第205話 このミスコンに参加するレベルの高い女性の価値観を‼(4)

「エリス様、最近の俺ついていないんですよ。俺と握手してその幸運の女神のご加護とやらを少し分けてくれませんか!!」


 会場から一人の青年なる観客が出てきて、エリスとの握手をせがんでくる。


「お……、俺も」

「俺もだ、俺にも握手をエリス様!」

「バカ言うな、俺が先だぞ‼」


 その青年をきっかけに次々と沸き上がる男たちの握手のコール。


「エリス様、ウチの家には腹を空かした数匹の子猫がいるんです! 餌代もろもろ育てる費用を含め、どうか宝くじでドカンと大当たりしますようにと……!」

「エリス様、ワシのハゲた頭から髪の毛が生えるよう祈りを籠めて下さい……!」


 次々とステージによじ登り、あれこれ理由をつけてエリスとの握手を求める観客たち。

 エリスは少しひきつった微笑みをしながらも悩みある者たちとの握手をそつなくこなしていた。


「ああっ、エリス様の手を握りしめて、そのまま離さない下心丸出しのヤツもいるぜ!」

「このままじゃ客が狂い咲き、エリス様が何事もなかったようにさせられる!」

「おい、アイギスの兄貴、今こそ真の力を発揮し、エリス様を守るんだ!」

『うう、おおおお……』


 アイギスが気高く鎧を振動させる。

 これぞ高貴なる貧乏ゆすりってか。  


『何なの、鎧として生まれてきて俺こそが命運みたいなお言葉は!』

『ああ、鎧に誓って約束する。俺、絶対にキミを守り抜くよ‼』

『エリス様のもちもちな肌と生まれたままの処女はこの聖鎧せいがいアイギスが守ることを誓うよ‼』

「はあっ、お前頭イカれたか?」

『何の! エリス様は女神なんだから純潔のまんまだろ!』


 エリス様が男の裸を見る日があれば、キャッと恥ずかしがって両手で顔を覆う人に違いない。

 でも、興味本心でその指の隙間からちらっと一部分を見たりするとか……おい、アイギスの頭の中はお花畑でいっぱいか?


『そんな心優しくて温かく、いい香りがするエリス様にー!』


 アイギスがエリスに群がるオス蟻の集団に走り込み、ラグビーのように強力なタックルを仕掛ける。


『オラオラオラー、そんなうす汚れた手でエリス様に触れてんじゃねー‼』


 若干、アイギスの攻撃により、場外へ吹っ飛ばされる数名。 


 しかし中々懲りずにステージ上に這い上がってくるヤツらもいる。

 ここにいる野郎共は血に……いや、生きた女に飢えたゾンビか?


「エリス様、ご無事ですか!?」 

「はい。でもカズマさんこの騒ぎは止められそうにありません……」

「ここにずっと居るのは危険です! 男連中の毒牙にかかる前にアイギスの中に入って‼」

「ええー!?」

『合点承知の丸』


 エリスが理解を越えた冗談についていけないようだ。

 俺もアイギスもエリス様のためを思い、ガチで言ってるけどな。


『ちなみに俺を装備する時の合言葉は『わたし、アイギス君のお嫁さんになるね!』ですよ。せーのー!』

「あっ……はい。わ……わたし、アイギス君のお嫁さんにな……」

「エリス様も毎度ながら騙されないで下さい! アイギスもこの緊急時に呑気に遊んでる場合か!」

『てへぺろw』


 アイギスの兜から長い舌が伸びたような気がした。


『しょうがないですにゃん……では逝きますよ、ご主人様』


 エリスの後ろにアイギスが瞬時に移動する。


 隠し持っていた瞬間移動か?

 コイツ、マジで好きな子を守りたい一心だな。


『究・極、合・体!』

「わっ、何だ!?」


 エリスとアイギスの身体が閃光に煌めき、激しく輝いた。

 その光景に眼を細める野郎たち。


「……あっ、あれ?」


 光が収まると肝心の美少女はどこにもいなかった……。


「おい、エリス様が急にいなくなったぞ」

「どこに行ったんだエリス様は?」

「もしや、忙しい身なんで天界に帰ったのか!?」


 動揺する観客たちはエリスを捜して、ギラギラと野獣のような瞳で無きエリスを追い続ける。


『カ……カズマさん、あの……』

『私、どうなっているんですかー!』


 衝撃か、はてや混乱か。

 アイギスの鎧に封じこまれ、みっちりとサンドされたエリスが恥じらいと窮屈さに悲鳴を漏らす。


「よし、作戦コードネームH(ホールド)成功です。エリス様、そのアイギスの中に入ったまま、この場を離れて下さい」

『ええっ、でもそれじゃあ……』


 アイギスの中のエリスが困惑のまま、動く気配を見せない。


「おい、どう見てもあの鎧とあの男が怪しいぞ!」

「お前ら、エリス様をどうしやがった!」


 くっ、早速だな、早くも疑いの目が俺に向けられるのか。

 正義のヒーロー(違う)は辛いぜ。 

 

「さあ、行くんだアイギス! 俺があの変態で煩悩まみれな連中の足止めをするから!」

『おっしゃ、ここは任されたぜ!』

『カズマさん……それは無茶です。多勢に無勢です……』


 エリス様、こんなにも敵が多い俺の身を案じてくれて……ほんと優しい子だな。  

 でも今ここを守れるのはこの場に一人しか、男の中の俺しかいない。


「いいえ、俺なんかに構わず、チリホーキのように『さっさっさー』と行ってください、お頭」

「味方のかしらがピンチに陥った時の逃がし役を下っにやらせるのは、どの世界でも万国共通ですよ」

『……助手君……』


 エリスと一体化したアイギスがノシノシとここから去っていく。

 さあ、ここからはヒーローの出番(だから違う)だな。


「さて、おい、野郎共! 調子に乗るのもここまでだぜ!」

「エリス様を手に入れたいならTHE・幹部の俺を倒すことだな!」


 俺の意表をついて、周りを取り囲む野郎たち。

 やれやれ、卑怯な手だな、逃げ場なしの袋叩きときたか。


「何だ!? この貧相な小僧は!」

「幹部か、わたあめか、何か知らねえがやっちまえー!」


 最終日となる夏祭り。

 祭りの定番として屋台に花火大会、そして喧嘩も祭りの鉄板メニューだろ!


「おいやあぁー、冗談抜きで掛かってこい、この雑魚どもがぁぁー!!」


 俺は勢いに乗って野郎共を挑発する。

 アイギスの気分と同様、エリスという一人の大切な女性を守るために……。

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