第201話 この逃げ帰った俺たちに般若のような説教を!!
「おい、お前たち、これは何のつもりだ」
次の日の朝、ダクネス直々にダスティネス家に呼び出され、仮面を着けた俺と、口をフードで隠したお頭のイラスト付きの手配書を見せつけるダクネス。
「うーん。あの後、脱出するのも一苦労でさ……」
「だよねー、俺たちも有名になったもんだよねーww」
「そんな戯れ言を聞いているのではない!」
JKみたいな会話をしていた俺とクリスは石畳の床に正座されてダクネスからのお叱りを食らっていた。
「前にも言っただろう。ちゃんと説明すれば私が何とかすると! そんなにダスティネス家の人柄が信じられないのか!」
「お前たちがアンダイン家に無謀な侵入をしたせいで、この街はお前たちを捕まえて賞金を手にしようとする輩がわんさかいるんだぞ!」
さっきからキャンキャン怒鳴るダクネスの前にして、耳が痛くなる一方だな……。
「いや、俺はダクネスに相談をしようと話を持ち込んだんだけど、お頭がダクネスに頼んでも惚けて話にならないだろうって……」
「そうそう、ダクネスは領主の仕事で手が回らないから……いっ、痛い痛いってば!」
ダクネスの後ろからによる容赦ない頭グリグリ攻撃に甲高い悲鳴をあげるクリス。
「あのな、お前たちがこんな風に手を犯すくらいなら、私が時間を割いてでも、貴族流の上手なやり方でいくらでも解決できるのだ!」
いくら神器であろうとそれ以上の見返りを与えれば、きちんと話が通じてどうにかなる貴族限定の理論。
それを逆撫でにしたせいでダクネスはこうも怒った言葉遣いになっているのだ。
「痛い痛い! わっ、分かったよ、今度からは盗む前にダクネスにきちんと伝えるからー!」
「だから盗むという行動自体が間違えているだろー!!」
ダクネスがグリグリを止めるとクリスは顔をしかめて苦痛の感情に浸っている。
「第一、昨晩あんなことがあったのに、クリスとノコノコデートごっこをしていたことが一番許せない! この女たらしめ!」
「え? アンダイン邸に来るのが遅くなった理由とどこか関係あるの?」
「あっ、いや、今の発言は取り消しだ。忘れてくれ!」
取り乱すダクネスの様子に不審ガールお頭ちゃん。
「えっ、でも昨夜、何かあったことは確かなんだよね? 助手君?」
クリスは意外と鋭い女の子であるゆえに隠し事は出来ないと悟る俺の心。
「いやあ、夜中にあんなはしたない格好で俺の部屋に来たからさ」
「カズマ!! お前は何も言うな、余計な誤解を招くだろう!」
「ダクネス、誤解って何さ! あたしたちの女の友情ってそんなに薄いの?」
そうか、クリスの言う友情もただのごっこ遊びにすぎなかったか……。
ならば俺が本心を話して、その亀裂した友情を修復するべきではないのか?
