第221話 このレアな生き物に救済を!!(3)

 辺りが闇で包まれた夜中、俺以外のメンバーが寝静まり、睡眠という欲望に取り残された俺は切り株に座りながらため息を吐いた。


 あー、カッコつけて見張りを引き受けたのもいいが、夜が長く感じるぜ。

 でもな、女の子に徹夜させるわけにはいかないし、俺も男という生き物だからな。


 ……だと言ってもやっぱりダリーな、熱々な温泉にでも浸かりたい気分だぜ。


「うん?」


 俺は気だるい想いを抱えながら、敵感知スキルでモンスターの気配を感じ取ってゆっくりと腰を上げる。


 やっぱり敵さんのお出ましか。

 こんな森が開けた草原の中、自由には寝かせてくれないか。


 ……ふむ、こっちに真っ直ぐに向かってる? 

 まあ、一番に目立つ火は消して暗くしてるし、メンバーにも一応、潜伏スキルをかけているから見つかりはしないと思うけど……。


「すやあ……もう、ケセン・パセリはそんなに大量には食べられないわよ……むにゃむにゃzzz……」

「いや、待てよ……?」


 背後にいるアクアの寝言からとんでもないことに気づかされる。

 もしやアンデッドモンスターで、アクアを目当てにして近づいていたりするのか?


『ズルン……ズルン……』


 何かを引きずるような大きな音を立てて、木々の間を移動してくる大きい影。


 そうだとしたらアンデッドに潜伏スキルは効果がない……だからといって、みんなを起こして戦うと他のモンスターが寄ってくる可能性もある。


 ゾンビやスケルトンの一匹や二匹くらいなら、俺一人でも後方から滅多打ちにしたら勝てそうだし……。


 ええーい、俺の冒険者ナンバーワンの実力をなめるなよ!


 ざわざわ、ざわざわ……。


 誰だ、ナンバーワンのホラ吹きと呟いたヤツはー‼

 モンスターと一緒に後ろからゴールデンハンマーでぶっ叩いてやる!

(今ならポイント2倍)


『ズーン!』


 物凄い音を立てて前足を踏みしめる影。


『ギャオオオオオーン!』


 月夜に照らされた四つ足の巨体は大きな叫び声を上げながら俺の前に姿を現す。

 俺を睨んだ瞳の片方は腐れ果ててねばついた細い糸が引いており、よく見ると体のあちこちが壊死しており、背中にはボロボロの羽が付いている。


 コイツ、噂の最強クラスモンスター、完熟して腐りきったドラゴンってヤツか?


