て、みんなを守り抜く体勢をとる。

 そう、真のリーダーなら美味しい所はかっさらってなんぼさ。


「はあ、あなた一体!?」


 両手を広げてめぐみんとちょむすけを守る俺。

 そんなお姉さん通行止めな俺の激しい抵抗にウォルバクが戸惑っている。


「なっ、何のつもりよ? その子は私の半身であって、久々に会う親子のような涙ながらの再会でもあるのよ!」

「……フッ。わたくしたちのちょむすけと晩食を共にしたいのも分かるが、そちらにホットに返品してほしいのか。てんてこ舞いでもお綺麗なお姉さん?」


 俺は軽く髪をかきあげた後、その片手を前髪に添えて、クールビューティフルモードにチェンジする。


「だったら条件がある。俺たちに中立を誓い、砦を占拠するのも辞めてもらえないか?」

「ただでさえ強いあんたがこれ以上強くなって破壊神のゴリラみたいになったら、それこそ後始末が大変だろう?」


 俺は片目をチラつかせながらウォルバクにセクシー光線を送る。

 フッ、他愛もないぜ。


「「「えー……」」」


 いつもの俺のメンバーの動きが半眼のまま止まっているが……。


「おっとっと。これ以上は寄ってくるなよ。闇討ちなんてもってのほかだ」


 それはさておき、俺はウォルバクの前に大きく手を向ける。

 暗殺や毒殺とか滅殺(カンスト)を恐れてだ。


「俺はあんたが嫌いではないが……俺の言うことを大人しく聞いていた方が半身の身のためだぜ。己の力を返してほしいんだろ?」


 瞳を閉じて、いかにも紳士的な姿勢でレディーなウォルバクを悩殺じゃなく……説得にかかる。


「フッ。邪神と名乗る体たらくなつもりなら、その地位を俺に渡して、もう俺たちには喧嘩は売りませんと、この前で跪いて誓ってもらおうじゃないか。ケケケケケーッ!!」


 貪欲な家畜のような卑しい顔つきでウォルバクの前に手の平を差し出し、友好の握手を求める俺。


「「「うわっ……」」」


 あれれ?

 冒険者の皆さん、もしや俺の発言にヒイてます?


 いやですね、この対応は意気地なしと思われて不意に攻撃されないための作戦であって、これは演技であり、本当は人畜無害の好青年(嘘つけ)であって……!


「あの……、邪神に痛い目を遭わせるとか言っておいて、この人の方が邪神に見えるんですけど」

「まあアクア。コイツもそれなりに交渉をしてるつもりなんだろう。見ているこっちも可哀想だが、あまりツッコんでやるなよ。

……だが、人して見たら発言は人間以下だけどな」

「カズマさん、優しそうに見えて、実はそんな最低な人だったなんて……」


 周りの冒険者だけでなく、俺の後ろからもアクアやダクネスによる批判の声が漏れている。

 あの純粋無垢なゆんゆんまで誤解させちまったあああー。


「くっ!!」


 すると、俺の迷演技に参ったのか、ウォルバクが固く拳を握りしめる。


「今日はこの辺で戻るけど、あまりふざけた態度はとらないことね!」


『こうなればヤケになって持久戦よ』と口走りながら、やたらと興奮エキサイトしている。

 ヤバいな、ちょっと水と肥料をやり過ぎたか。

(雨とムチ、別バージョン)


「ジワジワと外壁を攻撃し、あの壁の落書きごと壊し続けてやるんだから!!」


 ウォルバクが指さした先の壁に描かれた、目鼻の穴がついたサボテンだけが、俺らの状況を中立的に眺めていたのだった……。


 おい、アクア画家。

 今さらだけど、何で陽気過ぎたサボテン人間のイラストにしたんだよ。

 シリアスで潔い雰囲気が一瞬でゼロじゃんか……。

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