第210話 このめぐみんの想いに真っ当な返しを‼(1)
前々からめぐみんの俺に対しての好意は感じていた。
俺は超戦士のフリした野郎でも、言われるまで無反応な鈍感タイプでもないからそういったことはすぐに見抜ける。
だけど、ここで慌てても年下のめぐみんにとって、年上としての頼れる兄貴……いや、存在自体が欠けてしまう。
ここは下手に動揺せず、普段と同じくクールビューティフル的に食事を摂ろうではないか。
俺は黙ってリビングの椅子に座り、本日の夕食を長々と待った……。
****
「ねえねえ、これは吉報よ!」
「暇潰しに商店街をウロチョロしていたら、感謝祭のお祝いのイベントで余ったお酒を無料で貰ったわよ」
酒となるとえらくご機嫌なアクアが食卓のテーブルに、三、四本の一升瓶を並べる。
「どう? どれも普通に買ったらお高いお酒たちよ! 今日はみんなで朝まで飲み明かすわよ!」
しかも品質が良くて金がかかってないんだ。
スーパーの安売りタイムセールか知らないが、この単細胞な女神が有頂天になるのも分かる。
心が読めるエスパーじゃないのでそんな気がするだけだが……。
「ふむ、これはこれは。どれも一級品の銘柄だな」
テーブルに丸皿を持ってきたダクネスも喜ばしい顔で……そんなに酒の匂いが香ばしいか?
「祭りの間は書類整理などに追われて、みんなとは楽しめる期間がなかったしな。今日は久々に羽目を外して私たち限定の打ち上げをしようじゃないか」
げ、げ、かきくけ、げ。
心で歌おうかきくけこ。
俺の頭の先っぽにある妨害センサーが反応する。
この流れはマズイな、どうかして打開策を練らないと。
「おっ、おい、ちょっと待てい。みんな疲れてると思うから今日は早めに寝ようぜ」
「うん どうしたカズマ?」
「祭りも領主代行も終わったし、最近はそんなに疲れてることはないが?」
ダクネスがテーブルに片手をつけて、俺の顔色を伺う。
「私も全然へっちゃらよ? それに珍しいわね、目の前に美味しいお酒があるのにヒキニートが飲まないなんて」
いや、お前知能はないけど、体力だけはやたらとあるしな。
「あのさあー」
「俺は毎日のモンスター退治とかで疲れたからさ、今日は早めに床に着かせてもらう……」
「はあ? お前、今日は奇声を上げながらゲームのモンスター討伐ばかりで屋敷の外には一歩も出歩いてないだろ」
「それに毎日食っちゃ
くっ、S系にも目覚め始めたダクネス、気持ちは分かるがそれ以上は意見するな!
ちょっとは俺の男心の空気を読めよ!
「別にそんなに
キッチンからピンクの鍋つかみを着けた両手で熱々の土鍋を持ってくるめぐみん。
「みんなで朝まで楽しむのも吉ですよ」
「なっ、
「めぐみん、本気で言ってるのか!? 今晩は秘密の密会が……」
「そんなこと明日でも三日後でもいいでしょ? 時間ならいくらでもあるんですし」
めぐみんが今日は俺の好きなイノシシ肉の入ったぼたん鍋とか言いながら、肉は店で売っているものではなく、野生のイノシシだから経験値アップも出来て、二度美味しいとほざている。
この女、自分で言ったこと全然理解してねーよ!
「あら? カズマ、いつもより落ち着きがないわね? 意味深にデレデレと鼻の下を伸ばしてみたりして、たまに街中の怪しげなお店に外出するような顔つきよ?」
「なっ、何でもねえよ!? 今晩は俺の好きなイノシシ鍋だからイッシッシって落ち着かないんだよ!」
めぐみん、どうしてここでお預けプレイなんだよ。
向こうから期待させることを言ってきて、じゃあ次回にしましょうとか、お前は俺の純粋な気持ちをどう思ってんだよ!
****
次の日の屋敷での夕暮れ……。
俺はまだ皿すらも並べていない食卓の前で腕組みして冷静に事を構えていた。
ちっ……。
本当に昨日は何もなく、めぐみんとのイベントフラグは立たなかった。
一晩中起きて待っていただけに寝不足だ。
まあ、俺も男だ、この程度でめげるような心の狭い男じゃない。
さあ、悩むより行動だ。
今日こそはめぐみんと大事な話を……。
「……なあ、めぐみん、今日は俺と」
「ねえ、めぐみん、これ見てよ!」
俺からの誘いの邪魔をしたアクアが平たい大きな箱をめぐみんに突きつける。
「すごく面白そうなゲームを押し入れから発見したの。今晩はこのゲームで遊びましょ‼」
「はい、望むところです。その挑戦を受けて立ちましょう!」
「おっ、おい、めぐみん待て!」
めぐみんは俺の存在すらも気付かず、アクアと共に部屋の奥へと行ってしまった。
くっ、残念だが用件は明日に持ち越しか……。
****
翌日……。
「めぐみん! 今晩は大人の嗜みとして女子会をするわよ。時間をあけておいてね!」
その翌日……。
「めぐみん! またまた面白いゲームを発掘したわよ。今晩は一緒に遊びましょ‼」
さらに三日後……。
「めぐみーん! こんばんはならぬ今晩はー」
めぐみんから誘われた後日からタイミングが悪すぎるアクアからのお誘い。
それは止まる気配を一向に見せない。
「──あー、こんにゃろーめが!」
一週間連続新記録のアクアの誘い文句につられるめぐみんに俺の中にある野獣が吠えた!
「アクアのこんちくしょう、朝まで縄で縛って人気のない軒下に陰干ししてやりたいぜ」
毎晩、こんな感じで例の約束を無視させて。
これじゃあ、眠れない日々が続いて身体に毒だぜ……。
「……カズマ」
そんな悩み多き青少年な俺の後ろからめぐみんが言葉をかけてくる。
「約束の日から結構な日が経ちましたが、今晩私からカズマの部屋に行きますから……そこで……」
ひゃっほーい!
待ち人きたるとはまさにコレだ。
ついに禁断の果実が彼方からやって来たぜー‼
(テンションアツアゲMAX)
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