第228話 このウォルバクの意外すぎる真実に聖なる女神の天罰を‼(1)
翌日、砦の近くにある森の場所から木の枝によじ登り、お得意の盗賊スキルを発動させる。
「へー、あんな所にまで魔王軍が来ているのか」
どんなモンスターかまでは分からないが、ここから見ても大勢いるのは判別できる。
あんなに大漁に押し寄せてきたら、マグロ漁船沈没……じゃなくて壁のない砦なんてひょろりと乗り越えられてしまうな。
俺は木から下りて状況をパーティーに説明する。
みんなウォルバクから逃げないで戦う意思を俺にくれた。
その命知らずな想い、無駄にはしない。
まあ、死んだら死んだでその時だ。
「それでだな……めぐみん」
「聞いた話によるとウォルバクは爆裂魔法を撃つときはお一人様限定なんだ」
「随分とコソコソした姑息な攻撃ですね」
「ああ、いかにもお子様ランチが好きそうなネズミ女のようなヤツだよ。そこでこんな作戦があるんだが……」
まず、潜伏スキルを使って、この辺に身を隠し、いつでも攻撃できる体勢でウォルバクを待ち続ける。
そのまま相手が素通りするならめぐみんの爆裂魔法で粉砕。
だが、そこで気付いた場合はゆんゆんの光を反射する魔法でめぐみんの姿を隠し、アクアの支援魔法を受けたダクネスが前に出る。
その直後に俺とアクアもダクネスの後ろから躍り出て、『ライジングサーン!』と体をくねらせて叫び、ダクネスのフォローをしながら、敵の隙を作ることに専念する。
めぐみんは頃合いを見て相手を殺れると思ったら、俺たちのことは気にせず、いつでもドカーンと放て。
仮に消し炭になっても、遺書なら砦で書いてきたから心配は入らないぜ。
「これで俺からの作戦は以上だ。偉大なる魔女っ
「いえ、よろしくお願いします」
めぐみんが気合いのこもった返事をする。
「カズマさん、ちょっといいかしら?」
「おう、空気読めないアクア嬢」
「ええ、私の勝手な意見なんだけど、誰でもいいからこの猫もどきを守るメンバーも決めたらと思うの」
「なー!」
アクアの言葉に反応して鳴いた小さきマスコットなちょむすけが勇敢に草原を歩いている。
「だってさ、こんなにも可愛く癒し系な命を無駄に散らすわけにはいかないじゃない」
アクアが少し前を歩いていたちょむすけを抱き抱える。
「グルル、ガブリ!」
「きゃっ、いっ、痛い!!」
その行為に怒ったちょむすけがアクアの腕にフライドチキンよろしくのようにかぶりつく。
「ねえ、真剣に痛いんですけど!」
「ギー!」
「他のみんなには大人しいのに、私だけかじられるなんておかしくない!?」
アクアが泣き叫び、かじられてない片腕を振りながら、その場で絶望な痛みを体で表す。
本当に何でコイツだけなんだろうな……。
「ギィィィー!」
しかも、今日は興奮しまくりで部屋で留守番させようとしても付いてきたし……コイツ何でだろうな……。
「ギィィィィー!」
ゆんゆんが見かねてちょむすけを抱き、豊かな美少女の腕の中に収まったちょむすけだったが、ご機嫌は変わらず、泣きべそで歯形のあとをさするアクアに向かって、今もなお、威嚇を続けていた。
「まあ、これで準備はオッケーだな。後はウォルバクが来るのを待つだけだ」
俺たちは森の草むらに息を潜めてしゃがみこみ、今にも崩壊しそうな砦の外壁の様子を伺っていた。
「ねえ、カズマ。私、腕が震えてきたんだけど」
「お前、この期に怯えて武者震いかよ。あんだけドスコイ、横綱お嬢! と叫んで張り倒すって言ってたじゃんか」
「そこまでは言ってないわよ」
