第227話 この爆裂魔法を放っては逃げての幹部に撤退を‼

「ほほう。今のは中々の大きな揺れでしたね」

「この魔力のエネルギーからして、かなりの腕前による爆裂魔法であることは確かですね」


 めぐみんが口元に指を寄せ、渋い顔つきで己の得意気な魔法の話をする。

 こんな非常時に何考えてるんだよ。


「……いや、待てよ」


 俺は野生の勘を研ぎ澄まし、ドアの方へ近づいてめぐみんを誘い込む。


「めぐみん行くぞ、今のうちに魔王軍の幹部をギャフンと言わすんだ!」

「えっ?」


 これには予想外だったのか、めぐみんがパチクリとした目で反応する。


「カズマどうしたんです? あれほど戦わないと叫んでいたのに……」

「いや、冷静になれよ! これはチャンスでもあるんだ!」


 だから、脳みそを空っぽにしてよーく考えてみろよ。

 今、この爆裂魔法を放ってきたということは、今日はもう爆裂魔法を使える余力は残っていないはずだと……。


「カ、カズマ殿」

「カズマ様」

「カスマなのに」


 最後の一言は余計だが、俺の答えにメンバー全員が『スゲー』と言う驚きの目で見ていた。

 16半ばで事故死に遭い、高校もろくに卒業してないのにだぜ?


 ──そうさ。

 いくら幹部クラスでも爆裂魔法なんて強烈な攻撃を連続で放てるはずもないさ。

 あのウィズでもたった一回撃っただけでほぼ魔力が無くなったんだ。


 爆裂魔法さえ来なければ怖くない。

 この状況なら、今の俺でも余裕で倒せるかも知れない。


 外へ一人飛び出して確信した。

 真のハーレム王になるのはこの俺だと……。


 ──俺は軽快に地面に足を滑らして止まり、愛刀ちゅんちゅん丸を構える。

 現場の砦は爆裂魔法の衝撃により大きくひび割れて黒煙を上げ、凄まじい攻撃を受けた後が痛々しく残っていた。


「こりゃ酷い有り様だ。ほとんど壁の役割をはたしてないじゃんか……」


 壊れた外壁の周辺で兵士共が群がり、ワーワー言ってるのがちょっと気に障るが……。


「いや、今は野次馬の仲間ごっこをやってる場合じゃない。おい、ミツルギ訓練兵!」


 俺は近くにいた三流ミツルギ兵に声をかける。


「ミツルギ、魔王軍の幹部……ウォルバクはどこへ行ったか分かるか?」


 ミツルギが俺の存在に気づき、こちらに無感情に振り向く。


「ウォルバクならもう逃げていないよ」


 そう、ミツルギたちが苦戦している理由とは、ウォルバクの奇妙な攻撃だった。


 相手は酔っぱらいのようにフラリと現れて、遠方から爆裂魔法を撃った後、ミツルギたちが近寄る前にテレポートで消えていく……。


 さらに近くの森では魔王軍の選りすぐりの部隊が主を察して休憩所を作って待っており、そこに戻ってウォルバクが魔力を回復して、またやって来るの繰り返し……。


「だから……、仮にもウォルバクを追おうとしても大量のモンスターが壁となって立ちはだかるのさ」

「それに相手は森の地形を上手く生かしての攻撃が得意……こちらから先手に出ても確実に負けるというカラクリさ」


 でも、それが嫌だからと砦の中でひきこもりになっても、外壁が爆裂魔法で破壊されたら、魔王軍の優秀な部隊がゾロゾロとゾロ目にて土足で侵入してしまう……。


「くっ、あの女め、性懲りもなく、また逃げたな……」

「これじゃあ、この砦も長くは持たないぞ……」


 近くにいた戦士と魔法使いの言葉のやり取りを呆然と眺めている俺。


「そうだな。ウォルバクか、魔王軍の部下たち、どちらかがいなくなれば多少は楽になるのだが……」


 ミツルギさんよ、そんな無謀なことしたら、逆に俺たちの方が死んじまって楽にならね?

 俺の頭の中のある正義感という神経回路がプツリと切れた……。


****


「──よし、お前ら逃げるぞ」

「カズマ、懸命な判断ね。私もアクセルに戻ってゼル帝の寝床を作るのよ」


 作戦を中断する俺の意見にアクアがバタバタと大袈裟に両腕を振る。

 誤魔化しかしらんが、ホコリが舞うからストレッチ体操は外でやってくれ。


「あんな邪悪な化けもどきよりも素敵な寝床にゼル帝を育てて大きくすれば、幹部なんて一撃必殺でドカーンよ」

「ああ、そんな立派なニワトリになったら、真っ先に中華のシェフに頼んで唐揚げにするならな。じゃあ今回はここでしまいだな」

「まっ……、待つんだカズマ」


 ダクネスが混乱した様子で俺を止めに入る。


「私はこの砦の指揮権を任されたんだぞ?」

「なのに、やっぱ戦いはやめて早急に帰りますは流石さすがに……」

「はあ? お前こんな一大事に面倒なことをひき受けんなよ!」

「カズマが私の名前を引き出して大威張りしたせいだろうが‼」


 ダクネスが九官鳥のような狂った高い声を浴びせる。

 今のお前さんの狂いようにも呆れたもんだ。


「あれ? しかし、ゆんゆんがこの部屋にいないな?」

「ゆんゆんなら破壊された外壁を魔法で修理してますよ。ボランティア精神というものですね」


 困っている人がいれば、見過ごせない。

 人助けが人情な、あの娘ならやりかねないな。


「だったら私も前線におもむいて、怪我人を治療しなきゃ。腐ったトマトな紅魔族とは大違いよね」

「……アクア、腐ったトマトの紅魔族とは誰のことか詳しくお聞きしましょうか?」


 笑ったままのめぐみんの目から、殺気を感じる。

 アクアが腐ったトマトになる日は近い。


「そんなら俺だけ先に帰るからな。お前らもゆんゆんのテレポートで気をつけて帰ってこいよ」

「いやいや! カズマ、私たちはな……」


 ダクネスもしつこいな。

 指揮権よりも整理券を貰って、駄々が漏れないバリケードを買った方がよくね?


「カズマ、ちょっといいですか……」

「私にチャンスをくれませんか?」


 俺たちは砦の部屋にいたら大丈夫。

 めぐみんは自信タップリに断言した。

 単身となって、どこかに身を潜めて、ウォルバクを待ち続け、次に来たときは爆裂魔法を見事にぶち当ててみせると……。


「どうかお願いします」


 精一杯の気持ちを伝えためぐみんが大きく頭を下げる。


 ほんと、どいつもこいつも土壇場で変なスキルを発動しやがって……。

 まあ、めぐみんならそういう答えを出すだろうと薄々は感じていたけどな。


「……敵感知スキルに千里眼スキル。さらに潜伏スキルを持っている俺がいたらヤツへの勝算の確率は大きく上がるかもな」

「えっ、それって?」

「ああ、俺もついて来てやるから、敵が来たときはよろしく頼むぜ、師匠」


 めぐみんの暗く険しかった顔色がみるみると明るくなる。


「はい、了解しました!」


 彼女はヤル気満々の笑みで返事をした。


 さあ、戦いの狼煙のろしを上げるぜ!

 準備はいいか、異世界野草の乙女たち!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る