第0章 このすばーおまけエピソードー

第1ーA話 このアクアに水商売を‼

 ここからは本編から少し離れて、筆者の都合上、泣く泣くカットしていたカズマたちの過去編のお話しとなります。

 ちなみにタイトルの1-A話とは第1章のAパートという意味で、これから第1章から第3章による全3章までのお話しを公開します。


 それではカズマと愉快な仲間たちのおまけエピソードの始まりです。


────────────────────


「このドレッシング高いんだけど旨いんだよなー」


 冒険者ギルドに連なる料理店のテラスにて、俺はヨダレをすすりながらサラダにゴマだれをかけようとワクワクしていた。


「待つんだ、カズマ」

「サラダにドレッシングをかける前には息の根を止めないと……わふっ!?」

「のわっ!?」


 皿にのったサラダが動き出し、同じテーブルで食事をしていたダクネスやめぐみんにもかけたタレをぶっかけ、そのサラダが『キュー!』と鳴いて、羽を生やして皿ごと逃げようとする。


「おい、待て。この行儀の悪い子は! 食事の時のマナーすらも忘れたか!」


 新鮮だからという理由で鳴いたり飛んだり夜逃げするサラダとか……ド○クエの空飛ぶなんちゃらじゃなるまいし。

 本当、飛んでるだけに頭を悩ませるほど世界だな……。


「カズマさん、カズマさーん」

「とってもいい話を見つけてきたわ!」


 そこへアクアが乱暴にテーブルを叩き、生きたサラダの生命活動を強引に止めた。


「おい、お前少しは空気読めよ。食事中くらい大人しくできんのか?」

「そんなの後回しでいいから、これをご覧なさい」


 自慢げに腰に手を当てたアクアが俺に一本の牛乳瓶を握らせる。


「何だ、中身は何が入ってんだ?」

「フフッ、聞いて驚きなさい」


 驚くも何も俺はこんなの配達してくれと頼んでも契約もしてないし、いきなり手渡されてもな。


「この中身は私が心を込めて作った聖なる水よ。それを大量に作って売りさばくのよ!」

「はっ? お前が作っただと……? 怪しいエキスとか入ってないか?」

「ええ、そんな怪しい物は一切入れてないわ」


 この世界を影で支配するアクシズ教の神でもあり、水を操る女神アクア様。

 彼女が触れた水はため池の水だろうか、そこら辺にある泥水すらも簡単に綺麗にするらしい。

 お前、浄化は上っ面で、ただ水遊びがしたいだけじゃね?


「……と言うことはコレはお前の成分がつまったバッチイ汁なのか?」

「バッチイ汁なんかじゃないわよ! それよりこれを売れば、無駄に出費はかからないし、お徳な考えでしょ?」


 お得なのはスーパーの惣菜だけで結構だけどな。


「ああ、女神様、私の賢すぎる頭脳に惚れ惚れしたでしょう。これにて飲み屋の借金も全額支払うことも出来て、薔薇色の人生が待ち構えているわ」


 アクアが両手を握って空にいる神様に祈りを捧げる。

 おい、祈る以前にコイツ、水の女神じゃなかったか?


「さあ、ダクネスもどうかしら? 一本一万エリスで売るわよ」

「ああ、了解だ。そこまで価値のある水なら一本……」

「ダクネス、これは巧妙な詐欺の手口です。引っかかってはいけません」


 箱入り娘なダクネスがアクア水を買おうとするのをキッパリと阻止するめぐみん。


「ええー、流行に遅れをとっていいの? 今なら女神のご利益がセットで付いてきて……」

「高いわい! 普通の水がそんな高額で売れるかよ!」


 俺は牛乳瓶をてへぺろアクアの後頭部に投げつける。


「痛いわねー、何するの! 商品は大切に扱いなさいよ!」

「人のこと言えた義理か! まずはちゃんと定められた金額にしろ。一緒に売りに行くのはその後からだ」

「え? ホントに? カズマさん、ヤサシー」


 俺はアクアにとってヘルシーな野菜な存在なのか?

(聞かぬは一生の恥)


****


 晴天の空の下、俺とアクアは首に商品の入った棚をぶら下げ、街の商店街でアクアの作った商品を売ることにした。


「さあさっ、ご覧遊ばせ!」

「信頼あるアクシズ教団による名水の『アクア水』、今ならお買い得ですよー!」


 アクアが宴会スキルを発動し、おもちゃのラッパを吹き、両手から水や花や小鳥などを出して呼び込みを始める。 


「ハイハイ、カズマさんも笑顔でお客さんを集めて集めて! そんなふて腐れた顔じゃあ、お客さんも来てくれないわよ」 

「あー、はいはい」 


 いや、お前の芸だけで十分だし、スマイルゼロ円ってやる気出ねーよな。


**** 


「おっかしいわね! 適正価格よりも安値なのに一本も売れないじゃない!」

「うーん、お前の芸がおっかしーかな?」

「何よ、私の宴会芸は一流よ!」


 水道とかの浄水の施設がないこの異世界では、この天然水は問題なく売れると思うんだが、アクアの呼び込みがううん臭いのか……?


「ねえ、こんな調子じゃあ、この在庫どうするのよ! 水割りにしても数年は持つわよ!」


 そんな涙目で訴えてきても俺は飲んだくれじゃないし、製造にも関わってないんだが……。


「あっ、水の神様、お水をくれませんか?」

「えっ、私のことですかー?」


 不意にした声にアクアと俺が振り向くと、その前方には魔法の杖を持った一人のおじさんがいて、そのおじさんに空のツボを持った人が群がっていた。


「水の神様、私にも下さい」

「僕にもお願い出来ますか、水の神様」

「あっはっはっ、いいとも、いい客人ともよー」


 おじさんが杖を床に垂直に立て、空いてる手を目先に添えて、地面に置かれたツボに呪文の詠唱をする。


『クリエイトウォーター!』

『シャアアアア』


「「「わー!!」」」


 おじさんの片手から溢れ出す水のシャワーがあっという間に空のツボの中を満たし、お客の感動の声援が響き渡る。


「あの、そこのお姉さん。あの水の神様って一体?」


 俺はツボに並々と水を貰ったそばかすのお姉さんに質問をする。


「ええ……あの人は昔、魔法使いをこころざしていた人よ」

「念願の魔法使いにはなれなかったらしいけど、どうにか初級魔法は何とか習得できたらしくてね、ああやって趣味で水を出して無料で配っているのよ」


 みんな、それであのおじさんを水の神様と呼ぶようになったらしい……って、あれ、アイツが消えたぞ?


「あんた、ちょっといいかしら」

「なんだい、君も水が欲しいのかい? ちょっと待ってね、今、順番通りに配っているから……」

『ズバシャーン!』

「うわぶっ!?」


 おじさんが振り向いた瞬間、アクアが桶に入っていた大量の水をおじさんの顔面に勢いよくぶっかける。


「あんた、誰の意見に従ってこんな違法な水商売やってんのよ!?」

「なっ……、いきなり何だね……君は……」


 水圧で顔がやつれたおじさんの襟首を引き寄せるヤンキーなアクア。


「やるんなら無料じゃなく、ちゃんとお金をお客から取ってアクシズ教に寄付をしなさいよ!」

「わー!? だから何なんだ!? 誰かこの女性を止めてくれー!!」


 ああ、そうだった。

 この水商売なら、俺でもできるんだったな。

 おじさんも悪い女神に絡まれたもんだ……。

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