第223話 このお姉さんとの再会に運命ではなく、デレ顔を!!(2)

「ふひー、素敵な温泉ですね」


 俺は屋根付きの露天風呂に体育座りになり、隅っこで浸かりながら、同じ場所を共有しているお姉さんをジーと見つめる。


「そんなにビビらないで下さいよ」

「覚悟を決めて腹切り覚悟のつもりが期待外れであって、俺の仲間の変身かと勘違いしただけですよ」

「そうかしら? でも初対面に近いのに前触れもなく殺害予告をされたら、怖がるのが普通の反応よ」

「目が血走っていたし、殺気も思いきり感じたし……」


 お姉さんは体に巻いたタオルの上に腕を乗せて警戒しながら眉を八の字に歪める。


「そう怪しまないでも大丈夫ですよ。お姉さんのことなら記憶のお湯の底から思い出しましたから」

「アルカンレティアの温泉にいた俺がそのたわわをガン見していたら、泣きそうな目で救いを求めていたお姉さんですね? あれははっきりと覚えてますよ」

「だって紛れもなく大きかったですから」

「あっ……あのね」


 俺から数メートル離れた壁際にいるお姉さんは言葉を濁す。


「……言っちゃあいけないかも知れないけど、あなたとは会ったのは二回目なのに目の前で大きいとか言うのはセクハラのうちに入らないかしら……」


 明らかに困り顔のお姉さんに男として勘違いされたくない。

 俺はお姉さんに本音を口にする衝動を抑えて心の中で力む。

 確かにこんな裸同士の語らいでセクハラは良くないな。


「いえ、お姉さん。俺は真の男になったんです」

「もう自分という存在を隠すのはやめようと!」


 俺は浴槽から立ち上がり、片手を宙に捧げながら、木の洗面桶で男のシンボルを隠しながら神の洗礼みたいな高らかな声を上げる。


「自分の気持ちも誤魔化そうのもやめようって!」

「俺は男らしく、もう何も縛られることなく、自分の気持ちに正直に生きていいのだとー!」


 俺は目を白目にしながら、獣のように鼻息を荒くしながら、お姉さんに己の純粋な想いを伝えたつもりだ。


「それはとても良い言葉には聞こえるけど、こんな場所で言われると凄く身の危険を感じるんだけどね……」


 お姉さんが涙目になりながら鼻元までお湯に顔を沈める。

 ブクブクというお湯の音が俺の羞恥心を刺激する。


「所であなたはこんな所に用事でも? この辺は強いモンスターが沢山いるわよ」

「その体つきからして、あまり強そうに見えないけど平気なの?」


 おおう、突然の未知との女体の存在に脳みそが沸騰しそうだっだが、このお姉さんはアルカンレティアの温泉浴場でスライム野郎のハンスと一緒にいた人に違いない。


 ……となると魔王軍のお知り合いというわけで警戒しないといけないのだが、俺のことを心から心配してるみたいだし……このままガン見続行モードだ。  


「へっちゃらですよ。今回は若くて人材溢れる強力な助っ人の紅魔族がいますから」

「でも本音を言うと俺は来たくなかったんですが、仲間が泣き叫ぶのを見て、しょうがないなあってな感じです」

「お姉さんこそ、こんな所に何の用で?」

「えっ、私? 私はねえ……」


 お姉さんがタオルで体を隠しながら、星が煌めく夜空を見上げる。


「日頃の頑張りを称えて、自分自身のご褒美のために大好きな温泉に来たってことかしら……それから」

「自分にとって大事なパートナーを探している最中かしらね」


 お姉さんが目を閉じながら、湯船を満喫している。

 その感じだと銀河鉄道カップ○ターに想いを馳せてるな。


「……ということは星の王子様のようなロマン溢れる恋人でも探しているのですか?」

「別に恋人じゃなくて、力を封じられたもう一つの私探しというかね……」

「まあ、正直諦めかけてはいるんだけどね。フフッ」


 見つける前から諦めるとはどうしてだろう。

 俺の仲間に頭がおかしいけど、そっち系の事情に詳しいヤツがいるから相談してみますかと話を持ちかける。

