第231話 このウォルバクの意外すぎる真実に聖なる女神の天罰を‼(4)
『カンドコーンー!』
核弾頭を放ったみたいな、もの凄く激しい轟音がして、休憩中の部屋を容赦なく震わす。
その振動に木の窓枠が外れそうに動き、丸テーブルにのった熱々コーヒーの入ったティーカップもカタカタと小刻みに揺れる。
俺は木椅子に腰掛けても対して気にせず、足を組み直してコーヒーを口に運ぶ。
やっぱブラックはめっちゃ苦いな……。
「やれやれ、本日もウォルバクの爆裂魔法騒ぎと来たな。これは教官(ホントは盗賊)からの強制命令である。アクアボランティアレスキュー隊出動せよ」
「オッケー、了解されたわよ!!」
アクアがタンクトップの腕をまくり上げて、出陣のコテを高々と上げる。
「おおっ、左官屋の親方!!」
「左官屋の親方、今日もよろしく頼みます!」
「左官屋の親方、その素晴らしい手さばきを是非とも見せてもらえますか」
「左官屋の親方、その技のキレ愛してるぜいいー!!」
砦の外に集まっているアクア左官屋のファン=冒険者たち。
駆け出しの剣士や、僧侶のように頭を丸めた魔法使い、奥には大きな声でアクアを推してる応援までもが響いてくる。
「みんな、今日も左官屋の神憑り的な仕事技を見せつけてあげるわよー!」
「おおーう、お願いします!!」
──外壁の正門の脇をついた東側の壁に爆裂魔法で大穴が空き、黒い煙がじんわりと吐き出されていた。
「フーン。この程度の壊れ方なら、ものの数分で修繕可能よ。みんな、後学のためにちゃんと見てなさいよ」
「「「イエッサー!!」」」
──ウォルバクの爆裂魔法で破壊された砦の壁が息をつく間もなく、左官屋アクアの手によって修復されていく。
そうして輝きを取り戻したビフォーアフターに、砦を守っていた冒険者たちは喜びのダンスを披露していた。
お前ら、この際だから、伝説の踊り子のおっさんが装備してたこしみの着けるか?
「やるじゃねーか。アクコップ二世。手慣れた
「砦を守るアク弁慶だけのことはあるぜー!!」
なあ、弁慶コスプレで料理のアク取りはいいんだが、いくら無尽蔵の体力で左官屋さんをこなすからって、ロボット警察映画のキャラ呼ばれはないだろ。
まあ、本日もアクアはプロみたく丁寧な修繕をするから良しとするか。
「心配して損しましたね。あの時の悲劇のヒロイン気取りは微塵のかけらもありませんね」
めぐみんも本当にミジンコ好きだよな。
「ああ。徹夜して魔王軍幹部徹底対策の書類作成をしていた私の苦労は無意味だったな」
ダクネスもそんな暇があったら洗面所の掃除くらいしろよ。
コイツら、魔王軍幹部が手も足も出ないからって、酔っ払い=七色の滝を毎日トイレで召喚し放題なんだぜ。
甘酸っぱい青春はともかく、酸っぱい青春は入らないつーの。
──アクアが左官屋の親方と連中から名指しされて数日後……。
魔王軍女幹部のウォルバクは暇を持て余してるのか、毎日この砦の壁に爆裂魔法をふっかけたが、めげずにアクアが綺麗さっぱり直してしまったため、砦を守る壁は次第に強固さを増していき、進撃のネズミでさえも侵入することは難しくなった。
そうやって亀の甲羅のように安全圏を維持しつつ、テレポートを使用できる魔法使いが王都を中心にあちこちに飛び交い、騎士による応援集団も、爆弾オニギリなどの支援物資も貰いたい放題となり、陰湿だった砦は蘇ったゾンビのようにではなく、活気に満ち溢れていった。
さらに美人でデキる親方とみんなから女神のように(本物の女神だが……)崇められ、調子にノッたアクアが酒をメンバーに奢りまくった挙げ句……。
このように『どんな壁補修なら任せろ、腕利きの勝者の親方に』というテーマを添え、笑顔で10分で現場に駆けつけます的なキャッチコピーで呼ばれるまでとなった。
俺自身、何言ってるのかよく分かんね。
