第3ーC話 この異世界でやり遂げたいことを!!(3) 

 夜、それは始まりの世界。

 ゲーセンも閉店時間となり、俺たちは店員から追い出される形となった。


 失礼な、ゲームの基盤と一緒に泊めてくれてもいいじゃないか。


「いやー、それなりに楽しい場所だったな」

「そうですね。異世界の遊技場でも一躍有名になりましたし、シャシンサツエイって良いものですね」


 あー、非常に疲れた。

 こんな時、骨入り損のくたびれ……と言うんだろうか。


 ギャーギャー騒いでゲーセンを好き放題、荒らしやがって。

 危うく入店禁止のレッテルが貼られる所だったぜ……。


「ふふっ、ピカ虫ー♪」


 アクアも好きなキャラのキーホルダーが取れて満足そうだ。

 こんな単純な小物に釣られて、チョロいヤツだな。


「でもまさか、カズマがこんな近未来的な世界から来たなんて正直驚いてるわ」


 アクアがスカートのポケットにそのキーホルダーを入れて、俺に万年の笑みを向けてくる。


「それは同感だ。元の世界に帰ったら酒でも飲みあかしながら、じっくりと聞いてみたいものだ」


 そうだな、お前たちと暮らして一年が経つんだ。

 そろそろ頃合いを見て、お前たちに俺の素性を明かさないとな。


 積もる話も沢山あるし、夜から明け方までかかりそうな会話になりそうだがな……。


「それでカズマどうするの? もう少しで元の世界に戻る時間よ」

「ああ、実は俺なりの考えがあってな」


 俺たちはゲーセンから徒歩で一軒の二階建ての家の前に来ていた。

 すでに部屋には灯りはともってなく、ただ単に静かな空間だ。


「もしかしてあの家に忍び込んで何か盗むの? ふーん、夜中だし、もし下着を取って捕まっても、もう少しで元の世界に戻れるから大丈夫という説かしら」

「おい、ふざけんな! ここは俺んちだぞ」


 いつから俺は変態下着ドロになったんだよ。

 セクハラ仕舞いな過去はどうあれ、最近では心を入れ替えて真面目に生きてるのに……。


「俺はお前らの世界に強制的に送られた身だからな」


 アクアがキョトンとしたとぼけた顔で俺を見つめている。


「この世界を離れるためにやり遂げたいことがあるんだ」


 俺んちの家族はこの時間帯には眠っているし、動くには絶好のチャンスだ。


 俺はボケーと突っ立ったままのアクアから離れて玄関の前に足を踏み入れる。

 そして庭先へと移動し、何も植えてない鉢植えの底を持ち上げて覗いてみると……。


「おっ……合鍵の置かれた場所はそのままか」


 俺は合鍵を手にして、家の中に潜り込んだ。 


 ──抜き足、差し足、タコ足配線の足。

 部屋の内装もそんなに変化してないな。

 潜伏スキルに千里眼と……異世界でスキルとやらを習得して正解だったな。


 俺は自室に入り、部屋に備え付けてあったパソコンに近付く。

 壁際には部屋には漫画やら、ゲームの資料集などが揃えた本棚が幾つかあり、俺以外の誰かが触った形跡もない。


 部屋も俺が出ていったままの手付かずの状況か。

 こうやって見ていたら懐かしくなってくるばかりだな……思わず涙腺が緩みそうだ。


 いや、それどころじゃない。

 残された時間は僅かなんだ。


 俺はデスクトップのパソコンの起動ボタンを押して、パソコン画面を見ながら、キーボードでアクセスを試みる。


『カタカタ……カタ……』


 よし、家族を含めて誰もこのPC(パソコン)を扱ってないな。

 この分だと秘密のサイトに繋がるパスワードも解かれていないようだ。


「それならば多少の心残りはあるが……」

「全てのデータを消去します……と」


 俺はマウスをクリックして画面上のカーソルをゴミ箱のボタンに合わせ、データを消す。


 これで無事に任務ミッション完遂ー。


「よし、これでオッケーだな」

「やるべきことは済ませたけど……急に無性に家族の顔が見たくなったな……」


 俺が不意なトラクターの事故で死んでも両親は受け入れてくれてるだろうか。

 俺の代わりに罪の十字架を背負い、毎晩、枕を涙で濡らしていないだろうか。


 お父さん、お母さん、あまり自分を責めないで。

