第209話 この感謝状に感謝されたくない気分を‼
感謝祭も終わり、再び、元の日常に戻った俺の屋敷にて、アクアがリビングに顔を出す。
「カズマ、セシリーから感謝状を貰ったわよ」
「何なに、ちょっと読ませろ……」
俺は朝っぱらから上機嫌なアクアが持ってきた、成金業者お手製な金の紙切れに目を通す。
──今回の件にてボロ屋敷だったアクシズ教団アクセル支部の教会を新築し、立派な建造物となりました。
さらにエリス協会からの決断で来年からもアクシズ教団はエリス教団との合同でお祭りを運営してもらえることになりました。
これもみんな私たちアクシズ教会に沢山の寄付金を払ってくれたサトウカスマさんのおかげです。
ですのでこれを機会にあなたを有無も言わさずアクシズ教徒としての認定をします──あなたの愛しのセシリーより。
「──セシリー、認定しまーす! じゃねーよ!」
「わあああーん!!」
どう考えても悪ふざけに近い内容に無性に頭にきた俺はその場で感謝状を上下に破り捨てる。
おまけにカスマってなめてんの?
私、記憶力には自信ありますと得意気に人の名前も間違えやがって!
「どうして紙ときたら、毎回そんな風に無造作に破るのよ。人力シュレッダーニート!」
「うるせー! なんで俺が強制的に駄女神のアクシズ教徒にならないといけないんだ! 嫌がらせとしか考えられないだろーが!」
全く、手持ちの全部の金を祭りの資金に回したあげくも経営に失敗し、落ち込んでいたアクアに、俺が見るに見かねてアドバイザーで儲けた報酬を渡したのにこの有り様だ。
これにより、黒幕のことも無かったことに出来ると計算した上の行為だったのに……。
「ふふっ。照れ屋なカズマ、いつものツンデレ発動かしら。セシリーから聞いたわよ。カズマさんはツンデレの固まりだから嫌いと口に出したら、それは実は好きだという意味なことくらい存じてるわ」
「俺、セシリーとお前が大嫌い」
今この大空に誓おう。
俺はこの生意気な女神と、人様の恋愛に関して勘違いな側近をこれからも好きになることはないだろう。
「あら、どうしてなのかしら? 少しもツンデレのような可愛らしいデレの要素が伝わらないんですけど。まあ、それよりも他に聞きたいことがあるの」
「……今度は何だよ」
「エリスがミスコンで現れた後から姿が見えないんだけど、行き先に心当たりある?」
「はあ? この辺に居るじゃないのか?」
「それが見かけないのよ。しかもあの子、地上に来たのに、この私に挨拶すらもしないのよ。女神として、丁寧丁重な挨拶は基本中の基本の作法よ。親しき中にも礼儀ありって言うでしょ」
「今後、冒険者の中心役として恥じることがないように、先輩としてバシッと言っておかないとね」
あんだけエリスに迷惑をかけてるのに、それでも先輩面して威張っているお前もある意味スゲーよ。
「……やれやれ、やっと業務が終わった」
「エリス様が現地に現れたことには感謝だが、こうまでこの街の移住希望などの声が上がると手が回らんな」
「お疲れダクネス」
頭に手を当て、疲れた表情なダクネスがリビングに現れる。
「領主の仕事も忙しそうだな」
エリス様が降臨したせいでこうまでこの街の流れが潤うとは。
まあ、それだけ人が増えるのも街としては嬉しいことなのだが……。
「父の容態も回復したんで、領主代行の仕事も今日で終わりになる。明日からはカズマたちと一緒にクエストに行く気は万全だ」
「えっ、お前さん、何を青い鳥のように呟いてんの?」
俺からの意外な台詞にダクネスの体が真っ白な灰になる。
「俺はこれからは働かないよ? 働く理由も綺麗さっぱりなくなったし」
これからは料理スキルを活かし、可愛いメイドな店員を集めた萌えなファミレスでも始めようかと模索中だ。
オーダー、チーズインハンバーグ一名様でーす!
(ソイツ誰だよ?)
「だからさ、もう命を削られるような危険なクエストには行かないさ。アクアもそう思うだろ?」
「そうね、私にもゼル帝の教育の方針があるし、今後のことを考えて遠慮したいわ。1文無しになっちゃったけど、これからはカズマのお金を使って平和な生活を送り、年に一度お祭りで崇められる日常を送るの……」
「おい、ちょっと待て、俺がいつお前を養うと言った? 食事代くらいなら出すが、小遣いくらい自分で何とかしろよ」
「それに俺がお前に渡した大量の金はどこにいった?」
あんなにあった金なんだ。
いくら湯水のように金遣いが悪くても数日で無くなるわけがない。
「えっへん。さっきも言った通り、全部使ったわよ! でもお小遣いなら次の儲け話を考え中だから問題ないわ!」
貧乏神アクアが俺にピースサインをしながら堂々と思惑を口に出す。
「……あのな、そんなドヤ顔で話されてもな」
いい加減コイツの金の使いっぷりに呆れ返ってしまう。
どういうカラクリだ?
この異世界にお馬さんやボート君なギャンブルはないはずだが……。
「カズマもアクアも祭りの時はイキイキとしていたのにどういう心境の変化だ?」
あの固いだけが取り柄のダクネスが俺たちの変化に気付くなんて……。
頑固たわしな俺もやわになったもんだ。
「それにアクア、どんな商売をするかは知らないが、行う前には私に言ってからやるのだぞ」
「嫌よ、儲からなくなるなら」
「ア、アクアー、貴様ー‼」
ダクネスの怒鳴り声が屋敷中に響く中、アクアは聞く耳も持たずにダクネスを無視し、両耳を手で塞いでいた。
「──あーあー、
めぐみんが二人の暴動を眺めながらソファーに寝転んでいる俺に話しかける。
「ろくに楽しめるイベントもないまま、ドタバタで終わった感覚ですよね……」
「……まあ、いかにも私たちらしいですけどね」
「そうだな、お祭りというならもっと浮かれてふざけて、マジックで描かれた顔の腹で踊りたいムードもあるだろうによ」
俺もこの世界に来てそれなりの月日が過ぎたんだ。
そろそろ宴会の司会役も務まるだろう。
「どうせなら祭り自体を延長して、美少女を隣にまともな花火大会を見たかったぜ」
「クスクス」
めぐみんが俺の言葉を糧にお嬢だけに、お上品に笑う。
「そうそう、カズマは誕生日を迎えたばかりですよね。私からもプレゼントをあげないとですね」
「えっ? そんな気遣いしなくてもいいぞ」
でもタダで貰えるのなら貰っておこう。
アクアみたいに無駄に重い漬け物石じゃないと思うし。
おまけに場所も取るしな……。
「……カズマ」
すると、めぐみんが俺に近寄り、目の前で小声にて話しかけてきた。
「食事を終えてから今夜、私の部屋に来ませんか?」
「……是非とも、言っておきたい大事な話がありますので……」
めぐみんからの大胆な発言に胸が高鳴る。
本日の恋する屋敷の夜は明けそうにないと……。
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