第211話 このめぐみんの想いに真っ当な返しを‼(2)

 可愛い女の子なら手当たり次第に手をつける、恋は盲目なカズマという男。 

 そんな彼の部屋だけに灯りが点いている深夜の屋敷内にて……。

 今、運命を裏付けるこの一晩の物語が始まろうとしていた……。

 

 ──まだ指名した彼女は来ないのかなと思いながらベッドに座り、さっきから落ち着きがない俺。

 待て、挙動不審な態度をするな、相手も一人の女の子で心細いんだ。

 男なら心拍数増加な状態でも、真っ正面から堂々と立ち向かえ!


『……コンコン』

「カズマ、私です。いますか?」


 ドア越しに聞こえるめぐみんの声に俺の猫背な背筋がピンと伸びる。


「おおうううおどどどーぞ!」


 心の整理が落ち着かず、テンパった俺は平等院鳳凰像の三体目の知り合いみたいな台詞を叫びながら、めぐみんを迎え入れる。


「……夜分遅くにこんばんは」


 華奢な肩を露出にした、よそ行きの赤いAラインのパーティードレスという姿に腕にちょむすけを抱いためぐみん。

 同じ家の中なのに愛らしくおめかしまでして、腕の中にいるちょむすけはその照れ隠しとして連れてきたのか?


「……そういえば、こんな夜更けにカズマの部屋に来たのは初めてですね」


 顔をほんのり紅くし、恥じらいながら俺の前で戸惑いを見せるめぐみん。

 ちょっと前までは俺のことをセクハラ魔神などと警戒していたのに……。 

 月日が流れるのは早いものだ。

(ちょっと違う)


「おおっう、もう一年越えて同じ空の下で暮らしているのにな!」


 落ち着け、俺の鼓動。

『同じ空の下』だったら戦後の青空教室みたいな返しだろ。

 もっと言葉を選ばないとこの内に秘めた想いを勘づかれるぞ。


「こんな深夜に訪ねてきた理由ですが……」


 めぐみんが俺の座るベッドの隣に腰かけて、ちょむすけを膝に乗せ、伏し目がちに話しかけてくる。


「実は前から言いたかった話のことで……」


 分かってるさ、勿体もったいぶらずにさっさと出せよ!

 ちなみに文面からじゃ分かりにくいが、泥酔状態の酔っ払いを介抱する展開ではない。


「そっ……それで話したいことですが……」

「だっ、だから話したいこととは!?」


 俺はハアハアと息を吐き、興奮を抑えきれずにめぐみんの顔に自身の顔を近付ける。


「ちょ、ちょっとカズマ! 顔が近すぎですよ。そんなに焦る必要はないでしょ!」

「焦るっていうかもう決定事項を述べるようなもんだろ! さっさと続きを言えよ!」


 めぐみんがベッドから床に下りて、真っ赤な顔をして、俺から顔を反らす。


 あっ、今ので確定したぞ。

 コイツ俺のこと、好きなんだな。

(自意識過剰な男)


「実はですね、ずっと黙っていましたけど……」


 意を決して凛とした表情になっためぐみんが俺に向き直り、ちょむすけを胸に優しく抱く。  


「この子は普通の猫じゃないんです」


「ああ、知ってるさ」

「それでアーユーレディー、大事なお話とはなんだい?」


 背景に華やかな光の演出を入れ、過去最高の爽やかなイケメンスタイルでめぐみんの好意に答えようとする俺。


「はっ?」


 めぐみんが鳩が豆鉄砲を食らったように動きが止まる。


「はいっ?」


 あれ、俺の予測が外れた?

 ここは『カズマ、私と愛と冒険の修学旅行しましょう』じゃないの?


「いえ、あのですね。このちょむすけの正体をカズマにだけに伝えようとして……」

「ああん!? こんな夜更けにそんなどうでもいい話を持ちかけてきたのか!?」

「それくらい承知だぜ。その猫もどきが亀の怪獣ガ○ラみたく炎を吐いたり、のんびりと空を飛んでいたのを見てきたからな!」


 ちょむすけを勝手に怪獣遺産と命名する俺。

 さあ、深海火山で眠るゴ○ラ君、出番ですよー‼


「何、この期に及んでふざけているんです? この子は猫に似ていますが火を噴いたり、飛んだりはしないですよ」

「だから俺、実際に現場を見たんだって!」


 俺は真実を明かしてんだ。

 人をそんな可哀想な目で見るなよな‼


「あーあー、そんな下らん話もここまでだ! めぐみん、お前さんはもっと熱い想いをぶちまけるために来たんだろ!?」


 俺は年上の立場として、めぐみんに説教を始めた。


「なんだ、お前、日頃から俺を筋金入りのヘタレとか言ってくるのに実際のお前も牛スジ並みのヘタレじゃんか!!」

「なっ、ヘタレとは何のことですか! 私はこの子のことを話に来て……」

「嘘つきは故意な泥棒の始まりだぜ、めぐみん!!」


 俺の強烈な威圧に恐れをなしためぐみんが一歩後ずさる。


「俺に言いたいことは別にあるだろ!? その想いをここで声に出して楽にしちゃえよ!! いや、もう言ってるような感覚だしな!」

「俺に対して、しょっちゅう好きですとか愛してるとか言って悶えてんじゃん!」

「ああ、もう能書きはいいから、勇気を出してさっさと言えよ。待たされる身にもなってほしいもんだぜー!!」


 口を尖らせた俺による激しいトークの連続に受け答えもしないめぐみんが奥歯を噛み締める。


「なっ……愛してるとまでは言ってません!! こんな場所で妄想のヨタ話をしないでもらえますか!!」

「本当、無礼で失礼な男ですね!

今晩はこの子と一緒には夜を過ごして下さい!」


 俺に対して怒っためぐみんから、ちょむすけを強引に手渡される中、俺はある言葉だけが胸に残っていた。

 えっ、『今晩は』って一体どういうこと……?


 ……じゃなくてだな、おい、めぐみんよ、またこんな後味の悪い終わらせ方で締めるのかよー‼



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