第217話 この王都の門に向かった俺の伝えたい事柄を!!(1)

「ハンカチオッケー、おやつのバナナもオッケー、荷造りもよし」

「補給食もたんまりで準備満タン、それではいざ王都へ向かおうじゃないか!」


 水戸光○公な俺はむき出しな迷刀ちゅんちゅん丸を留め具に挟んだ大きなリュック(刀が入りきれない)を担ぎ、いつものパーティーの元へと並ぶ。

 俺だけ荷物を気がするが、あまり気にするとになるからよそう。


「カズマ、あの変な棒は入っていないでしょうね? 見たら即効で投げ捨てますからね!」

「分かってるさ。もうあんなイタイ連続コンボは食らいたくないからな」


 ボコるだけボコられ最終的には捨てられるんだ。

 あんなめぐみんの滅殺技を受け続けていたら、例えコンポタ醤油味でもこの身が持たねえよ。


「それにしてもあれだけ嫌がっていたわりには気合い入ってるわね。どういう心境の変化かしら?」

「フッ、聞いて驚くなよ、アクア二等兵」


 俺は冷静になって物事を整理して考えた。

 するとどうだろう、負け知らずのギャンブルみたく、勝負に勝つ確率の方が明らかに高いことに気づかされたのだ。


「今から行く最前線の砦には、この国の優れた兵士や冒険者たちが集まってるからな。俺らに敗北の二文字はないのさ」


 そうさ……、

 砦には騎士団もいるし、俺のように転生してきた素晴らしきチート持ちもいるから、そいつらから身を守って、例の幹部が焦れったくなって射程距離に出てきたら、問答無用でめぐみんの爆裂魔法の出番だ。

 ありきたりな作戦に見えて、効果は絶大な作戦だと俺は思っている。


「……さらにだ」

「テレポートが得意なゆんゆんも来てくれるし、万が一のことがあっても大丈夫さ!」

「わ、私、一生懸命頑張ります! 皆さんの荷物係もしますし、三食昼寝付きの時間の確保、毎晩の夜中の見張りに、魔王軍への切り込み隊員でもどんなことでもやらせてもらいます!」

「おう……そいつは頼もしいな……」


 ゆんゆんが拳を胸の前で握りしめ、自分という存在をアピールする。

 でもな、そんなにハードなことやったら、普通の人間ならぶっ倒れるからな。

 いくら人間の魔力を上回った紅魔族とはいえ……。


「皆さん、荷物チェックは無事に済みましたか? 忘れ物はありませんか?」

「ハンカチやちり紙がないのなら、私が人数分持っていますから、遠慮なく言って下さいね!」

「ゆんゆん、これはお遊びの遠足ごっこじゃないんですよ。少しは落ち着いて下さい!」


 塩対応のめぐみんにも動じないゆんゆん。

 その適応力、別の意味でも最強だ。


「それでは頼んだぜ、切り込み隊員ゆんゆん。まずは王都へ移動してそこからは歩いて砦に行くぜ」

「砦までは歩いて二日ほどかかるらしいが、冒険者向けの泊まれる宿屋もあるみたいだから、とりあえずはそこを目指していこう」

「はい! ボードゲームやカードゲームはこの世界における全ての地域の物を取り寄せましたので、宿泊の時も皆さんを楽しませますね!」

「ああ、分かった……」


 ゆんゆん、それらを集めるのにどれだけ金を詰んだのか?

 想像しただけでも恐ろしい……。


「それではいきますよー!」


 そんな末恐ろしいゆんゆんが華奢な片手を上空に掲げる。


『テレポート!』


****


「ほんと久しぶりだな」


 今日も王都の城下町は何も変わらず人々の営みにより賑やかで、晴天の日射しを受け、凛として建っていた。

 その王都に入る正門の前で足を止め、余韻に浸る俺。


「ああ、俺の妹ちゃんは元気に過ごしているだろうか」

「だからアイリス様はお前の妹ではないぞ」


 ダクネスの言い分は置いといて……王都へ入り、アイリスに顔を見せに行きたいのは山々なんだが、今もなお、城に忍び込んで、大事なお宝を盗んだ盗賊を捜しているらしいし、ここで捕まるのは勘弁して欲しいな。


「まあ、王都に行くのはこのヒーロードッキドキマル秘作戦が終わった後でもいいだろう」

「でも最前線の砦に行くその前にしなくてはならないことがあるな……」


 俺は自身の数倍は越える重たい荷物を軽々と下ろして、大地にひび割れを起こして、高らかに叫びながら力自慢を……じゃなく……、


「まずは情報収集が大事だよな。ちょっと兵士と話してくるよ」


 俺は軽やかにリュックを下ろし、爽やかなイケメンスマイルでパーティーたちを納得させるが、これで無反応とは何ごとだ。

 まあいい、ここで俺の化学反応なトーク術を見せてやる。


「どうもです! この暑いのにお仕事ご苦労様です」

「うん? その身なり、冒険者か?」


 門番の兵士の二人が俺を眺める。

 兜ごしではどんな反応か分からんけどな。


「お前さんもご存じと思うが、王都は魔王軍幹部による進撃を備えて警戒中でもある」

「そうだ。王都へと入るのなら早い所、この門を通ってくれ」

「いや、俺は王都には一ミリグラムの興味もないんですよ」


 正直、興味があるのはスプーン一さじでも、むさ苦しい鎧野郎でもなく、目に入れたら流血な可愛い妹(こわっ!?)のことだけだがな。


「実はですね、俺らはこのピンチな国を支援しに来た助っ人の援軍なんです」

「なっ、助っ人の援軍?」


 俺の自信げな話し方に動揺を隠しきれない兵士二人。

 鎧に隠れてるからに感情もよく分からんけどな。


「それは誠にありがたいが、軽装な服で大した装備もしていないし、その細すぎて折れそうな剣なんかで本当に大丈夫なのか?」

「最前線の砦には強力なモンスターたちがわんさかといるんだが?」

「フッ、俺を誰だと心得ている」


 俺は天を仰ぎながら、祝福の光を浴びる。

 ちょっと残暑が厳しいが、俺という人脈を伝えるために耐えるんだ。


「俺たちは魔王軍幹部を滅ぼした実力もある腕利きのパーティーであり……」

「……佐藤和真さとうかずまという一流の冒険者でもある。名前くらいは知っているだろう?」


 さあ、偉大なる勇者(盗賊では?)に頭を下げよ。

 そのココナッツが砕ける固い兜の頭でも、物事の把握くらい出来るだろう。


「はあ!? 意味の分からないバカなことを言うな! 暑さで頭でもやられたか?」 

「お前のことなんか知らないし、魔王軍の幹部を倒しただと?」


 あれ、俺の異世界英雄伝説の物語りが?


「寝言もいい加減にしろよ!」


 あんだけ苦労して運動部ならぬ、幹部を倒してきたのに、未だに俺に関しての情報が伝わってないだとぉぉぉー!?

(声にならないカズマの叫び)

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