第2ーB話 この女神に湖の浄化作業を‼(2)
「きゃああ!?」
ブルータルアリゲーターが檻に近づき、大きな口を開けて格子に勢いよく噛みつく。
ギリギリと耳に障る金属音が周囲に響き渡り、アクアはその音に怯えていた。
「安心しろアクア。モンスターを捕獲するために頑丈な作りとなっているんだ。そんな易々と壊れるような檻じゃない‼」
「そんな寝言を言ってる場合なのー!?」
アクアの四方を取り囲むワニが次々と檻の格子に食らいつく。
じゃ○りこ、じゃ○りこ……。
『ミシ、ミシ、ギリリ……』
「あのー!! 檻からあり得ないような音が鳴ってるんですけどー!!」
「ワー! キャー‼」
俺たちの前方で悲惨な運命を遂げるアクア。
これは流れに身を任せるべきなのか、紳士として助けるべきなのか?
二つの疑問が俺の頭の中をぐるぐるしてる。
「あの中、意外とぬくもりが感じられて楽しそうだな……」
「おい、ダクネス、あれは新居じゃないぞ」
ダクネスが切なそうにアクアの様子を伺っている。
気苦労が絶えないお嬢様にも心の拠り所がほしいのか。
でもアレには床暖房は効いてないからな。
『ギリギリ……』
「きゃっ!? 中に入って来たわよー!?」
ブルータルアリゲーターが前足で檻をこじ開けてアクアの領域に侵入する。
「……あっ」
そのワニがアクアのスカートの裾をくわえて、檻の外へと引きずろうとする。
「やだ、ちょっとやめて!!」
「カズマ、今の私はピンチなのよ! 何で見てみぬふりなの!?」
そう言われても相手はウニやカニじゃなくて、
ここは慎重に行動しないと……。
「いやー! 私、獣に襲われてるんですけどー!」
「もうここで犯されてダメダメな余生を送りそうなんですけどー‼」
アクアの服めがけ、次々と噛みついていくワニたち。
それを見たダクネスだけが己の拳を震わせ、岩影に置いていた愛用の大剣を両手に取る。
「くっ、なんてうらやましい……じゃなく、このままだとアクアが危険だ!」
「ここは私もワニと戯れて……ではなく、仲間を救わないと‼」
「一人のクルセイダーとして、
ダクネスが一人で熱論し、剣を斜め下に構えたまま、檻にいるアクアの元へと猛ダッシュする。
正気か?
お前は波動剣ならぬ、超必殺剣でも発動する気か?
「おい、ちょっと待て……」
「うおおおおー!」
あのな、俺がこのパーティーのリーダーなんだぞ、勝手な行動は……と言いかけたが、すでにあの脳筋女は聞いちゃいねーし。
「でりゃあああー!」
『ザバーン!!』
大きな弧を描いて水面を叩き斬るダクネスの会心の一撃。
ワニたちには直接の攻撃は当たらなかったが、その強烈な剣の衝撃で気絶して動かなくなる。
「アクア……無事か?」
「もう私が来たからには何も心配は入らない。今までよく頑張ったな。次は私と交代しよう」
「えっ、交代するって? ダクネス、助ける前提でよね?」
ダクネスよ、参勤交代ごっこなら余所でやってくれないか?
「あっ! ダクネス、後ろから来たわよ!」
「くっ、いつの間に!?」
隙だらけのダクネスにブルータルアリゲーターの一匹が大きな牙を見せつけながら、今日は鎧抜きの全身黒い普段着であるダクネスのスカートにかぶりつく。
「あっ、コラッ! まだ心の準備が……」
抵抗するダクネスを意図もせずにスカートをずり下ろすワニ。
「ひゃん!?」
ダクネスのスパッツ姿がさらけ出され、下着を履いてる跡までくっきりと見える。
「うっ……あっ……やめろ……!!」
ブルータルアリゲーターはダクネスの服を左右から口で引っ張り、あちこちと下着を露出させる。
「ちょっとー!! ダクネスが来ても全然役に立たないじゃないー!!」
「くっ……お前たちやり方が素敵……じゃなくて、わ……私にはアクアを助けるといった強い想いがあり……」
「だが、このように力でねじ伏せられ、抵抗出来ないように凌辱されるという現状もまたリアルで……」
「ワーッ! キャッー‼」
おい、これはさっきの延長線上か?
俺は粉末のコーヒーをマグカップに入れ、水魔法を注いだ後、一口すする。
たまにはアイスコーヒーも良いもんだ。
「じゃあめぐみん、後のせ天ぷらのようにサクッとやってくれ」
「えっ、どういう意味ですか?」
「何の。最小な威力にすれば大丈夫さ。アクアもダクネスもの個々のステータスは高いんだ。死んだりはしないだろう」
「いえ、カズマ、中身の薄い爆裂魔法など撃ったことが知れたら末代までの恥です」
薄情者か、薄力粉か知らないが、めぐみんが左目の眼帯を少しずらしながら一丁前にカッコつける。
「あのなあ、仲間がピンチなんだぜ。ここでめぐみんの力で助けないとどうする!」
俺はめぐみんの持っていた魔力増幅のマナタイトの杖を奪い取る。
「さっさとやらんと、今度から魔力切れでもおんぶして帰らないからな」
「ぶぅっ……」
気分を害しためぐみんが頬を大きく膨らます。
「ハイハイ、分かりました! これは一つ貸しですよ」
めぐみんが檻に向かって素手を突き出し、呪文の構成を整える。
『エクスプロージョン!!』
「「えっ……?」」
ワニの集団に
『ドオーン!』
『ザザザザー……』
大きな水飛沫を上げ、滝のように流れ落ちた水面にプカプカと浮かび上がるワニの群れと美少女だったもの。
沢山の犠牲を抱えながらもワニ騒ぎは無事に幕を下ろした……。
****
「いやー、浄化もきちんと終わったし、これでお前さんの借金もチャラだな」
俺は動けないめぐみんを背負ったまま、ぼろ切れとなったアクアに
「チャラとかいう問題じゃないでしょ!!」
「ふむ。私はもう少し刺激が欲しかった所だが……」
同じくボロボロのダクネスはとんでもないMっぷりを呟いている。
「本当、何でこんな結果で終わらせるのよ。ワニの群れがやって来て、浄化に集中できなかったじゃない」
「……したらどう責任とるのよ……」
俺は湖の水にすっぽりと濡れたアクアのスカートを見ながら悟る。
ああ、浄化じゃなく、水も飲めない永遠の毒沼に成り果てたな……。
「失礼ね、何を考えてるのよ! アークプリーストはトイレになんか行かないわよ‼」
****
「さて、無事にクエストも終了したし、カンパーイ!」
俺たちパーティーはクエストの報酬金で、お互いを称え合うため、ささやかな祝勝会をギルド内の酒場で開いていた。
「ああ、たいした被害がなくて良かったな。今回のクエストは久々に充実していたしな」
余程、今回のクエストに満足したのか、柄にもなく、今夜のダクネスはほろ酔い気分のようだ。
「アクアもよく頑張ったな。これで飯屋のツケが払えて良かったじゃんか」
「ブツブツ……外の世界は地獄、この中は楽園」
アクアが精気のないやつれた顔でひとりごとを漏らしている。
どうやら外の世界にトラウマができて檻の中に引き込もってしまったらしい。
「うーん、こうなったらこの女神の住む檻を浄水器として売りに出してみようかなー」
「でっ、出ます、出ますからどうかご勘弁を‼」
ちぇっ、つまんね。
また大儲けのチャンスだったのにな。
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