第214話 この紅魔族に嘘のつけない魔道具による環境を!!(1)

「どうぞ。安物のお茶になりますが、粗茶になります」

「あ……ありがとう。でもアクアさん、これは……」

「ええ、ゆんゆんさんは正直で素直ですね。実はこれは、カズマからいただいたお小遣いで買ったお茶でして、最近この味にハマっているの」

「あ……はっ、はい。とても薄味で美味ですね……」


 いや、アクアよ。

 そのお茶、うっかりお前が浄化した普通のお湯だろ。

 どれだけお茶っぱをケチれば気が済むんだよ。


「それで今日は何様で来たのですか、ゆんゆん」

「あっ、めぐみん。実は人気のない公園でくつろいでいたら……」

「ちょむすけが理由もなく、子供たちにいじめられている所を発見してですね」


 ゆんゆんの持ち物の一つでもある広げた無地のハンカチの上で眠っているちょむすけ。

 確かに被害にあったせいか、どことなく顔色が悪いようにも見える……。


「おい、冗談だよな、お前の邪神のイメージはひよこ以外にも子供たちにいじめられるような痛々しい存在なのか?」

「ゆ、ゆんゆん、カズマネーバランへようこそ‼ それよりも今とっても悪い事件が起きているのですよ!」


 おい、俺の話を無視して真実をねじ曲げるな。

 名探偵コ○ンとスプーン曲げごっこならお庭がある外でやれ。


「えっ、その悪いことって?」

「……はい。まあ騙されたと思って、この新聞を読んでみて下さい」

「ええ……」


 ゆんゆんがめぐみんから新聞を取り上げて、好意的な表情で記事に目を通す。

 あれは何かのお宝を見つけた子供の目だな。


「……ねえ、めぐみん。この文通コーナーの部分だけ切り取ってスクラップ帳にしてもいいかな?」

「そこじゃなく、隣の記事を見て下さい!」


 あのさあ、さっきから一枚の紙を前に色々ともめているけど、それ、俺が買った新聞だからな。

 金払ってるんで、余計なシワをつけないでもらえます?

(カズマクリーニング店より)


「えっと、じゃしん……?」

「ちょっ……ちょっとめぐみん、邪神って……あのっ……!」

「ゆんゆん落ち着いて下さい!」


 ゆんゆんが過呼吸になったら教えろよ、救急車に連絡するから。

 この世界にもあればの話だが……。


「めぐみん。この邪神ウォルバクって私たちの紅魔の里に封印されてたのじゃあ?」

「……それってどういう意味だ?」


 おい、とんでもない言葉が飛び出してきたんだが、赤信号では止まれだぞ。

 同じ赤でも突っ込んでいいのは闘牛士の布切れだけだぞ。


「き、聞き間違いですよ、カズマ! この子は昔からこんな虚言を言っていたから紅魔の里ではぐれオオカミと呼ばれていたのですよ!」

「あっ、あんたねえ! オオカミはともかく、変な言動はめぐみんの方が上だったでしょ!」


 興奮したゆんゆんが新聞を丸め込んで叫んでいる際、彼女の前に強引に割り込んで話を止めさせるめぐみん。

 こういうのを、五十歩百歩って言うんだよな。


 ついでに、丸めてしわくちゃにした新聞代も払え。


「そんなことより、カズマさん! 昔、私たちの里に邪神ウォルバクが封印されていてですね!」

「ある日、ささいなことで邪神の封印が解けてしまった時に偶然、傍にいためぐみんが里には内緒で、その邪神を使い魔にすると大笑いをして……」

「やめんか、このチクリ魔小娘はー‼」


 顔をゆでダコにして力んだめぐみんが、ゆんゆんのマントを引っ張って、普段よりも文字数が多い勢いを止めようとするが、口から出てしまったもんはしょうがない。


「ゆんゆん、紅魔族の悪い噂は口に出さず、全て闇に捨てるのです!」

「このまま黙ったふりをして王都の砦で暴れるウォルバクの偽者を倒すことに専念するのです!」


 めぐみんのお説教を前にして何も言葉が返せないゆんゆん。


「おい、ダクネス。お願いがあるんだが……」

「何だ?」


 俺は元領主のダクネスにお願いして、例の嘘発見機、チンチンと鳴る魔道具を借りることにした。

 何か裏工作があるお前は一度尋問しないといけないようだな。


****


「よし、魔道具もきたし、お前の隠していることを教えてもらおうか」


 テーブルに置かれた魔道具には片側だけが天使と悪魔の翼に分かれていて、その対となる境目に丸い銀の玉が付いている。


 どうやらこの魔道具のお洒落なフォルムからして、以前の俺を尋問した警察署にあったものと違い、最新式のモデルらしい。

 変に潔いというか、ダスティネス家の金持ちは発想が違うぜ。


「それで、この新聞に書かれた邪神ウォルバクとは何者なんだよ」

「……ウォルバクとは怠惰たいだ暴虐ぼうぎゃくで人々の心の闇を支配する邪神なのです」


 めぐみんの話では自身とゆんゆんは邪神と何かしらの因縁があり、その昔、紅魔族の先祖たちが邪神と死闘をして、その激しい戦いで邪神を封印したらしい。 


 あれ? あのテレポートで逃げてばかりでふざけた紅魔族に死闘ってイメージないし、普通、死んだら封印出来なくね?


「それから邪神を紅魔の里に運んで大人しく監視を続けるのですが」

『チン!』


 チンと静かに音がこだまするリビングで俺とめぐみんに不穏な空気が流れる。

 そうか、そんなに流しソーメンが食いたいか……。


「……というのは嘘でして、邪神が封印された里って素敵だよなと言い出して、誰かさんが封印された邪神を拐って、里に似たような封印をして観光の名所にしました」


 めぐみんの隣に行儀良く座るゆんゆんが少し困った顔で俺たちの様子を伺う。

 別に尋問でも、ことはしてないからな。


 でもビタミンCはきちんと摂れよ。

 ちょっとお高いビーフカツ丼には入ってないけどな。


「なるほどな。めぐみん。それでその封印を解いた者は分かるか?」


 ダクネスが腕組みし、緊迫した態度でめぐみんを問いつめる。


「これは推測に過ぎないのですが、封印されていた邪神が強力な力を使い、再び人間を滅ぼすのを目的に下僕を操って封印を破り……」

『チン!』

「……というのは真っ赤な嘘でして。私の妹が好奇心で邪神の封印を解いたのです」

『チン!』


 なあ、封印ってそんなに簡単に解けるものなのか?

 手慣れた掛け算の九九みたいな感覚か?


「ちょっとめぐみん。その話は私も初耳よ?」

「あれ? 長年生きてきた私の思考回路が歪んでいるのでしょうか」

「惚けないで。それはどういうことなの?」

「ああっ、思い出しました!」


 ゆんゆんにそそのかせれためぐみんが相づちを打ち、納得したような顔をする。


 邪神は過去に二回封印が解けていて、一回目は通りすがりのめぐみんが封印を解いてしまい、そこら辺でのんびりしていた謎めいた

お姉さんに助けてもらったらしい。


「妹が封印を解いたのはその後でしたね」

「なっ、どういうことなのよー!」


 めぐみんとゆんゆん、二人の紅魔族がお互いの価値観の違いで取っ組み合いの喧嘩を始める。


 それにしても紅魔族っていつもロクでもないことばかりするな。

 ロクだけにボードゲームのサイコロの目としては最強の数字だけど、コイツらはどこか頭の中のネジが外れているのか?

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