第226話 この今後の予定に関連がある紅魔族の決めポーズを‼

「ではみんなも揃ったことだし、今後の作戦を考えることにしようか」


 爆裂魔法の凄まじい惨劇を見た俺は緊急事態と称し、メンバー全員を自分の部屋へと呼び寄せた。


「カズマ、今後の作戦とは?」

「私はここの司令官に挨拶をして、魔王軍の幹部を倒したあなた方なら是非とも指揮権をお渡ししたいと言われてな」


 全くダクネスめ、余計な面倒ごとを持ち込みやがって。

 ここの宿限定で弁当には及ばない『面倒』という物の持ち込みは禁止にするぞ。


「いやな、ウォルバクという名の魔王軍の幹部は爆裂魔法を得意としてるようなんだ」

「なっ!?」


 めぐみんが驚きを表情に表しながら、俺の話を聞いている。


「えっ、ば……爆裂魔法ですか!? あの破壊力は半端ではありませんよ。どうやって戦えばいいのでしょうか……」


 ゆんゆんの言う通りだ。

 今回もいつものパターンでやれるだろうと思い、砦に身を隠しながら、広範囲に及ぶ爆裂魔法での宣戦布告を考えていたのだが……。

 相手も同じ爆裂魔法を使用されたら最悪の場合、相殺という形になって威力が半減してしまう……。


「心配はご無用だ!」

「私が囮になって相手が魔法を放つ隙をつくるから、その時に私もろとも爆裂魔法で吹き飛ばせばいい! 私は過去に爆裂魔法を食らっても見事に耐え抜いたのだから」


 ダクネスさ、威勢はいいんだけど、ドラゴンゾンビが『こんばんは!』した時にドタバタ騒ぎで大事な鎧を紛失しただろ。

 お前からアレが無くなったら何が残るんだよ?


「あのなあ、ウォルバクの爆裂魔法の威力は未知数で、アクアの支援魔法を身に受けても耐えれるか分からないんだぞ?」


 俺はダクネスを必死に説得する。

 今ここで貴重な弾除け……じゃなく大事なクルセイダーを失いたくないんだ。


「まあ、ここまでのんびりやって来たのはいいけど」


 アクアが『しょうがないわね……』と目を伏せながら、人さし指を立てる。 


「今回は邪神を名乗る相手だけど、私の寛大さに感謝して見逃してあげましょう。別にね、あの爆発の跡を見て怖くなったわけじゃないのよ」 

「名前もウォルバクとかいう聞いたことがない女神だし、私が突っ込むにはかわいそうと思ってね?」  


 アクアが俺に背を向けて、あるはずのない身支度を整える。


「そういうことで、じゃあ荷物を纏めてアクセルの街に帰りましょうよ?」

「あー、非常に残念で堪らないわ。ここで私の強力な力を思い知らす予定だったのに。誠に残念がっかり賞だわー」


 ここに爆裂魔法と聞いて、あたふたとうろたえる自称女神がいた。

 コイツが言うからに逃げは勝利へと繋がる道なのだろう。


「我が名はめぐみんである!」


 めぐみんが大きく声を張り上げ、メンバーがそちらに首を捻る。

 そんなん、みんなも読者も知ってるよ。


「アクセル最強の魔法使いで爆裂魔法を極めた者!!」

「魔王軍の幹部で勝手に邪神と名乗り出て、爆裂魔法を使うとは!!」

「今回の幹部こそ、私が真に追い求めていた『永遠のライバル』かも知れません‼」


 来たぜ、ここでいつものめぐみんの暴走劇が!


