第202話 このミスコンに参加するレベルの高い女性の価値観を‼(1)

「おかえり、それで進展はあった?」


 いつものようにクリスが俺に挨拶をしてくるが何か覇気がない気がする。


「進展どころか会話すらも成り立たないゴミな相手でしたよ」

「あはは……そうだよね」


 思いっきり凹む俺の話を聞いて分かっていたように苦笑いをするクリス。 


 アクアは自信満々でとっておきの作戦があると言い出すし、一回痛い目に遭わさないと駄女神な性格だろう。


「まあ、これも俺の責任でもあるし、面倒ごとが起きる前にあいつらをバインドで締め上げて……」

「いやでもアクア先輩がお祭りを繁盛させたことは確かだからね」

「それなのにあたしはアイギスの行方が掴めないままだしね………」


 適度に草の手入れがされた俺の屋敷の庭先で落ち合ったクリスだったが、やっぱり様子が変だ。


「まあ、これで来年からあたしのお祭りが無くなっても納得かな……」

「寂しい気もするけど先輩なら来年からのお祭りも盛り上がりそうだし」


 クリスが困ったように頬を指で掻いて誤魔化す。

 お頭、そんな寂しそうな笑顔しないで。

 見ている俺の方が辛いですよ。


 ──俺の目と鼻の先にいる彼女は、俺の理想のタイプでもあって、何でも相談できる大切な女性。

 地球から俺と同時に来たアクアよりも秘密を共有化している人。

 いつもはあの何もない白い部屋で一人で女神としての仕事をし、義賊として神器集めをしている時も一人であり……横にいるちょっと頼りがいがないお頭は、俺にとっては努力家で憧れの女神でもあり……(一文に戻る)


「助手君すまないね。あたし毎回迷惑かけてばかりで」


 クリスが苦笑いしながら、頬を指で掻き続ける。

 それに応じてなびいたそよ風が物悲しく銀髪を揺らす。


「神器探しだけじゃなく、先輩のイケない行動を阻止してくれて」

「……そして、あたしの正体を見破ったキミだけがあたしが影で色々とやっていることを知ってる」


「今までありがとう、助手君」

「キミがいたお陰で少しは報われたよ」


 クリスが両腕を前で挟んだまま、丁寧な返しをする。


「その件なんですが、お頭じゃなく、エリス様」

「俺にいい提案があります」


 どこからか雄鶏の鳴き声が聞こえてくる。

 今日はまだ始まったばかりだ。


****


「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。わたくしは今回の司会に選ばれたことを大変嬉しく思い、光栄に感じております」


