第3ーB話 この異世界でやり遂げたいことを!!(2)

『ブロロロロー!』

「ひいっ!? 何ですか!?」


 驚いためぐみんのすぐ隣を走り去る『アラクレ運輸』というオレンジのロゴが描かれたトラック。

 運転する強面こわもてのおじさんはモヒカンの頭に革ジャンを着て、どこぞのユーワーショックな流派だろうか。


「カズマ大変です。小型のデストロイヤーみたいのが沢山いますよ!」

「おい、カズマ、あちこちで狂暴なモンスターが走り回っているのだが、ここまでの支配下とは。お前の故郷は魔王のモンスターに荒らされて酷いものだな!?」


 めぐみんやダクネスが自動車やバイクの走る道端で恐怖と好奇心が混じった発言をする。


 ああっー、お祭り気分もいいが、アブねーから車道に出て騒ぐなよ。

 あとデストロイヤーって何だよ。


「みんなこのくらいはへっちゃらよ。あの大きなのは『とらっく』というモンスターで普段は人を攻撃したりしないわ。でも、たまに気性の激しいのがいて、目の前に突っ込んで来る時もあるから油断はしないでね」


 お姉さんなアクアがキラキラとしたオーラを放ちながら、めぐみんとダクネスに解説する。


 もう俺一人で来るべきだったな。

 色々と鬱陶うっとうしいヤツらだな……。


「しかし……本当に現実世界に戻って来たんだな」


 俺は周りを見渡しながら、見慣れた風景をマジマジと眺める。

 日本の……しかも俺が住んでいた街に帰ってきたんだな。

 偶然にしては出来すぎだったが……。 


 でも、ここに居られるのも12時間程度。 

 それが過ぎると問答無用で元の異世界に戻される。


 これは俺にとっては好機なチャンスだ。

 この限られた時間に俺は実家に帰ることを決意していた。

 どうしても、やり残していたことがあったからだ。


「わー、巨大な鳥みたいなモンスターが上空を飛んでるぞ!!」

「ダクネス、下がっていて下さい。あの奇声を放つ喧しいモンスターは我が爆裂魔法で撃ち落とします」

「ダメよ、めぐみん。あれはヒコーキという便利な乗り物よ」


 だからといって、日中に行っても家族と鉢合わせしたら嫌だから、夜中になるまで待つかな。


 それから、あいつら身なりもだけど、怖いものなしな行動も目立ちすぎだよな。

 特にめぐみんは色んな意味でヤバい。


 俺はジャージのポケットから長財布を出して中身を確認する。 

 金は死ぬ前にキャハハウフフなゲームを買った数千円の所持金のみ……。 


「よし、お前ら。これからいい場所に連れていってやろう」


 俺は犬猿キジを連れて彼女らにとって異界の地を歩み始めた。


****


『秋葉原──』

『秋葉原──』


『プシュー!』


 車掌さんのアナウンスで電車の扉が開く。


「カズマ、確かにアキハバラと言ったぞ! 私たちはここで降りるんだろう!?」

「ダクネス、デンシャの口が開きましたよ。また飲み込まれる前に急いで飛び出さないと!」

「二人とも落ち着いて。この子は大人しくて命令に忠実だから安心して」


 ああ、お前ら電車の中でギャーギャーうるさいな。

 お陰で周りの乗客からの視線が死ぬほど痛い。

 もう死んでる身だけど……。


****


「デンシャというものは快適な乗り物だったな。アクアの羽衣がデンシャの口に挟まれた時にはヒヤッとしたけどな」

「ええ、あの噛みつきには私も驚いたわ」

「エキインという人が怒ったデンシャをなだめてくれて助かりましたね。あのモンスター使いのレベルだったら、デストロイヤーも楽々に操れるかも知れないですね」


 だからさっきから言ってるデストロイヤーって何なんだよ。


 ──よく晴れた空の下、電車から降りた俺たちは秋葉原の繁華街をのんびりと歩いていた。 

 要するにアルミ缶ならぬ、時間潰しというヤツだ。


「しかし、さっきの街と比べて賑やかだな」

「街中がお祭りの雰囲気みたいですね。中には私たちとよく似てる服を着ている人もいますし」


 めぐみんよ、それはコスプレと言うんだぜ。

 いつもより目立つこの騒ぎからして、大方ハロウィンの仮装パーティーだろうか。


「カズマ、私ふらんす料理のフルコースが食べたい気分なんですけどー」

「おい、ここは日本なんだぜ。そんな金持ってねえぞ」 


 アクアが舌を出し、ケチンボと呟きながらふて腐れる。

 ああー、もう妄想の世界ならご自由にどうぞ。


『テレテレテレテレテーレ♪』 


 この曲は薬用石鹸ミ○ーズの楽曲か。

 一体、この世界は何年前で時が止まってんだ?


