第213話 この冒険者を名乗っていた俺に引退の心得を‼(2)

 チュンチュンと小鳥の挨拶が屋敷に響く翌朝。


 さあ、十分に夜も遊んだし、朝になったから寝るとするか。


 昼夜逆転な生活を送っていた俺は今日も布団を被り、永眠モードに入ろうとする。

 夢の中でも、あの綺麗なお姉さんたちと会えたらいいな……すやすや。


『バーン!』

「カズマ、おはようございます!」


 俺の部屋の扉が大きく開き、いつもの杖を携え、完全装備(いつものローブ)に身を包んだめぐみんが侵入する。


 お巡りさん、コイツ不法侵入者です。

 とっとと取っ捕まえて下さい。


「ではいつものメンバーで王都に行きますよ!」 

「さっさと準備して下さい!」


 めぐみんが自称、格好いいポーズを決めながら俺を急かす。

 お巡りさん、コイツにはセクハラの刑罰も一緒にお願いします。


「お前は朝から何おかしなことを叫んでんだ? 王都に行ってどうするんだよ」

「俺は王都じゃあ、色々あって目を付けられた存在なんだ。今度こそ牢から出れなくなっちまう」

「その事情がなければ、とっくの紀元前に妹のいる王都に引っ越してるさ」


 それプラス、夜遊びもこなしたんで眠いんだぜ。

 お前も女なら黙って永眠させてくれよ。


「まだ、王女様を妹とか言っているのですか! 妄想のたぐいもいい加減にして下さい!」

「……まあ、それは置いといて、話が進まないので妹という設定にしましょう!」


 妹設定じゃなくて、俺は本気でアイリスを妹にして、『お兄ちゃん、大好きー!』と言わせたいんだけどな。

 ジャ○アントみたいに。


「カズマ、このままじゃ、アイリスが危険な目に遇うんですよ? 私たちが動き出さないとどうするんです!」

「カズマの妹への偏愛な想いはその程度で済ませられるのですか!?」


 人の恋路を踏みにじって、偏愛とは失礼だな。

 そんなめぐみんのバックにアイリスが優しく微笑む姿が映った。


 この可愛らしい絵柄はまた筆者の仕業か。

 だからアイリスは妹だって。


「しかしお前さん、同じ妹キャラみたいだから仲良しじゃないと思っていたけど違うのか?」


 確かにアイリスのことは思うだけでも不安になる。

 昨日の新聞を読んでから、めぐみんの様子もおかしいけど、非力な俺なんかが王都に行ってもな……。


「相手は魔王軍幹部で邪神じゃしんって話だぞ」

「髪の毛ごときのお守りも効かない本物の神なんだぜ」


 身近にいる神がポンコツだけに大したヤツじゃないかも知れないが……。


「その魔王軍幹部の邪神という部分が引っ掛かるのです」

「この前、ちょむすけの正体について色々と語ったでしょう?」

「……ここからは私の勝手な考えですが」


 お前、いつも自分だよな。

 今度、部屋に専用のでも作ってやろうか。  


「そこで、ウチのちょむすけが邪神かもという考えが浮かびまして」

「はあ? まあ、火を吐くガ○ラもどきだもんな」


 でもさ、猫みたいなちょむすけのヤツ、この前アクアの育てるひよこに追いかけられて必死に逃げていたぞ。

 普通、どころか、完全にじゃねーか。


「いえいえ、ヘタレなカズマ自らに、魔王軍の幹部の戦いに挑めなんて言いません」

「私が爆裂魔法でケリをつけるのでカズマも付いてきて、その後の動けない私を連れて帰るだけでいいのです!」

「嫌だよ、俺は臨時のタクシーじゃねえぞ」


 何でそんな最前線のアマゾン川のような危険地帯にいかないといけないんだ。

 しかも今度の幹部はネーミングが強烈な邪神だぜ。


「スライムやアンデッドじゃなくて今度は邪神なんだぜ? RPGのラスボス的な雰囲気で、強そうで嫌な予感しかしないじゃんか」


 俺の正論にめぐみんが無言で頬を膨らませ、ぶうたれる。


「……全く、大方の想定はしていましたが、相変わらず強情な人ですね」


 めぐみんが三角のとんがり帽子を脱ぎ、手ぐしで髪型を整える。

 そして『よいしょ』と声を漏らし、遠慮気味に俺の座る布団の隣に腰を下ろす。


「それでは、もし一緒に来て邪神を倒して平和な王都になったら」

「今度はカズマの部屋に一晩泊まることにしましょうか……」


 伏し目がちにセクシーなまなざし? を向けるめぐみん。


「はいはい。俺はもう眠るから虚言癖はまた今度な」

「えっ、またまた無反応!?」


 俺はめぐみんの色気の欠片もないアピールを無視してベッドに寝転がる。

 あと、大人のセクシーなお姉さん派でロリコンでもないしな。


「ちょっと! 私が勇気を振り絞って口に出した言葉なのに、それをスルーなんてどういう神経ですか!!」

「あのなあ、俺が毎回そんな色仕掛けにコロリと逝くとでも?」

「頬にキスするだけで首なが竜の討伐をお願いしたダクネスもだが、お前さんも自意識過剰な思考は大概にしろよ」


 コイツらは俺がお前らに好意を寄せてホイホイ動く輩とでも?

