第21章 邪神ウォルバクによる、王都殲滅の危機
第212話 この冒険者を名乗っていた俺に引退の心得を‼(1)
「めぐみん。さっきから何を作ってるの? 爆裂魔法に飽きたらず、日雇いの内職かしら?」
「いえ、これは仕事の作業ではなく、紅魔族では有名な魔術のお守りですよ」
めぐみんがハサミと紙切れを使って、教育番組のノッ○さんみたいに小指ほどの大きさの筒をせっせと作っていることは知ってたが……まさかお守りだったとは。
「この筒の中に優れた魔力を持っている人の髪の毛を入れるんですよ」
「まあ、即席のお守りで神頼みにするのもなんですが、最近よく死ぬカズマの誕生日プレゼントにしようかと思っていまして」
ああ、俺は死ぬ確率が高いからな。
そろそろ冒険者カードに確変っていうスキルが出そうだ。
「ふむ。それは中々の妙案だな」
「だったら魔力があれば誰の髪の毛でもいいのか?」
多ければお得感がある深夜の通販番組のようなダクネスの質問に
魔王軍に立ち向かうと旅路を決めた者が持つこのお守りは里の者全員集合的な髪の毛をたっぷりと詰め込んで、歩いただけで衝撃で地面に大きな足跡が付くらしい。
マンモスじゃあるまいし、なんちゅう重力の塊だよ。
「それに、それくらい強力なお守りになると一緒に大事な荷物を置いていても盗みの被害にも遇いませんし、一石二鳥ですよ」
一石どころじゃなく、ただ単に髪の毛がたんまり出ているお守りが気色悪くて近寄らないだけだろ……。
すると、ダクネスがポニーテールの髪を縛っている後ろ頭から、一本の髪の毛を引き抜く。
「だったら、この私の髪の毛も入れてくれないか。私は魔力はからっきしないが、少しでもそのお守りの力くらいになるだろうから」
「それはありがたいです」
めぐみんが笑顔でダクネスからの想いを受け取り、お守りの中にそれを詰める。
「それではダクネス以外に魔力がある者はと……」
一同の視線が魔力が無限に湧き出てるアクアの方へと集中する。
「何よ? このアクア様の伝説に残る聖なるアンテナ(髪の毛)が欲しいとか言うのかしら?」
「言っときますけどねえ、女神の髪は凄く貴重な物なのよ。にわか魔術師ごときが……」
「下らん前振りはいいからお前も早く髪の毛をよこせよ」
祭りが繁盛したせいか、こいつはウザいくらいに、やたらと女神の存在感を浮き彫りにしやがる。
俺はその腹いせにアクアの頭を掴んで、髪を一本むしり取る。
「ほら、めぐみん。駄女神からの餞別だ。遠慮なく受け取れ」
「ありがとうございます」
アクアが痛みに顔をしかめる中、めぐみんが一通りの作業を終えて、筒の蓋を閉める。
「ではカズマにこれをあげますね」
めぐみんが筒のお守りを俺にくれる。
「おう、おう。ありがとう」
一体何を考えてるんだ、このロリっ子が。
お前には恥じらいはないのか?
昨夜、あんなに熱い夜を過ごしたのに何も変わらない雰囲気だよな……。
「カズマ、貴重でレアな女神様の髪の毛が入っているんだから無くさないで持っておきなさいよ!」
いや、これ持っていただけでお馬鹿になったり、アンデッドが寄りついたりしないだろうな?
****
「では祭りも終わりましたし、冒険者らしくクエストの活動を再開しますか!」
「ああ、同感だ。今もどこかでモンスターの悪行に苦しんでいる民がいるからな」
おいおい、魚市場の取引のように粋がってるお二人さんよ。
俺はもう危ないドラゴーンクエストごっこはしないぜ。
だって、一生遊んで暮らす大金を持ってるんだぜ。
別に俺の親でもないのに、残りの人生、好き勝手に自由に生きて何か不都合でもあるのか?