「──そうだな。俺の目からしても、このままアクアを左官屋さんとして働かせた方がいいかもな。花鳥風月じゃ稼げんし」
俺は両手を頭に回し、ハロー○ーク求人みたいなことを呟く。
「最近は不意打ちの攻撃も少なくなったし、俺もアクアの飲み仲間たちと飲んで飲みまくろうかな」
一方でめぐみんとダクネスは年頃の娘の働きぶりを垣間見て不安そうだな。
「うーん。何か微妙なんですよね。どうも平和感が漂ってきませんし……」
「めぐみん、それは同感だが、もう一応平和みたいなので安心してもいいのかもな」
「……だと良いのですが」
めぐみんは不安を拭えない様子で壁の先を見据えていた。
そのバッターボックスの先に進撃の星はあるのか……。
──その後も爆裂魔法の襲撃はあったが、壁は何ともなく、塗り壁はスッキリタフデントな存在となり、全ての壁のリフォームをしながら、壁にふざけた顔のサボテンのイラストを描くようなコミケ行事みたいなことをやっていると……。
「ついにウォルバクが正門から来やがったぞ──」
そうか。
やっとのことで、爆裂魔法でちょこちょことした塩辛い攻撃に(塩対応)飽きたか。
「あなたたち、ふざけないでよね!?」
「ああっ、俺はいつも真面目だが?」
ウォルバクの鬼気迫る顔つきに思わず身をひいてしまう俺。
「違うわよ、オレじゃなくて、壁のことよ!!」
「私が徹底的に壁を壊してたのに何で何ともない作りなのよ!? しかもこの前ここに来た時よりも頑丈になってるし!!」
「おまけに変なサボテン人間なんて壁に描いてるじゃない!!」
ウォルバクのマシンガントークは勢いを増す。
必殺技じゃあるまいし、ストレスポイント溜め込み過ぎだろ。
「失礼な。サボテンターは鋼鉄な肌のドラゴンにも究極のダメージをあたえる超エリート植物だぞ……とアクアがな……」
「ちょっと、ま、またあの女なの。毎度ながら私の邪魔ばっかりして! 毎度お騒がせ隊のつもりなのかしら……!」
アクアの名を聞いたウォルバクが苛立ちを見せる。
見た目若いし、まだ更年期障害じゃねーよな?
「あれれ、こんなところに何の用。真っ赤な髪のトナカイさん」
白いシャツの腰に両手を当てたアクアが、サンタウーマン(ウォルバク)をてんで使えない小動物を見るような目つきでニヤけてみせる。
「何度言ったら分かるの!! 私の名はウォルバクよ!!」
ウォルバクが『ヘッポコ平凡神が私の努力が水の泡じゃないの!』と睨んでいると、アクアが『水の女神なんで、洗剤のすすぎ残しは許さないわ!』と強く主張する。
「ほんとヘッポコ神め。あなたとはここで終止符をうった方が良さそうね」
「望むところよ!!」
今、アクアとウォルバクの睨み合い合戦異世界バージョンが始まろうとしている。
お前ら、普通に戦えないのか?
「あっ、ちょっといいですか……」
めぐみんが二人の間に絡むと、腕に抱いていたちょむすけと目が合うウォルバク。
「えっ、そんなことって……」
「どした? 忘却に置かれたトナカイ?」
アクアとの会話は上の空か、無反応な黒い猫もどき相手にウォルバクの動きがピタリと止まっていた。
「あんたね。いくら羨ましいからって、めぐみんのちょむすけを哀れんだ目で見ないでよね」
「なっ、何言ってんのよ!」
ウォルバクにしては珍しく、動転しながらも外壁の方へ目を反らす。
「あれれ、そんな美人系の大人なふりして、実はファンシーなぬいぐるみが好みなのかしら? これいくらで落札するの?」
「そんなわけないでしょ。でも可愛いのは認めるわよ!!」
そうか、可愛いって認めちゃうのか。
結構、歳いってそうだけど、中身はピュアピュアハートな女の子なんだな……。
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