「ええー、本気なの!?」


 宿に来て、修学旅行気分に疲れていたのか、今まで大人しかったゆんゆんがようやく口を挟む。


「めぐみんのライバルと言えば私よね!?」

「見ず知らずの敵が勝手にライバルの勲章を得るなんておかしいでしょ!」


 ゆんゆんがめぐみんの襟首を掴んで、ゆさゆさと上下に激しく振り回すが、めぐみんは至って落ち着いていた。


「何のつもりですか? いちいち突っかかる暇があるならライバルに相応しい爆裂魔法を習得すれば早いでしょ」

「嫌よ、あんな燃費の悪く、使い勝手の悪い爆裂魔法を覚えるなんて!」

「何だとー!」


 爆裂魔法を巡り、久々に二人の紅魔族の争いが幕を開けた。


「爆裂魔法を使う相手なら自ら戦いを挑むのが本筋でしょ!」

「それに例え灰になって負けたとしても爆裂魔法で死ねるなら私的には満足です」


 めぐみんはさっきから暴走してるが、今回の敵さんはヤベエ部類に入る。

 たった一撃でパーティーがこの世から消失して、アクアの蘇生魔法も効かないから、今回こそは……。


「なら、即座に逃げるという選択肢で──」

「カズマ、バカを言ってる場合じゃないでしょ!」


 逆ギレしためぐみんの片手が喋りかけの俺のほっぺを強引に押さえる。


「こんだけの大物から真っ向勝負に挑まないなんてそれでも冒険者ですか!」

「相手は永遠のライバルなんですよ!!」

「いや、大物の魚もいいけどさ……」


 合宿授業みたいに強引に参加させるお前さんに、クラスメートと共通の話題が見つからないヒキニートの気持ちが理解できるか?


「私の使い魔ちょむすけを狙っている相手が!」

「なー!」


 めぐみんに名前を呼ばれたちょむすけが微妙に反応する。


「爆裂魔法を使いながら、魔王軍の幹部であり、邪神と妄言を吐くのならば!」

「そのウォルバクを張り倒して、そのままの称号のバッチを奪い取り、真の教官になるしかないですね!」


 お前さん、カッコつけて喋るのは勝手だが、言ってることは意味不明だな。


「いや、よく考えろよ。あまりにも危険度が高いだろ」

「先に撃った者が勝つという状況に賭け事をしても負ける率が高いだけだろ」

「それはどうでしょうか」


 爆裂魔法という沸騰ワードにめぐみんが俺の前でイキリ出した。


「私が好きな魔法、それは爆裂魔法」


 めぐみんが胸に手を当てて、マジ顔を決める。


「趣味、特技と言えば、爆裂魔法」


 持っている杖に祈りを籠めて両目を瞑るめぐみん。


「私と一言で言ったら爆裂魔法そのもの」


 めぐみんが俺から背を向けて、全身から見えないオーラを放つ。


「そうです。アクセルの街での爆裂魔法の使い手と言われると即答で答えられるのが私なのです!」

「私はこのときのために、この魔法を鍛え続けてきたのです!」


 それは筋トレの写真を丁寧に紙へとトレスするような感覚か?


「魔法発動までの速さに誤差のない正確さ! さらにこの強大な破壊力!」


 握りこぶしを胸に当てて自身に喝を入れるめぐみん。

 紅魔族という生き物はいちいちポーズを決めながら話さないといけないのか?

 記念の写真撮影じゃあるまいし。


「爆裂魔法で私に対抗できる相手なんて、私の周りには……いや、この世界にはいないと心から宣言できますよ!」


 めぐみんが首だけを後ろに捻り、片手で顔を当てたポーズでがっちりと決める。


「でもさ、お前、いつかのデストロイヤーを倒すときにウィズの魔力に完敗したよな?」

「ええ。でもあれはほんの昔話……」


 色々と話の動作に忙しいめぐみんが俺の正面へと体勢を戻す。 


「レベルが上がって爆裂魔法の威力を上げるスキルを覚えたのち、ウィズと爆裂魔法の勝負を幾度もして、見事に彼女の腕を上回りました」

「よってアクセルの街での最強の爆裂魔法の使い手は私に決定です」

「お前、よほどの暇人なんだな……」


 その威力に降参したウィズがにこやかな笑みを作りながら、めぐみんを褒めているイメージが浮かぶ。


「それから、寝苦しい夜とかも眠れるまで爆裂魔法を早く詠唱する練習をしていますし、相手が誰でも真っ先に発動させる自信があります!」

「お前な、間違っても寝床を爆裂させんなよ。最近は物騒だか……」


『ズドオオーン!』


 そこへ、喧しい音と一緒に俺のいる部屋が激しく揺れ、思いがけない感覚にメンバー全員が体をすくませる。

 ゆんゆんは半泣きになり、自称女神のアクアなんてガチでビビり、両耳を手で塞ぐ始末だ。


「これは何事だ!?」


 俺が景色を伺った窓の上からは無数の砕けた小石が降ってきて、向こう側の砦が黒い煙を上げて半壊していた。


「皆の衆、敵襲だぞー!!」

「幹部のウォルバクが攻めにきたぞー‼」


 そうこうしてる間に本当に幹部様が来やがったのか。

 まさしく今の凄まじい音と揺れは爆裂魔法そのものだったな……。

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