第216話 この冒険者に覚えたての爆裂魔法を!!

「カズマ、そのガラス瓶はなにかしら?」


 とあるいつもの屋敷のリビングにて、アクアが俺のしていることに口を出す。


「ああ、これか?」

「ウィズの店で購入した、投げつけたら爆発するポーションだよ」

「ええっ!?」

「なな何だ、カズマ! そんなぶっそうな物を屋敷に持ち込むな!?」


 アクアとダクネスが警戒し、少し体をのける。


「いや、これな、魔法のポーションって思っていたんだけどな、実はな、火をつけても爆発するんだ」

「だからニトロの成分を含んでいると睨んでな」

「にとろ? だとしたら何のために利用するのだ?」


 このアイテムを使えばある便利なアイテムを生み出すことができる。

 危険物ゆえに取扱いには注意だが、明日から行く王都に向けての切り札にも使える。


「だから俺は……」


 テーブルの上に広げた太めの蝋燭みたいな棒に、均等な長さに紐を揃えるため、ハサミで整え、メンバーと話しながらもその作業の手は休めない。


「なーる。カズマが作ろうとしたアイテムが分かったわよ」

「この夏の季節。カズマの心の奥に潜んだ日本人としての血筋が巨大ロケット花火を作らせているんだわ」


 アクアのバックに大量の花火が飛び交う。

 あくまでもイメージ映像だけど。


「いや、残念ながら普通にダイナマイトです」


 何が悲しくてロケット花火を作らないといけないのか。

 あれは一歩間違えれば、殺戮兵器の一種だぞ。


「にとろとか、だいなまいととか知らない言葉だが、それでどう扱うんだ?」

「ああ、そう思うだろうと感じ、試作品が出来てるんだ」

「ほら、この機会だから触って見てみろよ」


 俺が不思議ガールなダクネスに陸上リレーのバトンのような筒の先端に糸が付けられたダイナマイトを見せる。


「ほうほう。意外と小さいのだな」

「これがダイナマイトってヤツさ。使い方は至って……」

「ねえ、カズマ。それ貸してよ」

「何だ? ちょっとだけだぞ?」

「うん。これをこうやって手で……」


 アクアが背筋を少し前のめりにしてスカートの前に寄せたダイナマイトを両手で隠す。

 あれ、手にすっぽり収まるようなサイズ感じゃなかったはず?


「ほら、見てよ!」

「この通り、小さくなっちゃた」


 アクアの両手にちんまりとのったチョークのサイズに成り果てたダイナマイト。


「この、馬鹿たれがぁぁー!!」

「人様が何時間もかけて作った物に何してくれるんだ! こんなチョークに変えて俺は落書き好きな教職員じゃないんだぞ。ちゃんと元通りにせんか!」

「えー、戻せないわよ」

「じゃあ、一本無駄にした分、お前も作るのに協力しろ! 言っとくがタダ働きだからな」

「えー? 私は子供の世話で忙しい身なんですけど」


 どうせ、ひよこの世話がどうのこうのだろ。

 変に過保護にせず、餌さえ与えてうろちょろさせていれば、立派なニワトリになるだろうが。


「……で、それはどういう効果があるのだ?」

「ああ、それは昼飯の後にゆっくりと体感させてやろう」

「見て驚くなよ? あのめぐみんもビックリする出来事だからな」


 俺はいつにもなく、清々しい顔でダクネスに向けて親指をクイッと立てる。


「皆さん、ご飯が出来ましたよー」

「よく手を洗ってから席に着いて下さいね……」


 俺たちは料理人めぐみんからの昼食の誘いにひたすら無言だった。


「……どうかしました? みんなして私の顔を見つめてきて?」


 めぐみんが能天気に俺たちを呼ぶが、その違和感を何となく感じ取ったようだった……。


****


 昼食後、俺たちは食後の運動がてら、アクセルの街から少し離れた場所にある開けた森林地帯に足を運んでいた。


「珍しいこともあるものですね。今日はメンバー全員で、私の爆裂道の散歩に付き合うなんて」

「まあな、明日から今までにない緊迫した旅に出るからな」


 そう、厳しい戦いが再来するんだ。

 少しでもこのロリっ子に大人の気晴らしというのを教えないとな。


「えっと、そうだな、お前の遠征に対しての本気となる心構えを、今日の爆裂魔法を見て判断しようと思ってだな」

「はい。それなら気合い入れてやりますね!」


 めぐみんが少し離れた岩の山にご自慢の杖を突きつける。


『エクスプロージョン!』

『ドオオオーン!』


 爆発により、

 ……粉々に、吹き飛んでいく、岩の山。

(ここで一句)