俺はダクネスとの夜の密会事件を正直に口に出すことに決めた。
「もうダクネスもお茶目だな。あんなことするならそのまま押し倒し……ギャアアアア!?」
「お前はもう永久に口を閉ざしてろ!」
ダクネスのグリグリが今度は俺の頭に向けられる。
この腕力の強いクルセイダーによるグリグリ攻撃は、頭蓋骨さえも振動し、下手をすれば、あの生のカボチャでさえも簡単に割れてしまうだろう。
「だからダクネス、何なのさー!!」
「クリスもしつこいぞ。どうでもいいじゃないか!」
腕組みをして冷静になり、話を誤魔化して、そっぽを向く照れ顔のダクネス。
「お前たちもアクアも領主代行の私の頭を散々悩ませてからに!」
俺はその何気ないダクネスの言葉に引っかかりを感じた。
「何だと、あのアクアが何をしたんだ?」
「まあ、それはだな……」
アクシズ教団の連中の出店による売り上げの大繁盛を理由にして、来年からはエリス感謝祭を全て潰して、アクア感謝祭のみにしろというアクシズ教団側による強い要望をぶつけてきたらしい……。
その話を聞いた俺の足は即座に例のアクシズ教会へと出向いていた。
****
「おい、アクア! この紙はどういうつもりだ!」
俺はダクネスを悩ませる例の紙切れを持ったまま、アクシズ教会のボロい扉を勢いよく開け放つ。
「あら、カズマじゃない。どうしたの、そんなに血相を変えた顔をして?」
木製の椅子に座り、右手にワイングラスを持ち、足を組んだひざの上にひよこのゼル帝を乗せ、優しく撫でているアクアは余裕の笑みを膨らませていた。
右隣にはきちんと正座してひざに手元を揃え、アクアに忠誠を誓ったようなセシリーの姿もある。
「おい、お前調子に乗ってんのか! この要望書は何の冗談だよ!」
「ああ、ダクネスに渡した紙切れのことね」
一つ目は来年からはエリス感謝祭をアクア感謝祭にしてエリス教団の参加は却下すること。
二つ目はところてんスライムの違法的輸入を解除し、スムーズな取り引きの流れにすること。
「あれ? 私は二つ目は書いてないんですけど」
「二つ目は私が追加しました。アクア様! 頑張った私にもご褒美が必要かと!」
セシリーが鼻息を荒くしながら、両手を合わせて同意を求める。
「なるほどね。それなら多目に見るわ。それでこの紙がどうかしたのかしら?」
「だから何でこうなってんだよ!」
この駄女神め、ボロ教会が壊れそうな大声を張り上げる俺にちっとも反省の色がないよな!
「あらら、カズマさんってば、私が祝勝会に呼ばなかったからすねてるのかしら?」
「違いますよ。多分この人の要望も入ってないから納得がいかないのでしょう。あれでも一応アドバイザーの鏡と呼ばれていましたし」
「ああ、そうなのね。セシリー」
アクアが三本指を俺にちらつかせ、彼女の提案で三つ目として今後のお祭りでは売り子は全員水着を着るという件が追加された。
「
「お前、これからは真面目に働いて仕事を頑張るって言ってたじゃねーか! こんな紙切れなんてクズだ!」
俺はアクアからの要望書を横に引っ張り、思いきって左右に破り捨てる。
「あぁー!! 何てことするのよー!」
それを見たアクアが涙声で叫ぶ。
「何なの、私なりに頑張ったんだから、このくらいの待遇くらいいいじゃない!」
「そうです。女神にも休息が必要です!」
セシリー曰く、アクアは女神として、もっと崇められて何不自由もせずに楽な暮らしをしていけばいいと。
これからはアクシズ教団はアクアを甘やかす存在に突入する時代が来ると。
もしこれからもアクアを虐めるのなら、毎晩俺の家の玄関でセシリーの持ち前のスピーカーでエンドレスな聖歌の音楽を爆音で流すと脅しをかけてくる。
そうか、アクアが影響を受けたのはセシリーの仕業でもあるのか。
「アクア、もうこんな変なヤツとは付き合うな! さっさと家に帰るぞ!」
「嫌よ! 私は帰らないわ。私は賢くなったの」
アクアがセシリーの背中に隠れながら、一向に帰る気配を見せない。
「この教会にいれば温かい信者たちが女神万歳と崇めてくれるのよ!」
「……あの、それより私、そんなに変な人間なのですか!?」
それにこの祭りが大繁盛した今では、来年もアクア感謝祭をやるのは決定済み。
現に外を出歩いてもエリス教団のお店は人気が無くなり、ほとんどの店は潰れかけていると……。
「日に日にアクシズ教団のお店が盛り上がる中、今さらちっぽけなエリス教団ごときに何が出来るのよ!」
アクアが不気味に笑いながら、影のある瞳で俺の方を見つめる。
ア……アクア……いや、悪魔……。
俺の顔がざわざわ……と真剣な顔つきに変わる。
コイツ、真っ当なヤツに生まれ変わったと思いきや、根っこの腹黒い部分は全然変わっていなかった……!!
「フフッ、これからも覚悟しなさいエリス教団。名声と呼ばれたアクア様により、更なる秘策があるのだから……」
そう言葉を漏らすアクアの口が毒ついた悪魔のような微笑みとなっていた……。
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