「ケッ! 汗水流してまでキツい思いをしてまで労働なんて古典的でアホらしい考えだぜ。これからは気が向いたら、お遊び程度の冒険に行って、残りの人生はパーと遊んで暮らすのさ」
「なっ……聞いてるだけで悲しくなる……」
「目の前に大量のお金があるから働かないだと? そんな考えではこの国の経済は上手く回らなくなるに違いない……よよよ……」
元領主の考えを持つダクネスが顔を俯かせて、不安に覆われた社会経済を悟り、暗い未来を想像し、両手で顔を塞いで泣き崩れる。
「ダクネス、ここはその経済をよく理解した私に任せて下さい」
「カズマー」
めぐみんがソファーに座る俺の前で前のめりになって色っぽい声を出す。
「たまにはあなたが活躍する場面を見せて下さいよ」
めぐみんがペタンコな板を前に俺に色仕掛けのポーズをする。
アイロン台だけに何の魅力を感じないな。
「カズマは普段は盗賊と偽って、実はキレ者の勇者様」
「今こそ格好いい勇者様と評判なカズマの出番じゃないですか」
笑顔で語るめぐみんを無視して俺はテーブルに置いてあった新聞を広げる。
「あれれ!? カズマ!?」
「いつものような女の子に見境ないデレデレな反応はどこに……?」
女の色香なんかに騙されるな、
無闇に情に流されて、その後に本質を知ることになる駄目な男なんかじゃないはず。
「……ほお、そうならばしょうがない。ここは力ずくでも冒険者としての根性を叩き出して……」
ダクネスが指の関節を鳴らしながら怒りの表情を向ける。
ほら見ろよ、これがいつものパターンだ。
「さあ、カズマ。今からクエストに行きますよ! ダクネスはそっちの足を持ってくれますか!」
新聞で手が塞がった俺の足を引っ張って、そのまま床へと引きずろうとする女子プロなめぐみんとダクネス。
「おい止めんか。俺に何てポーズをさせるんだ! 俺はもう決めたんだ。あんな危険なクエストには一切関わらないぞ!」
「問答無用だ! 毎日家で呑気に過ごしていたら
めぐみんとダクネスに両足を引っ張られ、股が裂けそうになる。
嫌だ、初めての夜は好きな子と共にすると決めているんだ!
「ねえ、楽しそうね。さっきからしてるその遊びのルールを教えてよ」
「これは遊びではない! アクアも手を貸してくれ!」
ダクネスの助けにアクアが不思議そうな顔をする。
「もう俺のことは捨て置けよ! 俺自身も冒険者として引退してもいいと思う年頃なんだぜ」
「何をほざいてるんですか。別に大怪我もしてないのに十代の若さで引退なんておかしいですよ」
おう、俺稽古中に傷ついた力士だから早いとこ引退するわ。
どーんと、どすこい!
「これほどまでにヘタレな男だったとは。さっきあげたお守りを返して……」
「いやー、俺ほどまでの経験があれば、こうやって新聞を読んで世界の情報を汲み取った方が社会のためになるんだよ」
アクアが能書きはいいから、新聞の四コマ漫画を見せてとせがむ中、俺の目がある文面で止まる。
「うん……?」
「魔王軍幹部が最前線に躍り出て、戦乱が急変し、王都が危機の状態に……だと。こりゃ、とんでもないな」
「王都の危機とは? カズマ、その新聞、私にも見せてくれないか」
──王都周辺の前線にある砦が魔王軍幹部の攻撃を受け続け、砦は半壊状態に……。
今は何とか持っているが、砦が崩れるのは時間の問題と……。
「おい、いいのかよ。俺の妹であるアイリスはそれで大丈夫なのかよ?」
「無礼な! いつからアイリス様が貴様の妹になったのだ!」
いいじゃねーか、少しは夢くらい見させろよ。
「その砦を攻撃している幹部が強力な魔法を使う
「えっ、邪神!?」
「何だよ、めぐみんよ、邪神の言葉に紅魔族に似た親近感でも感じたか?」
「いえ、そうじゃなく……ダクネス、私にも読ませてもらえますか?」
めぐみんがダクネスの手にしてる新聞を覗き込む。
「何々、邪神か何か知らないけどさ!」
「わざわざ神の力と嘘を強調しながら、これみよがしに行動するなんて、ろくでもないわよね」
「何だよ、お前だってインチキな腐れ女神やってるじゃないか。いつまで経っても脱ぎたてくれないし、似たようなもんだろ」
「フ○キュー!」
本性を現したゴリラ女神が俺の首を絞めて、俺の息の根を止めようとする。
証拠隠滅のために口を封じるのか、この女神は。
「なお、戦況をガラリと変えた魔王軍の幹部は……」
「その名を邪神ウォルバクと言う……──」
ぐっ、苦しい……。
冷静に文面と向き合う二人を前に俺の意識は飛びかけていた……。
いや、普通に考えて、この女神の暴走行為を止めるべきだろーが!
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