第215話 この紅魔族に嘘のつけない魔道具による環境を!!(2)

「ねえ、ちょっといいかしら?」


 強気なめぐみん、半泣きのゆんゆん。

 そんな二人の紅魔族の喧嘩を仲裁しようとアクアが声をかける。


「めぐみんはアクシズ教団が好きかしら? それとも嫌い?」

「えっ?」


 想像もしない質問に、これにはゆんゆんへの痛恨の一撃も止まる。

 いや、めぐみんとしては作戦を一度立て直し、考えることに集中したいのか。


「私の下僕のセシリーが言っていたわよ。めぐみんはセシリーや、アクシズ教徒と縁があるみたいだし、もしかしたらお皿に山盛りの鮭おにぎりでも積んだらアクシズ教に入るかなって」


 アクアが目を閉じて、ひとさし指を立てて、神としての地位に酔いしれている。

 というワードからして、またに酔ってるなコイツ。 


「そんな食べ物で釣っても断固拒否ですよ!」

「セシリーさんとは偶然、ところてんスライムという共通の話で一致しただけで、普段ならあんなおかしなアクシズ教団とは話もしたくありません!」

「好きか以前に大っ嫌いの間違えじゃあ……」

『チン!』


 魔道具は自分の気持ちに正直だ。

 アクアの不敵な微笑みの前にリビング内が陰湿な空気へとガラリと変わる。


「まあ……お世話になりましたアクシズ教徒の人もいますし、嫌いは好きの裏返しでもありますし……」

「うんうん。お利口さんね」


 ほお、ただの馬鹿な女神かと思っていたが、中々、利口な魔道具の使い方じゃないか。


 じゃあ、次は俺からの質問だな。

 お米券を狙ってハングリーアンサー?

(腹が減っては戦はできぬ)


「所でめぐみん。俺たちのパーティーのことは、どう思ってるんだ? 好きなのか? 嫌いなのか?」

「いや、何でここでそんな質問をしてくるのですか!」


 俺は腰に手を当てて、見下した態度でめぐみんに視線を送る。

 これにはめぐみんもタジタジだろう。


「おい、みんなで寄ってたかってニヤニヤするのはやめてもらおうか!」


 めぐみんが困った表情で俺たちに反論するが、嘘のつけない魔道具があるせいか、俺たちはいつにもなく勝者の気持ちになれる。


「えっと、皆さんいいですか?」


 そこへ調子が悪そうにぐったりとしたちょむすけを抱いたまま、俺たちの会話を中断させるゆんゆん。

 おっと、熱くなりすぎて、お客さんの存在を忘れていたぜ。


「そんな訳で封印が解けた邪神とはこの子のはずなのですが」

「新聞には邪神ウォルバクという敵がいるとはどういう意味なのでしょうか……」

「ちょっと待てよ!」


 俺は状況を受け入れられずに混乱してしまう。

 だったらこの疲れ果てたマスコットみたいなコイツが……?


「その猫もどきが邪神だと?」

「ちょむすけが邪神で間違いないのか!?」

「ですからこの間も言ったじゃないですか! まだ若いんですし、おじいちゃんの記憶力じゃないでしょ‼」


 めぐみんがゆんゆんが抱いていたちょむすけを手元に抱き寄せる。


「この子こそが邪神であり、我が使い魔です」

「だからか、このちょむすけの名前を騙る魔王軍幹部は何を企んでいるのかと思いまして……」


 それでめぐみんは食いるように新聞を見つめていたのか。

 また紙を食べるのかと思ったし、正直な話、納得もできずにいる。


 でも、腑に落ちないな。

 こんな癒し系な猫の風貌が砦で大暴れしてる恐るべき邪神だと?

 さっきから魔道具の反応も一切ないし……。


「ねえ、カズマさん。私、前から感じていたんだけど、あなたって陰キャ引きニートと見せかけて、実は心が温かくて優しい素敵な人よね」

「おい、今さらどうした? 最近になって、俺にモテ期がやって来たという噂を耳にしてお前さんもクールビューティフルな俺にアタックしに来たのか?」

「そんなに俺を褒めても今月の小遣いはやっただろ? まさか俺を馬鹿にしてるのか?」

「いいえ、私は本心で言っているのよ?」


『チン!』


「良かったわ。この魔道具は壊れてないわよ。じゃあねw」

「おい、言いたい放題言って逃げんじゃねえ。こ、この駄女神がぁぁー‼」


 理不尽な言葉にぶちギレた俺は自室に戻ろうとしたアクアの頭を強引に掴む。


「……カズマ」

「毎度ながらお騒がせしますが……」

「今回はどうしても私と一緒に来てもらいたいのです」


 めぐみんが両手を前で合わせて、深々と頭を下げる。


 過去に何度もちょむすけが拐われそうな事件があったことから、新聞の幹部が関係しているかも知れない。

 飼い主としてウォルバクという偽物の邪神をどうにかしたいとのめぐみんの強い想い……。


「そういう理由でダメ……でしょうか?」


 前屈みになったままのめぐみんが上目使いで俺を見つめてくる。

 ウサギみたく、か弱き小動物のように。


「ぐぬぬっ……」


 幼女相手に耳たぶまで赤いであろう俺はその相手に何も言い返せない。


 何でこいつはたまにこんなに可愛い美少女に映る時があるんだよ!

 そんないたいけな瞳で見つめてきたら断るに断りきれないじゃんか。


「ふう。まあ……いつもの流れだな」


 ダクネスが一息つきながら穏やかに頬を緩ます。


「ホント、単純で扱いやすい男ね」


 アクアが俺を罵った目で眺めているから後で焼きを入れてやる。


「私はどうすれば? おろ……おろ……」


 流浪にゆんゆん、とりあえずハリセンを置いて落ち着け。


「ああー! もうしょうがないヤツらだなあー‼」


 俺の本音からの叫び声が屋敷中に響き渡る。

 無反応のままの魔道具を前にして……。

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