 俺はそんな軽い男じゃないぜ。


「お前らは見かけはいいが、中身はとんでもなく最低クラスなんだ。そこをよく理解して、もっと素敵なサービスを提供しないといけないぜ」


 俺の熱弁を黙々と耳にしていためぐみんの顔が怒りでのぼせ上がる。


「何なのですか! まだあの夜のことを気にしているんですか!?」

「最近は私と会話するだけで頬が緩んでいた分際で、この期になって強がるとかどんだけツンデレなのですか!」


 好意的なツンデレとは何だ。

 俺はあまのじゃくじゃなく、感情に素直になれる男のつもりだぜ。


「ゆゆゆ……緩んでいたのはギャグ漫画の台詞を思い出し笑いしてただけだぜ!」

「俺がいつ、お前のような色気もない幼女に気がある素振りがあることを言ったよ! 調子に乗るなよ!」


「あー、この男、男としてもクズですね! あなたは好きでもない私と二人だけの夜を過ごそうとしていたのですか!?」

「鼻の下をデレデレと伸ばして寝ている私に手をかけようとして!」


「違う、あれは誤解だー‼」


 お互いに折れずに謝ることを知らない二人組。

 俺とめぐみんの激しい言い争いはそれから三十分ほど続いた……。


****


「何々、冒険者の人気ランキングだと……」


 めぐみんとの騒動が静まった屋敷で俺は今日の新聞を読んでいた。


 第三位がミツルギキョウヤだと?

 アクアから貰った魔剣が無ければ、何も出来ないくせして。


「こんなヤツの名前が上位で俺の名前がないなんて理不尽過ぎるだろ!」


 俺は機嫌を損ね、しかめっ面で文面に八つ当たりをする。


「当たり前だ。それは王都の最前線で活躍しているランキングなんだからな。お前も有名人になるために伸びたいのなら、前線に赴くしかないぞ?」

「そう、ダクネスの言うことは正論です。カズマも人気者になりたいのなら邪神の討伐に行きましょう!」


 おい、俺は行かないと明白したよな。

 コイツはまだ部活動の勧誘みたいことを言うのか。


「なあ、アクア、お前もあの分からず屋な二人にガツンと言ってくれよ」


 ひよこと仲良く遊んでいたアクアが俺たちの方に意識を向ける。


「私も二人の意見に賛成よ?」

「何だと?」


 ソファーから身を乗り出し、アクアの思いもよらない答えに驚く。  


「魔王軍の幹部が王都で迷惑行為をしてるのよ」

「このアクア様が困っている人の救いを無視する訳にはいかないわよ」


 アクアの育てるひよこも納得したように『ピヨッ』と一声鳴く。


「おい、お前悪いもんでも食ったのか? いつもなら先陣となって、嫌がって泣き叫ぶのに」

「まあ、この辺のモンスターなら私くらいの力は必要ないけど?」

「今回は勝手に神とか言っている不届きものが相手だし、アクシズ教団の女神として見過ごすわけにはいかないわ」


 女性陣三人の多数決により、決められてしまいそうなヤベえクエストへの参加。

 ……ということは俺は今回もお覚悟を決めるしかないのか?


「嫌だー‼ 俺はそんなクエストにはいかないぞ!」

「魔王軍の幹部なんて相手にしてたら、この身が持たねえぜ!」

「カズマ、駄々を捏ねないで下さい!」


 俺の抵抗する片手を引っ張り、腕の力で食い止めるめぐみん。


 どこにそんな力があるんだ。

 まだまだ月は出ていないぞ。


「今回は私が一撃で葬り去るので、カズマは緊急時に備えて来るだけでいいんです!」


 めぐみんが、いつもより数段高い声量で俺を説得してくる。


「じゃあ、再確認するが……めぐみんよ、このメンバーで何も緊急な事件が起きない自信はあるのか?」

「えっ? えっと?」


 俺の直球な発言に、めぐみんを含めたメンバーが明後日の方向を見つめ始める。


「熱くなるのもいいが、我に返って己の過去をよく思い出せ」

「よくよく考えて、何事もなくクエストが終わると断言できるなら俺も行ってもいいぞ!」


 めぐみん、俺の目を見て正直に答えろよ……。


「おい、俺から目を逸らすな!」


 俺はめぐみんの頭を掴み、俺に目線に合わそうとするが、それを頑なに拒否るめぐみん。


「これで分かったろ。そういう訳だから俺抜きで王都に行け。俺を地雷に巻き込むな」


 俺はめぐみんにビシッと指さして、しかるべき命令を下す。


「えっ、それはあまりにも……」  


 めぐみんはショックを受けたような表情でこちらを見る。  


『コンコン』


 その喧騒を気にしてか、控えめに鳴らされるドアのノック音がした。


「あの……失礼します」


 この礼儀正しい声はもしや、ゆんゆんか。


「皆さん、こ……こんにちは」 


 ちょむすけを胸に抱き、戸惑いがちなゆんゆんがリビングへとお邪魔してきたのだった……。

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