「ふむ。今日の爆裂魔法はいつにも増して高得点だな。素晴らしい威力だ」

「はい、今の私の想いを精一杯籠めましたので」


 全魔力を使い果たして草地に顔ごと倒れためぐみん。

 俺はスキルを使い、めぐみんに少しだけ魔力を分け与えると彼女はゆっくりと墓から起き上がった。

(死んでない)


「ふう……ありがとうございます。それでは帰りましょうか……って、あれ?」

「その手に持っているその棒は何ですか?」

「これのことか?」


 俺は悪ガキのようにイタズラっぽく口を緩ませる。


「このアイテムはな。金という財力を得た俺が、その金を生かして敵を瞬殺できないかと考えて作った第一号のサンプルさ」


「さてと、ちょうどあの岩辺りがいいな」


 俺は岩の空いていた小さい隙間にそれなりの太さのダイナマイトを強引に突っ込む。


「今からお前さんに素敵なモンを見せてやんよ」

「えっ? サプライズですか?」

「フッ、そうとも言うな。そこで大人しく体育座りでもして見てろよ」


 俺という紳士がいるんで、体育座りをするならきちんとスカートで前は隠してな。


「ちょっとカズマ……」

「そのアイテムはどこかで見たような気がするのですが……」


 めぐみんが違和感をあらわにしながら、俺の起こす様子をじっと見守る。


『ティンダー!』


 俺の火の初期魔法でダイナマイトの導火線に火がつく。

 その息をつく暇もなく、ダイナマイトを仕込んだ岩山に俺は手の平をかざす。


『エクス、プロージョン!!』

『ズカアアーン!』


 岩山が大きな音を立ててダイナマイトが爆裂して粉々に吹っ飛び、その爆風がパーティーに降りかかる。


 アクアもダクネスも唖然と口を開き、めぐみんだけが異様な光景を見たような顔で固まっていた。


「凄いな、カズマ!」

「いつの間に爆裂魔法を覚えたんだ!」


 ダクネスが上機嫌で俺の元に駆け寄ってくる。

 まあ、何も知らない相手なら、これが当然の反応だけどな。


「ふっ……。クールビューティフルで努力家の固まりでもある俺は、お前らが寝ている間に腕を磨き、ひっそりとレベル上げに勤しんでいたのさ」


 目を閉じ、髪をかきあげて、メンバーの前で格好いいポーズを決める俺。


「カズマー! 私にも頂戴! 癒し系の私でも爆裂魔法を使ってみたいから!」

「おう、任せろ。もっと導火線を延長し、さらに改良した商品になったらな」


 早速アクアからの注文を受け、いっぱしの商売人として得意気になる俺。


「……あう」


 真っ青な面持ちになっためぐみんの口から声にならない声が漏れる。


「……カズマ、その棒を使うとクルセイダーの私でも爆裂魔法が使えるのか?」

「……なあ、改良品が出来たら、是非……私にも……」


 爆発を生むまで冷静だったダクネスさえも歓喜に満ち溢れた様子で物欲しそうな顔をしている。

 こりゃ、量産したら馬鹿売れ間違いなしだな。


「あうあうあう……」


 壊れかけためぐみんがアザラシのような声を紡ぎ出す。


「我が名はカズマ!」

「アクセル最高の冒険者として爆裂魔法を極めた男であり……」

「あわわわわわわー!!」


 至極滅殺、ヌーン!

 残像を残しためぐみんの体が音もなく俺の後ろに回る。


『ボコボコボコ!(3ヒット)』

「あんな魔法はー!」

『ボコボコボコ!(連続6ヒット)』

「あんなちんけな魔法は爆裂魔法ではありませんー!」


『ボコボコボコ!』

(連続24ヒット)


 俺の後頭部にめぐみんのボコりがひたすら炸裂する。


「うぎゃ、イテテ! 待て、ひとまず落ち着け」


 俺はめぐみんからの痛む攻撃から頭を押さえて、とりあえずめぐみんに簡単な説明をすることにした……。


「だからあれは普通のアイテムであって、爆裂魔法とは冗談の意味であって……」

「この棒が、イケないこの棒が無能な冒険者の心を狂わせるのですかー‼」

「おい、どさくさに紛れて最後の一本を取るんじゃない! このアイテムを製作するのに結構な金とそれなりの労力がかかってるんだぜ!」

「いいえ、私が許可を許しません。爆裂魔法を使える私がいるからにこんな紛い物は入りませーん!」


 心の底から苛立っためぐみんが川の流れる崖をめがけ、最後のダイナマイトを投げ捨てる。


「ああー、俺の血と汗の結晶でもある大いなる作品がぁぁー!」

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