 晴天に恵まれたアクセルの街中の広場にある野外ホールにて、大勢の観客で賑やかになる中、ちょび髭で七三頭のタキシードを着たおっちゃんがマイク片手に司会役を演じる。


「それではお待たせしました。エリス教団主催による今年のお祭りの最大なイベント!」

「待望の第一回! ミス女神エリスコンテストをこのホールにて開催いたします!」


「「「ワアアアアアアー!」」」


 熱い想いを胸に拳を奮い立たせ、盛り上がりを見せる野郎メインな立ち見の客席。


「助手君、何なのこのイベント」

「あたしもどう反応していいか、理解できないよ」

「なーに、簡単なことですよ。お頭も祭りを楽しんだらいいんですよ」


 やっぱり俺の目に狂いはなかった。

 普段から真面目なエリス教徒たちがエリスを題材にしたミスコンなんてやるはずがない。


 でも今は状況が違う。

 このままだとエリス教徒たちが崇める女神自体の祭りが出来なくなる恐れがあるからな。


 それであの堅物なダクネスを説き伏せて、何とかこのイベントの決定をさせたんだ。

 それからこのイベントにはもう一つの爆弾が仕掛けてある……。


「助手君、あたしちょっと飲み物でも買ってくるね。何がいい?」

「シュワシュワっすね」

「昼間っからお酒だなんて、本気で楽しむ予定なんだね」

「俺、仕事も遊びも常に本気ス」

「はい、了解ス」


 最近のお頭もノリが良くなってきたな。

 俺の発言に素直に文句もなしに賛同して……ほんといい子やわ。


****


 会場となったホールに次々と立ち並ぶ女性たち。


「それではトップバッターはこの方です。お名前とお歳と、さらにご職業をお願いします!」


 まず現れたのは、茶髪のパーマにリボンで後ろ髪を纏めた男心をくすぐるポニーか。

 うーむ、一人目から早速レベルが高めだな……。


 俺は顎に手を添えながら女の子の審査を始める。  


「俺の好みからすると、あの子はスレンダー過ぎるな。気品さのある可愛げな顔は好きなんだがなあ……」 

『どうだか? アイツはああ見えて気性が荒い性格をしてるぜ?』 


 俺の横で俺と同じポーズで考え込む輩がいる。


『でもお前さんの言う通りスタイルはいいな。着やせするタイプだね』

「ああ、スレンダー系だったら気の荒い性格でもいいのさ。それに着やせするタイプか……水着審査も入れとくべきだったな」

『おっ、お前、何でそんな肝心な条件を入れてないんだよ、バカにしてんのか!?』


 俺は一呼吸置いてから、とあるスキルを発動させる。


「おーらっー! 聖鎧せいがい確保っー‼」


『ばさぁー‼』

『ぬおー!?』


 お得意のバインドで、隣で俺の意見に干渉してきた聖鎧アイギスを捕らえる俺。


『おい、これから大事な時だって言うのに地引き網漁で邪魔するな!!』

「やかましい! こんな単純なネズミ取り作戦にかかりやがって、この鉄屑め!」

「このミスコンは逃げたお前を再び引き寄せるための罠でもあったんだよ!」

『なっ、なんですとー!?』


 網にかかった大物はこの餌が擬似餌ぎじえだったことも承知していない。


「お前なあ、こんなのであっさりと引っかかりやがって! 俺の今までの努力を返せ!」

『あー、ちょっと静かにしてくれません。別の子の自己紹介に入りましたんで』


 一体何を食べたら、そのような大きな胸になるのかと質問をする司会者。


「仕方ないな。あの子の紹介が終わったら作戦再始動な」

『分かってらい』


 二人揃って女の子を吟味する。

 例え発言に方言が混じったとしても。


「はい、ありがとうございました。可愛くてダイナマイトなソニアちゃんでした! さあ、続いてですが、次も凄いですね!」

「この大会で飛び抜けたナイスな胸を持つ持ち主の登場です!」


 胸元を強調したセクシーなドレスを前に俺とアイギスの目が釘付けになる。


『ほおほお、なあ作戦遂行はあの子の後でもいいか?』

「ああ、良いぜ。次からは漁師解禁だからな」


『ボンッ!』


 続いて、露出のない黄色いパーカーから膨らんだたわわが俺たちの理想郷をぶち壊す。


『おい、あれは反則じゃないのか! 何で水着審査を項目に入れなかったんだよ!』

「ああん? こっちにも色々と事情があったんだよ! くっ、もったいねえ体つきだな‼」


 ……と思いきや今度は際どい水着のねーちゃんが出てきた。

 あれは売り子のお姉ちゃんだな。

 出店の売り子は水着限定って言ったもんな。


「あー、続いてのあの子はパッとしないな。可愛い服と化粧で誤魔化しをかけてるな」

『だなー。化粧はナチュラルメイクが基本だもんな。あれはやったらイカンですなー!』


 二人は何もかも忘れて無我夢中になっていた。

 そんな俺たちはオオカミ族。


「お次はこの方です! 皆さまもご存じな貧乏で不幸な意味合いが似合う店主! 参加した理由は賞金を手にして、滞納している家賃を払うためだとか!」

「あっ……はっ、はい……」

「ウィズ魔道具店の店主さんの登場です!」


 司会者の熱烈な紹介に緊張気味のウィズが仕事中だったのか、猫の絵柄なエプロン姿でフロアに上がってみせる。


「ひゃあっほおおおお! 今度は上玉のウィズが来やがったぞー!!」

『おおっ、レベルが高い大人の女性だな。抱き締めてえ! それで、この鎧に中に入ってもらいてーなー!』

「ええで、ウィズはやっぱり最高だ。ウィズはエプロンの格好が一番よく似合ってるなあ!」

『ああ、でもあの姉ちゃん魔法使いだから、俺の鎧には入れないんだよな。前衛職にラブリーチェンジしてくれないかなあー‼』


 俺はアイギスを取っ捕まえるのを忘れ、アイギスは捕らわれていることも忘れ、二人の男たちはミスコンのイベントに白熱中だった……。

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