「カズマ、何か向こうから楽しそうなメロディーが流れていますが、何のお店でしょう?」

「ああ、あれはゲーセンという代物だな」

「この世界の遊技場って所だ。良かったら行くか?」

「はい、喜んで」

「はーい、私も」


 俺の誘いに遊び足りない女性陣の目はキラキラと輝いていた。


****


「カズマ、見てください! 小人の人たちが四角い箱の中に閉じ込められて必死に戦っていますよ! 早く助けないと‼」


 めぐみんが格闘ゲームの基盤を眺めながら持っている杖を構える。


「おいおい、テロ紛いになりそうな物騒な杖を引っ込めろ。あれは魔法の力で絵が動いてるんだよ」


 アブねえな、こんな所で騒ぎを起こしたら、冷たい牢獄に入れられて12時間なんて即座にクルクルパーだぞ。


「ダクネス、あっちにも楽しそうなのがあるわよ」

「本当か? どれどれ?」


 ダクネスが積極的なアクアのリードに連れられて奥に行ってしまう。

 一度噛んだら離さない忠犬ダクネスのことだけはあるぜ。


「あのー、ちょっといいですか?」


 そこへめぐみんが後ろから声をかけられる。


「その格好、アニメのコスプレですよね」

「お写真の方、撮ってもいいですか?」


 いかにもオタクという風柄の若い男二人がスマホを持ったまま、めぐみんに許可を得ようとしていた。


「カズマ、この人たちは何なのですか? コスプレとかシャシンとか変なことを言ってきますが?」

「うーん、そうだな。恐らく紅魔族最強の腕利きなアークウィザード様のファンなんだろう。察してやれよ」

 

 面倒くさく感じた俺は適当なその場しのぎの答えを言ってめぐみんを納得させる。

 ゲーマーな俺にとって同類のオタクとはあまり関わりたくない主義なんだ。

 

「そうなのですか。こんな異世界にまで我が名声が拡がっているとは……」


 許せ、めぐみんよ。

 恨むなら俺のイタチの守護霊を恨め。


「いいでしょう。ならばその目にしかと焼きつけよ! そして尊敬に値するがいい!」

「我が名はめぐみん! 紅魔族最強の魔法使いであり、爆裂魔法を操る勇ましい者!」


「おおー、これはハードルが高いー‼」

「凄いな、台詞までも本物そっくりとは‼」

「すいません、こっちの方にも振り向いてポーズをとってくれませんかー!」


 さてと、マニアックな軍勢に囲まれためぐみんは放っておいて、俺は格闘ゲームでもやるか……。


****


『YOU WIN!』


 フッ……。

 これで数ある挑戦者を倒して二十連勝か。

 異世界に行っても腕は落ちていないようだな。


 この調子で俺の実力というのを見せて、アイツらに俺がリーダーだという自覚を持ってもらってだな……。


「何でそうなるのだー!!」


 新たなライバルとの対戦中に奥から響くダクネスの叫び。

 勝者としての威厳を味わっていたのに調子が狂うぜ。


「どうしてあとちょっとの所でボールが落ちないのだ! 貴様、私にどれだけのメダルを使わせれば気が済むのだー!!」

「お客様、誠に申し訳ないですが、ゲームの台を叩かないで下さい」


 ダクネスが半泣きになりながら、メダルゲームの機械に乱暴な扱いをしている所を強引に止めに入る。


「おい、お前何のつもりだ。やめんか!!」

「いい所に来たカズマ、このゲームはおかしいんだ。さっきから私を小馬鹿にしてだな……」

「アハハッ、お姉さんすみませんでした。コイツ、今日外国から来たばかりでして……」


 俺はダクネスの背中を羽交い締めにして引きずりながら、できるだけ平静に女性店員さんに頭を下げる。


「まっ、まだジャックの豆の木は手に入れてないぞー‼ はっ、離してくれー!」


 コイツ、メダルゲームくらいでマジになるなよな。

 ゲームの基盤って買えば意外と高額なんだぜ。

 迂闊に壊しても、今の俺の持ち金じゃあ、到底、弁償出来ないぞ。


「──何でなのよー‼」

「何でこうまでアームを動かしても取れないのよー!! このポンコツクルミ割り機械ー‼」


 一方でアクアがUFOキャッチャーの基盤を両手で激しく叩きながら大きな声でキレていた。


「だあー、今度はアクアか! お前もやめんか! どいつもこいつも人様の気を知らないでー!」


 ポンコツなのはUFOキャッチャーじゃなく、それを取れない未熟な腕前のせいだろ。


「お前らいい加減にせんと、ガチで牢獄行きになるだろーがー!」

「カズマ! ちょうど良かった! ピカ虫、このピカ虫を取ってよー!!」

「分かったから、それ以上ゲームの台を叩くんじゃねえー!」


 コイツら、俺を指名手配犯に仕立てあげたいつもりか?


 ゲーセンでの暴力行為、器物破損とか、中坊じゃあるまいし、俺の心の方がおかしくなりそうだぜ……。

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