第3ーA話 この異世界でやり遂げたいことを!!(1)
「もしもし、オレなんだけどさ、今週の午後予定あるか……」
「カズマ、あの男、明らかにおかしいです。誰もいないはずなのに誰かと話していますよ。見えない相手との闇取引でしょうか?」
めぐみんがド肝を抜かれた顔でその男を指さすが、違うぞ、めぐみん。
あれは携帯電話の通話中であって、ひとりごとの取引なんかじゃない。
もしもし糸電話を知ってるか?
アレの糸のない状態なんだよ。
『イラッシャイマセ、デゴザル!』
「おい、カズマ、あの不気味なドアは何だ?」
「勝手に人が近づいて、ドアが開いたかと思えば、猿がどうのこうのと喋っているぞ!? 私が知らない新手のモンスターなのか!?」
隣ではダクネスが雑居ビルで経営している喫茶店の自動ドアのことを怪物呼ばわりするし、サルはお偉いさんの言葉遣いの一種でもあって、飛んで跳ねるウキウキ猿とは異名だろ。
「やれやれ。二人ともこの時代に乗り遅れてるわね。本当に何も知らない赤子なのね」
アクアが信じられないと首を傾げて、メンバーのお姉さん的な感じの問いかけになる。
お前なんか、
「いいわ。この際だから私がここの日本という国の情報を分かりやすく噛み砕いてゼリー状にして聞かせてあげるわ」
親心ならぬ、アクアのペースト状に磨り潰したい説明の仕方もよーく分かる。
そう、俺たちは故郷の日本にやって来た。
これは、つい数時間前に起きた出来事だったのだ……。
****
数時間前、俺の屋敷の中庭にて……。
「じゃじゃーん!」
「皆さんにとても素敵なアイテムがありますよ!」
遠路はるばる、俺の屋敷に来たと思いきや、薔薇のような上品な笑顔で手のひらサイズの正方形の箱を見せつけるウィズ。
「ウィズ、それは何のガラクタですか? 私たちはお庭の大掃除で忙しいのですが?」
おい、めぐみんよ。
大掃除程の規模じゃないし、その洒落にならない冗談はどこから出てくる!
めぐみんはチリトリを持って立っているだけだろ。
まあ、俺もホウキをバットに見立てて野球の真似事をしていたけどな。
「じ……実は店の赤字を少しでも無くすために売れ残った商品を在庫整理のために安く販売……じゃなくて!」
「じゃーん! この箱には特殊な能力が封じられていまして、この箱を開けたら……」
「交通費も旅行代もタダな異世界へといけるんですよ! 凄くないですか!」
「ああ、そうですか」
「えっ!? 驚かないのですか?」
ウィズがトントン拍子で異世界に行けることを熱弁しているが、俺はこの異世界に来てるし、無反応になるのも当然だ。
「また、見かけばかりで悪いことも起きたりするんだろ? その商品も」
「えっ? い……いや。行ける異世界という場所が分かる以外に、どのような場所に送られるのかは不明でして……」
「はあ?」
異世界に行ける時間は12時間、それからオプションとして、その異世界からここに戻ってくると向こうにいた時の記憶は綺麗さっぱり消えて無くなる……と色々ととんでもない口を滑らす店主。
俺たちは黙ってウィズの悪徳商法な説明を聞いているフリをしていた。
フリだけなら幼い子供でもできるからな……と俺はめぐみんの方に視線を送るが、めぐみんは不思議そうな目で見つめ返してきた。
「ウィズ、誠に悪いんだが、それを買い取る気はないぞ……その指輪の入れ物みたいな形からして、どう見ても怪しいし……」
「そこをどうか、おっ、お願いします。他では駄目でしたし、是非とも買ってくれませんか! もう三ヶ月も家賃を払っていないんですー!」
ウィズの精一杯の接客スマイルに危険な香りを感じ取った俺は彼女のテリトリーから離れるが、半泣きとなったウィズに後ろからジャージを摘ままれたら、男として逃げようがない。
「何よ、あんたまた下らないものでも売りに来た?」
「ああっ」
アクアが隙をついて、ウィズの持っていた箱を奪い取る。
「こんないい加減なクズな商品なんて誰が買うのよ! この腐れアンテッド」
「いえ……中身は至って優れた魔道具で!」
心配するな、アンテッドは元から腐ってるけどな。
脳味噌からして、発酵食品みたいなものだろう。
「こんなぼろっちい箱を買う必要なんてどこにもないわよ。私の知り合いのフィギュアオタクの玩具くらいにしておいてあげるわ」
そこでなぜアクアは俺の方を見るのだろうか?
ゲーマーイコール人形集めが趣味と思っているのか?
いや、それ箱だし、開けたら美少女が出るとかあり得ないし……。
「アクア様、返して下さいー‼、私のお家賃がかかってるんですよー!」
「でも本当に行けるのなら、せめて場所くらいは教えてくれませんと……」
「めぐみんの言う通りだな」
ウィズがアクアから箱を取り返そうと躍起になっている所を見ながら、めぐみんの率直な意見にうんうんと頷く俺。
誰だって理由の分からない意味深な品を手に取る気はない。
金が絡むとなると余計にだ。
「ううっ……確かに危険ですよね。転移する場所が『ニホン』という名前以外、詳細は分かりませんから……」
ウィズのその『ニホン』という言葉に俺の体がピクリと反応した。
「それ買った」
「「「えっ?」」」
これまで冷やかしだった俺の交渉成立にウィズまでもが目を丸くする。
おい、まさか一国の商売人が忘れたのか?
お前さんが持ってきた魔道具だろ?
──そんなわけで俺たちはその箱で日本に転移したのだが、そこで待ち受けるのは様々な困難、いや、大混乱だった……。
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