第204話 このミスコンに参加するレベルの高い女性の価値観を‼(3)
「いやー、今回も笑わせてもらったぜ」
不意をつき、俺たちの横を通りすぎる若い二人組の男の声。
「美人コンテストなんかやってもこの街は色物の美人ばかりだからな。まあエリス教徒の考えにしてはそれなりに面白かったな」
どうやら二人組はこのミスコンイベントの感想を述べているらしい。
どれどれ、ここは発案者として耳を傾けますか……。
「確かにな。でも頭がお堅いだけに所詮は考えが平凡だぜ。来年からはアクシズ教団の祭りだけでよくないか」
「そうだな。マニュアル通りのエリス教団とは違い、アクシズ教団はバカでも俺たち客のことをよく分かってる」
「そうそう。バカだけど盛り上げ方とかも上手だよな。バカなんだがな」
「エリス教団の頑張りは認めるけど、年に一度のお祭りは賑やかじゃないとな」
「全くもってだな。来年以降はアクア祭のみにするみたいでそれを希望の署名活動もしてるみたいだぜ」
「あははっ、それウケるな。どうせアクシズ教団の連中だから今日もバカなことやって署名してんだろ。ここのイベントも終わりだし、そっちにも顔を出すか」
「うっし、そうと決まれば行こうか!」
俺とクリスは彼らの率直な意見を聞き、何も反論できずにこの場に立っていた。
「あははっ。ウチの子たちも頑張っていたけど、現実がこれじゃあね……。まあ、事実だから仕方ないか」
先に口を開いたのはクリスだった。
彼女が困ったように頬を掻きながら精一杯の返答をする。
来年からはエリス祭りが無くなりそうでも、クリスは忙しい身なのでそれを楽しむ時間は限られている。
こんな状況下でも、モンスターに脅かされている人がいるから少しでも神器を集めるのが優先だと……。
俺の目に映るクリスはいつにも増して健気に見えた。
「……ということで湿っぽい話はこれでおしまい。だからさ、アイギス、あたしの言うことを素直に聞いてくれないかな?」
『えっと……ちょっとだけ心が震えたけど、だからと言って流されはしないからね!』
「……キミさ、少しは人の話聞いてんの‼」
二人が口喧嘩でもめる中、俺はアイギスに静かに重い口を開く。
ちなみにお頭、アイギスは人じゃないです。
「おい、自称さすらいの風来鉄アイギスとやら」
『てやんでい、ボロ畜生』
「お前さんに史上最高の美少女を紹介したら、クリスの言うことも聞くか?」
『はあ? どこにそんな美少女がいるんだよ……?』
俺たちの間に季節外れの寂しい北風が吹いた。
『あっ……分かったぞ』
『あのさっきのふざけた仮面のおっさんに美少女になってもらって、それで『これにて美少女を紹介しました、あとよろー』みたいな感じをやるんだろ……』
鼻息を荒々しく吹き出す鎧を後ろに下がらせ、俺はクリスの目をまっすぐに捉える。
「お頭、いえ今だけはエリス様と言わせてもらいます」
「すみません、物凄く重大なお話になるのですが」
『はあー? そのオトコ女な嬢ちゃんはクリスじゃないのか? エリス様って何のたちが悪い冗談だよ』
「了解、助手君」
クリスが落ち込んだ面持ちのまま、俺の返事に答える。
「いいえ、是非ともお話を聞かせてもらいましょうか、カズマさん」
「私は人の上に立つ女神。私にできる範囲内なら遠慮なく話してみて下さい」
クリスの顔つきで明るい笑みになったエリスは真正面から俺の相談に乗ってくれた。
ああ、誰にでもお優しく接する女神様。
こんな俺のワガママごとに付き合わせてすまねーな。
『おい、お前ら、何の会話をしてんのさ?』
アイギスだけがことの重大さに気づいていない。
考える脳みそがないだけに能天気な鎧だな。
「おい、アイギスのコ○ンブスのゆで卵とやら」
「お前さんに本物の女というものを拝ませてやるぜ!!」
小鳥がさえずる青空の下、俺は気合い十分に拳同士を合わせていた。
****
「えー、これにて……」
「参加者のお披露目は終了しましたので、これから女神エリスコンテストの優勝者を決めたいと思い……」
『カツン、カツン……』
ステージに響き渡る革靴の乾いた音。
観客はみな、突然現れた銀髪な女の子の前に思考が固まり、息を飲んでいた……。
天界の女神を指し示す青色を基調とした法衣を身に纏った彼女の凛とした立ち振舞いに……。
彼女は絵に描いたような美少女のオーラを見せつけ、太陽しか照明が無いのにアイドルのようにキラキラと輝いていた。
観客はみんな彼女の姿に口を閉じ、心を奪われて見惚れていた……。
「あっ……あの……すみませんが、飛び入りの参加者で……よろしいので……しょうか?」
「はい」
「色々と支度に戸惑い、突然の参加になってしまい、申し訳ないです」
「いえいえ、
「今回の女神エリスコンテストにご参加して下さり、ありがとうございます!」
「それでですが、差し支えない程度にお名前も伺ってもよろしいですか?」
「はい」
彼女の名前を知って知らずか、静まり返る観客は美少女過ぎるその子の名前を待っていた。
「名前は、エリスと申します」
「「「ワッー!!」」」
エリスがキラキラとした聖なる笑顔で観客に愛嬌を振り撒くと、会場の熱気が急速に爆発した。
「おおぅ。噂以上の反応だな。本物の女神だけあり、激レアカード並みに強いな」
『……ついに見つけたぞ』
アイギスの身体がカタカタと音を立てる。
『俺、見つけちゃったよー‼ ついに俺にふさわしい真のご主人様をー!』
アイギスが雄叫びに満ちた大声を出して、灰色の鎧を激しく揺らす。
『ねえねえ、二次元じゃあるまいし、あんな性格もいい美少女なんてこの世にいるん? あのレベルのたけーのなんなん?』
「とりあえずお前は落ち着こうか。キャラが崩壊しつつあるぞ!」
おいおい、喋る鎧とかこの場に晒したらマズイだろ。
俺は暴走するアイギスの制御に追われていた。
「ありがとうございます! そのご年齢とご職業を聞かせてもらっても………」
口に手を当てて、くすくすと上品に笑う清楚なエリスに照れ隠しの司会者が次の質問をする。
「ごめんなさい、その二つは内緒です」
ウインクしながら、ひとさし指を口につけるエリス。
「「「わああああー!」」」
熱くなった野郎共は拳を天に上げて女神を祝福していた。
『あー、そんな小悪魔的なサービスはみんなにしなくていい! このアイギスだけに向けてくれればいいのです!』
「おい、ちょっとだけ黙れよ、この萌える鉄屑。後で彼女を紹介してやるからさ」
『うへっ、それマジなん!?』
「さっき約束したからな。それにあの女の子は本当は女神エリスであり、普段はクリスなんだよ」
『ええっ、あの話マジかよー!? エリス様にどう謝るべきかー!!』
アイギスが目元を手で覆い、恋する乙女のポーズをする。
お前、そっち系か?
「あの女神エリス様が降臨になったぞー!!」
「「「エリス!! エリス!!」」」
エリスの登場により、会場は熱狂の渦に包まれた。
アイギスは元より、女神パワー半端ねえな。
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