第218話 この王都の門に向かった俺の伝えたい事柄を!!(2)

「おい、ちょっと待て!」

「この男は平凡だが、後ろにいる連中には心当たりがあるぞ!!」


 兵士二人が俺の英雄伝説を無かったことにし、俺の後方で雑談をしてるメンバーに手を向ける。


「おおっ、間違いない!」

「あの小さい娘は爆裂魔法で魔王軍を根絶やしにしたアークウィザードだ!」


 めぐみんが目元に指を添えて、一丁前にカッコつけている。


「おい、隣にいるのはダスティネス様じゃないのか!」

「数々のモンスターの軍勢を先陣をとって戦いを引き受けたダスティネス様もいるぞ!」


 ダクネスが腕を組み、視線だけを兵士たちに向けて無言で口を軽く緩ます。


「あっ、あの青髪のアークプリーストも見覚えがあるぞ!」

「以前に魔王軍が街中を襲撃した時、冒険者たちに支援魔法をかけ、さらに怪我人に治癒魔法をかけて、色々と大活躍だったんだ!」


 アクアが横顔だけをこちらに見せ、悩ましげな流し目をする。


「それにプリーストの横にいるスタイル抜群の美少女は誰だ? 新入りのメンバーか?」

「胸もそれなりにあって、俺らと目を合わせたらキョドる一面とか、マジで正統派アイドルだよな!」


 ゆんゆんが照れ隠しに両手で顔を覆っているが、それがまた野郎共の心を惹き付けたようだ。


「そ、そうさ。分かってくれてありがたい。そう、俺たちはな……」


 俺は多少、戸惑いはしたが、メンバーのことを過去の激戦にて知ってもらい、心から兵士に感謝をすることにした。


「あっ、よく考えたらお前もいたな!」


 片方の兵士が俺に指をさす。

 おい、フォークでもないのに人様に指をさすのは少し失礼じゃないか。


「確か雑魚モンスターのコボルトにあっさりと殺された男だったな!」

「そうだった、思い出したぞ。『俺様は本調子だー!』とイキって前に乗り出してコボルトの群れにボコボコにされていたヤツだな!」


 俺の武勇伝が繊細なガラスのごとくひび割れ、身動きが止まる。

 こりゃ、嫌な感じに自己紹介されちまったぜ。


「おい、駄目だぞ。あんたは弱いんだからこんな場所に来たら危ないぞ。ここからは結構な距離があるが、まずはアクセルという冒険者の駆け出しが集まる街があるから、そこで地道にレベルアップの経験値を稼ぐんだ」

「そうそう、この辺りのモンスターは強敵だからな。それよりもお前さんはあのメンバーたちの荷物持ち担当の雇われ人か? 雑用係でも少しは強くないと、この先やっていけないぞ」


 兵士二人が俺の背中をポンポンとはたく。

 俺の服にゴミが付いてるとかじゃ無さそうだし、本気で俺を雑魚扱いしてるのか?

 まあ、それで話が付くなら悪い気分はしないが……。


「ありがとう、ご忠告に感謝するよ。それで俺らはプロの腕前を持つ戦いのスペシャリストな冒険者だ」

「リーダーである俺に……アークプリーストにクルセイダー、それからアークウィザードという強力なメンバーだ……」


 リーダーの部分だけを強調した台詞から、仲間の紹介には恐れをなして小声になるビビりな俺。


「ほお、それは頼もしい! あれ?」

「あんたがリーダーって言うことは奇抜な遊び人という職業な……」

「──それでだ。そんな最強な俺たちが最前線の砦の助っ人に立ち向かう」


 兵士の次なる言葉に強引に割り込んで、俺は状況を説明する。


「だけど俺たちは強いが、その砦までの道には不馴れなんだ」

「だから砦に一緒に行く予定の冒険者や兵士と一緒に同行させたらと思ってだな」


 キラキラと輝きながら、この上ない美少年の顔立ちでパーティーで一番目立って見せる俺。


勿論もちろん、道案内なんだからお金も取らないんだけど。どうかな?」


 俺の作戦とは、道案内を頼むと表向きに言ったふりして、仲間を増やして道連れ……じゃなく、人員を増やすという内容だった。


 歩いて二日で着くといっても、強いモンスターは山ほどいて、俺のパーティーでまともに戦えるのはゆんゆんだけである。

 ならば大物のマグロのようなフリをして、実は俺たちのメンバーを護ってもらおうというボディーガードのような口約束だ……。


「そっか、残念だが、それはできないな」

「砦にいる幹部の攻撃が予想以上に強くてな。今は怪我人の冒険者を退けている最中だ」

「へっ?」


 何か思っていたことと話が違うような。

 しかも最前線で戦っていた陛下や王子も避難したらしく、そんな危険な場所に行く変わり種の者なんていないと。

 俺はお子様のやる気を促すハンバーグの種にすらならないのか!


「まあ、道案内は出来ないけど、砦に向かえる地図とモンスターの分布を書いたマップをやるよ」

「普通の冒険者なら引き止めるが、腕利きなあんたらなら大丈夫だろう!」

「俺たち、影ながら応援するから、精々、頑張ってくれよ。えっと、確か名前はサトウカズマだったよな」

「冒険者ギルドのメンバーや、城のみんなにもきちんと伝えておくな!」


 鎧の男たちがピースサインをしながら、別れの挨拶をする。

 グリーンピースの豆ご飯とは何だ、他人事だと思ってふざけてんのか?


「サトウカズマを主力に迎えた勇敢な冒険者のパーティーが砦に応戦をしに行ったとさ!」


 その発せられた台詞に頭の中が雪のように真っ白に染まった。

 ひゅるりー、ひゅるりーららー。


「お前さんに全てを託すぞ! 前線で戦う仲間たちの足枷になってくれ!」

「そうだ! 前回のように魔王軍を倒したあんたたちなら力強い。みんなを救ってやってくれ!」

「よっしゃー、俺は吟遊詩人に転職して、王都の住民にこの出来事を語ることにするぜ! もうみんな聴いたら驚きのはずだぜ!」

「それじゃあ、皆さんよろしくお願いしまーすー! 暗くなったら夜道にもお気をつけてー!」


 こうして俺のヒーローマル秘作戦はいい感じにいかず、跡形もなく崩れさった……。


****


 ──巧みな交渉によって砦への地図とモンスターの出現マップを手にしたカズマご一行はお陰で迷うこともなく、森の中をズンドコと突き進んでいた。


「カズマも中々やるわね。見直したわよ」

「話の細部までは聞こえなかったけど、素人な冒険者の交渉術にしては立派ね」

「そうですね。あのカズマがこんなにもやる気を出すなんて意外でした」


 ちょい、これ何の冗談だよ。

 冗談という尾ひれが付いて、逃げようにも逃げられないし、完全に袋小路に追い詰められたじゃんか。


 砦の様子もすんごいヤベエ状況みたいだし、俺たちなんかの力で役に立てるんだろうか。

 逆に返り討ちにあって、今度は俺らの墓標が立ちそうだぜ……。


 青い空、白い雲、さよなら俺のパーティーよ。   

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