第229話 このウォルバクの意外すぎる真実に聖なる女神の天罰を‼(2)
腕を組んでこちらを見下すウォルバクの鋭い気迫に飲まれ、いつもの俺のメンバーは言葉も出なかった。
ああ、面目ない。
そんな最悪な
アルカンレティアの温泉で魔王軍の幹部のハンスとタメで会話していた時から関係者だってことに気づいていたし、あの時ハンスがこのお姉さんをウォルバクと呼んでいたような……。
何でこんな重要な記憶を忘れてたんだろう。
あの気兼ねなく話しかけてきて談笑した優しいお姉さんのことを、どうしても敵だと認めずに脳内で封印していたのだろうか……。
「お姉さんこそ、ここで何をやってるんです? お風呂が好きなお姉さんじゃなかったんですね?」
「……そうね、あなたには名前を言ってなかったわね」
お姉さんが片腕を上げて語り出す。
自身の名はウォルバク。
魔王軍の幹部の一人、
「カズマ、お前が言っていたお姉さんというのはこの女のことなのか?」
「……」
それ以上は言うなダクネス。
男は背中で語る時もあるもんよ。
「あの、お姉さん、俺はお姉さんが魔王軍の関係者とは薄々と気づいていたんですよ」
「それで聞きたい質問があるですよ。お姉さんは悪人面をしてないし、何で魔王軍側に付いているかって……」
「……さあ、勘違いも
黄色い眼光を見せながら挑発の対応をするお姉さん。
このお姉さんに
でも、俺はこのお姉さんとの想い出も繋がりも大切にしたいし、何より戦いたくない。
それなのに決闘をやるしかないなんて、神様なんて非情に包まれた固まりだ……。
「ねえ、ちょっと聞き捨てならないわね」
相変わらず空気読めんアクアが二人の問題に茶々を入れる。
「さっきから意味不明な暴言を呟いて、シリアス染みたな空気を見せつけちゃってさ!」
「確かに神としての器がありそうな態度だけど、怠惰と棒切れを集める女神って何よ!」
アクアの悪ふざけのない正当な返しに俺もお姉さんも黙っていた。
あのハズレクジのアイスの棒なんて、持っていても価値観ゼロなんだけど……。
「言いたいことは、ちゃんと言葉にして伝えないと、この物語りの校正の人たちも大変なのよ。書籍にしたいのなら、もっと心に響く言葉を選びなさい」
「そして、きちんと言葉を練り直して、次回から真っ当な邪神として、名乗りでなさい!」
「……はあ?」
この分だと、ウォルバクがアクアの話についてこれないようだ。
そもそも女神という名で発音された異世界語すらどうかも怪しい。
「あなた、私は怠惰と暴虐のイメージを持つ汚れきった邪悪な者に聞こえるかもだけど、元はちゃんとした女神をやってて……」
「ピピー! と黄色いホイッスルが鳴ったわよ。この女神、出会い頭から嘘ばかり並べているわね!」
ドミノ倒し一日会長でもないのに、そんなしょうもないもん並べてどうするんだよ。
「この世界で正当に女神として活動してるのは私とエリスの二人だけなのよ!」
「さあ、ここできっちり謝って! 清楚で清純な女神に、自分はそれでも女神という嘘の言葉で罵ったことを謝罪して! 自称嘘つき女神さん‼」
「ちょっとさっきから何なのよ、あなたは!?」
お姉さんは熱く語り始める。
昔はちゃんとした女神だったことを……、
……だが、魔王軍に入ってからは一転し、アクシズ教団とよく分からない変な輩たちに邪神として任命されたことを……。
「あんた失礼ね、ウチの信者の子を変な輩扱いしたわね!」
「それにこんなにも有名なアクシズ教団をバカにするなんて、本当に神のつもり?」
「ウォルバクなんて貧相な名前、女神として何年過ごしてきても聞いたことがないわよw」
「なっ、人の身をして神を侮辱するなんて信じられないわ‼」
これまで冷静だった大人なお姉さんの表情がガラリと変わる。
そうさ、このアクアな性悪な性格に耐えられるヤツなんて早々いない。
俺のパーティーの頭がおかしいだけさ。
「あんたねえ、そんな他人事を呟いてるからいつまでも女神としての地位が並盛りのままなのよ!」
「私の名前はアクア。アクシズ教団が崇めている唯一無二の水の女神アクア様よ!」
「ちょっと顔とスタイルがいいからって、聞いたこともないへんちくりんな女神が私をバカにするなんて失礼にもほどがあるわよ!」
コイツ、自らもインチキなのに、また女神とか言ってやがる……。
歳がバレるといちゃもんをつけ、写真付きの身分証明書は持ってないみたいだが……。
「……あなた、証拠もないのに勝手に神とか言ってると天罰が下るわよ?」
「きいいいぃー! 言ってはならないことを! な、何よ! 今すぐ謝りなさい! 天罰とか言ったことを謝って!!」
「ちょっと気安く触らないでよ。私自らが天罰を与えるわよ!」
休日に目が覚めても何もせずにゴロゴロと布団の中で惰眠を貪り、
「女神はトイレにはいかないからそんな罰なんとも思わないわ!」
「何よ! 私だって毎日自堕落で暇な日々なんだから、あんたの罰なんて何とも感じないわよ!」
二人の神による因縁の対決が始まった。
この二人はこのまま野放しにした方がいいかもな。
触らぬ女神に祟りなしだし……。
……というか、めぐみんよ、爆裂魔法はどうした?
詠唱はとっくに終わってるはずだろう!?
「このインチキ女神さんには、水の女神の新鮮な力を見せつけないといけないみたいね!」
アクアが右手から
日頃のコイツを見慣れてる人には、ただの宴会スキルの花鳥風月にも見えるんだが……。
「なっ! この溢れ出る力……本物の水の女神なの!? 頭はすこぶる悪そうなのに」
ウォルバクがアクアの前から少し遠ざかり、アクアから距離を置く。
「あんた、邪神の分際で調子に乗らないでよね!」
「ウチの子たちみたいな清く真面目な心の信者もいないくせして!」
アレで真面目な信者とか言うお前さんはイカれてやがる。
「うるさいわね! 邪神の呼び名になったのもあなたによる信者のせいじゃないの!」
「魔王軍にはちゃんとした考えを持った信者がたくさんいるわよ!」
「あなたなんて……」
ウォルバクが声のトーンを落としてボソリと言い放つ。
「──女神エリスとは違い、腑抜けた存在感の紙(神)切れなくせして」
そのウォルバクの痛恨の呟きに、アクアとウォルバクがお互いに無言の睨みを利かせる。
『セイクリッド・クリエイト・ウォーター!』
『ザッバーン!』
『テレポートォォォー!』
先に行動に移したのはアクアだった。
彼女の強力な水魔法が周囲を満たしたと同時にウォルバクは瞬間移動でこの場から身を消した……。
そりゃ、逃げたくもなるよな……。
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