「うわあああああー‼ みんな緊急事態だ、起きるんだあー‼」

「おっかなびっくりなドラゴンゾンビ様が出たぞぉぉー‼」


 ああ、神様、仏様、雷様、この俺に折れない心を下さい……。


****


 俺によるレスキューの要請から数分後……。


「ふふーん♪」


 アクアの鼻歌が静かに戻った闇夜に響く。


「所詮、ドラゴンゾンビなんて私の力の前ではてんで楽勝よ」


 アクアが『やれやれ……』と額の汗を袖で拭いながら、誇った笑顔を見せる。


「バカ野郎、このとんちんかん!」

「とんちん缶が何よ、缶はともかく、私の力で綺麗に浄化したじゃない!」


 アクアのターンアンデッドで頭の先から尻尾の先まですっぽりと浄化されたアゲアゲドラゴンが頭に浮かぶ。


「そもそもお前のアンデッドを引きつける体質のせいで、あんな恐ろしい化け物を呼び寄せたんじゃねーか!」


「それにダクネスはどうするんだよ。ちゃんとヒールかけとけよ」


 ダクネスが俺たちをドラゴンの攻撃から懸命に護ってくれたのはいいが、敵の激しい攻撃をその鎧のない私服に受け、ボロ切れのように地面に転がって気絶していた。


「でもダクネスは凄いわよね」


『ヒール!』

「ドラゴンゾンビの直接攻撃は生きているドラゴンの数倍の力を持ってるのに、生身にマトモに攻撃を受けても体は繋がったままなんだもの」

『ヒール!』


 クルセイダーとしてのがいい体に感心したアクアがダクネスの半身を起こして後頭部に何度も治癒魔法をかける。

 あんだけの大ダメージなんだ、そう簡単には全回復しないか……。


「とにかく、さっきのドラゴン騒ぎで他のモンスターも近づいて来てるんだ。ダクネスを背負ったら今すぐここから去るぞ」

「えー、こんな暗い森の中をダクネスも抱えて移動するの? 心身ともに女神のピンチなんですけど!」

「ブーブー文句を言うな。お前も暗視スキルが使えるだろ。誰のせいでこうなったんだよ。さっさと支度をしろ!」


****


「……それにしても」


 深夜の森を行き来する最中、アクアがダクネスをおんぶしながら一息つく。


「ダクネスっていつもの鎧も着けてないのにどうしてこんなにも重たいのかしら?」

「……ダクネスは筋肉の固まりのようなもんだからな。でも本人はこのマッチョな身体を気にしてるんだ。女神として生き延びたいなら、くれぐれもそのことを本人に言うなよ」


 俺はアクアの豆腐な頭に釘をさし、めぐみんとゆんゆんの両者の手を繋ぎながら前へと足を踏み出す。


 別にギャルゲー(美少女ゲーム)の王道なシナリオみたく、二人と仲良く初々しいハーレムデートに行くわけではない。

 そんなん現実にあったらゲームの醍醐味がなくなるしな。


「二人ともくれぐれも俺の手を離すんじゃないぞ。俺が暗視能力で先を見通しながら進むからさ」

「あっ、はい」


 ゆんゆんが恥じらいながら俺の手に少し力を込める。

 一方でめぐみんは女性を護るのは当然のごとく冷静で、澄ました顔で俺と手を繋いでいた。


「何かこんな真っ暗な道を歩いてるとカズマと二人っきりでダンジョンを探索したことを思い出すわ」

「あの時は暗闇に生じてカズマから『ええんかー!』とお尻を触られそうになって……」

「おいお前、実体験をねつ造した噂をぼやいてるとここに置いてくぞ」


 俺はアクアの嫌味による告白を難なく受け流す。


『ええんかー!』っていつの時代の人間だよ。

 愛という火起こしを覚えたばかりの原始人か?


 そうして黙々と歩いていると、めぐみんがクスリと笑い出した。


「このような危ない場所から逃げているのにどうしてこんなにも安心するのでしょう」

「うん? どうかしたか?」

「いえ、そんなに強いパーティーでもないのに、このみんなでいると何が来ても平気な気分になってきますよね」


 俺はめぐみんの心からの本音に自制心がちょっとだけ揺らぐ。


「……いいですね」

「私もカズマさんたちみたいな仲間が出来る日が来るのかな?」


 ゆんゆんが握っている手を眺めながら、羨ましそうに呟く。

 この子、毎回言うことが乙女だよな。


 それを見た不機嫌そうなめぐみんが俺の手に力を込める。


「まあ、それは無謀でしょう。ゆんゆんはまずは友達作りから始めませんと」

「なっなっ!?」


 ゆんゆんが泣きそうな顔をしながら、めぐみんの言葉に動揺する。


「お前な、こんなしんみりとした感動シーンに水をさすのはやめてくれるか!」

「水ではありません。これはトゲです」

「トゲもトカゲもどっちも似たようなもんだろーが!」


 そう、チョロチョロとツッコミを入れて横切る行為はトカゲの動きと変わらない。

 どうせ何かあったら尻尾を切って逃げるんだろ?

 尻尾フリフリと爆裂魔法を振りまく、ポケ○ンもビックリな火トカゲガールめぐみんめ……。

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