「似たようなもんだろ……って待て!」
「……ヤツが来やがった」
紫の魔法使いのローブに身を隠した相手が原っぱを歩いて接近してくる。
暑そうなフードに隠れ、風貌までは分からないが、その唇は弧を描くように微笑んでいた。
「ほんとにノコノコと一人で来たな」
ノコノコ亀さんよ、俺たちウサギの頭脳に勝てると思うなよ。
「遠くから攻撃の主導権を握り、さらに爆裂魔法を放ったらテレポートで逃げの手なんざ……」
「いやらしくて卑怯な手口だ。真っ向から堂々と戦えない嫌な女め」
「それをお前が言ったら終わりだぞ」
隣に一緒に屈んでいるダクネスが珍しく毒気を呟く。
「めぐみん、今の内に詠唱をしとけ。向こうさんがこちらに来る前に攻撃して一瞬で塵にしようぜ」
「……今、堂々と戦えない嫌な相手と言っておいて、その発言ですか」
「まあ、いいとしましょう。出来ることならダクネスには爆裂魔法を喰らって犠牲になって欲しくありませんし」
「いや、私は囮として喰らうことも本望だと感じてだな……」
ダクネスが恥ずかしげに目線を泳がせながら新たなプレイに胸を喜ばそうとする。
「いや、めぐみん。ちょっと待てよ!」
そんな騒ぎの中で俺はあることに気づく。
潜伏スキルをかけているのに相手がこちら側に顔を向けたのだ。
「まさか、あの女はすでに存在に気づいてる!」
「なっ、そんなはずは!?」
ダクネスがビックリして俺の首を絞めようとする。
仲間割れは止めんか、敵はあっちだぞ。
「知らねーよ。でもこっちに寄って来るぞ。めぐみん早いとこ、看板メニューな強力な呪文を唱えろ!」
「あいつが先手を撃つ前にお前の魔法でダメージを与えるんだ」
「はい、任されました!」
めぐみんが杖を天に掲げて、呪文の構成を練り始める。
「フー!」
「きゃっ、どうしたの!?」
荒い息遣いを発し、ゆんゆんの腕にいたちょむすけが急に暴れ出す。
この生き物もヤツの魔力を恐れたのか。
「ダクネス、アクア! 緊急の作戦変更だ!」
「俺たちはめぐみんが呪文を発動するまで時間を稼ぐぞ‼」
アクアが『えー、恥ずかしいな、ライジングなんちゃらもやるの?』と言いながら重い腰を上げる。
お前もすっかりおばあちゃんだな。
「ねえ、カズマさん。やっぱり私はもしものために安全に待機してた方がよくない?」
「あのなあ、今は緊急事態なんだぜ! 仮にも相手は邪神を名乗る神なんだ。お前くらいしか通じる相手はいないだろ!」
めぐみんとゆんゆんを残し、草むらから出てきた俺たち三人は迎撃の格好で待ち構える。
俺の紅魔族二人には指一本も触れさせないぜ。
しかし、その現状でも相手は俺の方だけを黙って見続けている。
「何なんだ、俺の方ばかり見て何もしてこない?」
「まあ、お笑い芸人向きな個性的な顔立ちだから、驚いて言葉も出ないんでしょうよ。ほら、アタシは黙ってるから、さっさとネタを披露して的な?」
「アクア、後で拳骨の刑な」
今はまだ殴り時じゃない。
こみ上げる怒りを抑えながら、俺は自身の闇と戦う。
「……あなた、ここで何をしてるのかしら?」
「えっ、その声は?」
ウォルバクがフードを脱ぐとショートカットの赤髪が風に揺れ、凛とした素性に黄色い瞳がこちらの瞳を捉えて離さない。
エルフみたいな尖った耳に額には赤い宝玉のようなアザもあり……頭の横からは羊のような二つの角が付いている。
この人は銭湯で一緒だった、あのスタイル抜群のべっぴんお姉さんじゃないか……。
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