 ちょうどこの宿に泊まっているしな。


「えっと、その人って紅魔族よね?」

「私はそういう系は遠慮したいから気にしないで」


 お姉さんが身じろき、一本ヒイたような面構えをする。

 めぐみんが聞いたら杖を掲げて逆ギレしそうだよな。


「そうですか? 愚痴くらいならいくらでも聞きますよ? 一応、相談無料ですし」

「あら、愚痴を聞いてくれるの? それじゃあ、少し昔話をしてもいいかしら……」

「どうぞ、桃太郎リメイクでもさるかに合戦のとんちでもご自由に」

「ありがとう。そうね、昔、紅魔族の里のある場所にて……」


 お姉さんのパートナーというか、邪神というか、紅魔族の里にその相棒が眠っていた黒猫のお墓があり、お姉さんと一緒に眠りから覚めた時に、その黒猫のストレスが爆発して暴走し、手がつけられなくなったらしい。


 そういうことでお姉さんの力により、再び眠ってもらったが、ある日様子を見に行ったら封印は解かれていて、相棒は何者かに拐われたということだけど……。


 あれ、どこかで聞いたような下りの話だが……。


「ちょっと、お姉さん」


 気になった俺は挙手をして、お姉さんに訊いてみる。


「その黒猫は空を飛んだり、炎を吐いたり怪獣ガ○ラみたいな行動をしませんかね?」

「ごめんなさい。意味不明だし、何が言いたいのかしら?」

「いや、俺の仲間の紅魔族が自分のペットの黒猫のことを邪神だと叫んでですね」

「えっ! 仲間の紅魔族がその黒猫を邪神と言ってるの?」

「まあ、そんな所でやんす」


 ……と言っても前世は破壊神だったと真面目に言うヤツだから、いつもの虚言だとは思うが……。


「そうなのね。その黒猫は怠惰たいだな人になついたりするかしら」

「うーん、俺に一番なついてきますが、俺自身は怠惰な生活は行っていませんね」


 俺は浴槽で体を崩してドンと構え、イケメンなまなざしでお姉さんの愛に答える。

 パーティーが結成して俺が一番よく働いてきたし、メンバーの中で常識があって、誠実な人間である保証はあるからな。


「そうなのね。それから狂暴性とかは見当たらない?」

「生まれたばかりのひよこに追い回されて、びくついて逃げ回るくらい臆病ですね」

「ありがとう。それなら人違いならぬ、猫違いね。その様子ならどうやら私のパートナーじゃないみたいね」


「それじゃあ、私はそろそろ上がるわね」


 お姉さんがタオルで裸体を隠しながら湯から体を上げる。

 俺の瞳がラッキースケベモードに切り替わる。

 猫のように光った俺の目は標的を外さない。


 おおっ、タオルごしでも出るところはちゃんと出ていて、しなやかな体つき。

 何てセクシーな裸体だろうか。


「一応お礼として忠告しておくけど、ここら辺は魔王軍との激しい争いが絶えない場所よ。調子に乗った山賊とかも出現するし」

「命あっての物種でしょ。こんな場所から逃げて王都に引き返した方が身のためよ」


 お姉さん、こんな俺でも心配してくれるのか。

 どこぞの飲んだくれの女神も見習えよ。


「いや、お姉さんのこと他人とは思えないんですよ。これはナンパとかじゃなくですね?」

「それは私もよ。あなたのことは他人のように見えないのよね」


 お姉さんが豊満な胸に片手を当てて、俺に問いかける。

 まるで前世で一緒だった恋人のように。


「ひょっとしたら私のパートナーにすでに会って世話をしてくれたことがあるかも知れないわね?」

「それじゃあね」


『パタン』


 引き戸の閉まる乾いた音が聞こえ、お姉さんは温泉から出ていった。


 おおふっ、最高にハイテンションだぜ。

 お姉さんの全てが見れて心から眼福だ。


「……あっ、ヤベエ。それよりも名前聞きそびれたな……」

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