 俺は守るべき少女を庇って死んだけど、後悔はしてないし、異世界で元気に仲間たちと暮らしていますから……。


 ──ふと、感傷に浸っていた俺の目先にある洋服タンスの上に見慣れた写真立てが飛び込んでくる。


 学生服を着て、幸せそうに笑っているその人物は俺そのもので、隣にはご丁寧に白い菊の花を添えた花瓶がこじんまりと置かれてある。


 これ、俺の遺影じゃん……。

 カズマ永眠16歳、若くしてこの家にて深く眠る……。


 ちーん……。


****


「あら、カズマ。早いわね。もう用は済んだの?」

「ああ。辛い現実と向かい合ってきて、少々体調が優れない気分だぜ」


 俺は目眩を覚えながら、俺亡き家を後にする。

 この心境だと、もう二度と会うこともないだろう。


「きっ、貴様ら、ふざけているのか!」


 この怒りに満ちた声はダクネスか。

 二組の男性警察官に囲まれているようだし、今度は何のお祭り騒ぎだ?


「お前たちには私が怪しいお店の商売人に見えるとでも言うのか!? 失礼にも程があるぞ‼」

「いや、そんなことは口に出していないけどさ──……」

「こんな夜中にあなたのような外国の女性がそんな身柄で出歩きしていると警察官としても見過ごせなくてね。どこの国の人かな。ビザは持ってる?」

「ビザとは何のことだ! さっきから私を馬鹿にしおって!」

「うーん、記憶の混乱も混じってるか。ちょっと署までご同行願おうか……」


 マズい、このままだと警察を通じて、俺たちの策略が見透かされてしまう。


「お巡りさん、ちなみに私はその女性とは違い、何も変なことは考えていない純粋無垢な女神です。頭の片隅でカズマにATMでスティールして現金を持ち逃げしようとは思っても……」


 俺はアクアの右肩を掴んで無言の警告を送る。

 お前はややこしいから、ずっと黙ってろ!


『スゥ……』


 その途端、俺たちパーティーの体が緩やかな光を纏って全身が薄れていく。


「えっ?」

「何だ? 体が消えていく……」

「おい、まだ話はついていない……」


『シュン!』 


 俺たち四人は数秒も待たずに煙のようにその場から消えていった。


「何だったんでしょう。あの奇妙な連中は……」

「まあ、ハロウィンだからねー……」


****


 俺たち四人はソファーに座って例の開かれた箱を覗き込んでいた。


「何だよ、蓋が開いても何もないじゃんか?」

「本当ね。またとんだガラクタよね。ウィズに文句言わないと‼」


 でも、待てよ、窓の外を見ると蓋を開ける時は昼間だったのに今は夜中になってる。

 一応は異世界に行けたみたいだが?


 肝心の記憶は抜け落ちていて、その真相は闇の中だけど……。


 でも行けたんなら、やるべきことは終わらせたはず……。

 これで周りの連中から後ろ指を指されなくて済むようになるな。


「そういえばカズマに何か聞きたいことがあったのだが……」

「私も同じくです」


 二人揃って何のつもりだ。

 排水溝の詰まりではなく、とどのつまり?


「すまんが、もう眠いし、遅いからご回答は明日の朝な。今日はおやすみー」


 俺は都合のいい寝床を求めて、そそくさとメンバーに背を向けて、リビングから逃げてじゃなく……去っていった。


「──んっ?」


 俺が去ったと同時にアクアがスカートのポケットから何かを探り当て、黄色い猫のようなキーホルダーを指に摘まむ。


「何かしら、このアイテム?」


 キーホルダーの裏にはピカ虫と書かれているけど、猫のような外見で虫って一体……?


「まっ、可愛いからいいか。大事に取っておきましょ♪」


 アクアは微笑みながら元の場所へとアイテムを優しく戻した……。


────────────────────


 これにて全3章に渡ったおまけエピソードも終わりです。

 原作とは少し違った内容で、私なりのパロディを加えた味付けでしたが、いかがだったでしょうか。


 次回からは再び元の時間軸に戻り、物語も第212話からとなります。

 ここまでおまけエピソードを読んで下さり、誠にありがとうございました。

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