第1ーC話 このアクアに紙切れを‼
「カズマさーん、今度こそ儲かる話を見つけたわよ!」
「お前さん、これ以上貧乏な目に遭うなら、もう普通に働いた方が身のためだぞ」
「ふふーん。今度のは今までとは違い、リスクの少ないお手軽な美味しい話よ!」
美味しい話ならアーモンドチョコじゃ駄目っすかね?
この世界の菓子パンにも食い飽きたし。
「まあ、黙ってこれを見てよ」
アクアが数枚のお札のようなものを見せてくる。
「商店街で手に入れた福引券よ! これで一等を当てて百万エリスを手にするのよ!」
「おいおい、クジなんてそう簡単に当たるかよ。食あたりじゃあるまいし」
「ふふっ、そこでカズマさんの出番なの!」
運のよさしか取り柄がない俺の出番とか、俺の貴重な活躍にそうご期待とか、涼しげな顔で腹が立つことを言う女神。
「あのさあ、お前さん金ないだろ? その福引券はどこで手に入れたんだ?」
「うん、福引がなくても金の力でどうにかなるお金持ちの人から貰ってきたのよ」
アクアが両手を握りしめて、己の美徳の感覚に酔っている。
ちなみに二等は高級の銘酒トロール殺しというものらしいが、金の次の保険として酒に溺れるのか?
「そういうことで親愛なる勇者カズマさん、よろしくお願いね!」
カズマさま早くー! と無邪気な笑顔で俺を手招きするアクア。
この世紀末、ついに女神が人に願い事を頼む時代になったか……。
****
「はい、またまた大当たりー!」
商店街の福引きコーナーにやって来た俺は
「おめでとうございます。またもや三等賞のたわしが大当たりです~」
「ちょっとカズマってばー‼」
アクアが腕の中に大量のたわしを抱えて困ったちゃんモードになる。
「どうして三等賞のたわしばかり当てるわけ!! これなら残念賞のポケットティッシュの方がマシよー!!」
そんなん言われても悪気はないし、クジなんて運の問題だろ……。
「あー、あっという間に福引券が残り一枚に……これが当たらないとカズマのようなニートになってしまうわ」
お前、働くという選択肢はないんだな。
「あれ、良く見ると一等の上に特等がありと紙が貼っているな……」
「えっ、それは大儲けの予感ね!」
アクアが暗い顔つきから、パアーと明るい顔になり、店主のおじさんに質問する。
「おじさん、壁紙に書いてる特等って一体?」
「おおう。お目が高いね。よくぞ聞いてくれた。特等は凄い物だよ」
何でも異世界から持ち込まれた不思議な魔道具で国王でも手に入らないと噂の幻の一品らしい。
いくらの売値になるかは分からないが、貴重な魔道具であることは間違いないと……。
そのおじさんの言葉にアクアの目がとある野球少年のようにメラメラと燃え上がる。
「カズマ、一等なんかより、あの特等を当てて生涯遊んで暮らす大金持ちになるわよ!!」
「いや、なあ、この期に及んで冗談言うなよ。一等も当てれないんだぜ?」
『ブレッシング!!』
アクアが俺の体に手をかざすと俺の体が光に包まれる。
『ブレッシング!!』
『ブレッシング!!』
『ブレッシング!!』
立て続けに俺に魔法を唱えるアクア。
「さあ、運の上昇魔法をたんまりと限界までかけたわよ! カズマ、あなただけが頼りなの!」
おい、神の身でありながらも、そんなズルをしていいのか……何のホラーか知らないが目も充血して怖いし……。
「しゃーねえな。やるしかないか」
「カズマ、ファイト、ラスワン!」
アライグマラ○カルになった俺におじさんも頑張れと鼓舞してくれる。
「よし、特等よ、いでよー!!」
『……ガラガラガラ!』
俺はクジの入った箱を回転させてアクアの気持ちに答えようとする。
『……コトン』
台座に落ちたのは金のボール。
「うひゃああー、ついに出ましたよ!」
「特等の大当たりですー!!」
「「やったあー!」」
拳を胸に構えてはしゃぐ俺にアクアも身を寄せあって喜びを噛みしめる。
「マジでかよ! 何の魔道具だろーな」
「いやー、お兄さんおめでとう。これを引き当てるなんて凄い幸運だね。さあ、遠慮なく持っていきな」
おじさんが四角い化粧箱の包みを俺にくれる。
「さて、なんだろなー」
俺はドキドキしながらその場で箱を結んでいるリボンを解いた。
「……て、あれ?」
その俺の手にちょこんと乗ったのは古びたガラケー。
「あの、おじさん、これってさ……」
「いやー、この品は凄いよ。並みいる王国の魔術師でも使い方が分からない品物なんだから……」
『ズカーン!』
「あえだ!?」
そのガラケーをアクアが握りしめ、おじさんの頭に乱暴に投げつける。
「あんたふざけてんの! 何よこのガラクタは! こんなのいいから今すぐ一等の百万エリスと変えなさいよー!」
鬼のような目つきのアクアがおじさんの服の襟を掴んで、思いっきり突っかかっていく。
「なっ、なんのつもりだい!? いきなり食ってかかってきて……」
「誰か、誰かぁぁー‼ 警察を呼んでくれないかぁー!」
流石に電波がないと携帯電話はどうにもならないよな。
型も古いし、スマホでもないしな……。
****
「あー……」
俺はギルド内の食事ブースのテーブルに半身を倒し、無気力に寝そべっていた。
「たまにはコーンスープが飲みたい気分だよなー」
「コーンスープか? 追加で注文しようか?」
「えっ、あるのか?」
「ええ、普通にありますよ」
この異世界にやって来た人間が作り方を伝授したらしいが、収穫の際に原料のとうもろこしが飛んで逃げて回るので多少は値段が高めらしい。
この世界では野菜は黙って食わせてくれないのか。
「それよりもアクアがいないが、どこに行ったのだ?」
「ああ、あいつの借金を一時的に俺が払う対価として、とことんこき使うことにしたのさ。まずはおつかいに行かせたよ」
はたして爆裂趣味がある幼女でさえもできる初級編、はじめてのおつかい大作戦はうまく事が進むだろうか。
「ただいまー、カズマー!」
「おっ、噂をすれば、お帰りのようだな」
「あのね、カズマ。おつかいをする店の前に美味しそうな惣菜の屋台があってねー……」
「……貴重なとうもろこしをふんだんに使用している天ぷらにつられて、つい立ち寄って……」
アクアが舌をちょろと出して、猫かぶりの表情で俺に謝る。
嫌な予感がするのは気のせいか?
「おつかいのお金全額使って食べまくったって言っても、心が広いカズマさんなら笑って許してくれると思って……」
「てめー、ざけんなよー!」
俺は鞘に収めた剣をぶん回しがら、一目散に逃げる泥棒猫を追いかけた!
****
「カズマさーん、またいい儲け話があるの。とうもろこしのデザートのお店とか……」
翌日、アクアが屋敷の柱の影に身を寄せて俺を誘惑してくる。
もうこれで何度目だよ。
お前、怪しい商売ごっこも大概にしろよな!
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