第199話 この聖鎧アイギスを盗み出すための二度目によるアイデアを‼(1)

「遅いよ、キミ!」


 アンダイン邸の立派な建物が月に照らされる午前二時。 

 クリスが非常に困り果てた人相で俺にげきを飛ばす。


「このままずっと待っていて、夜が明けたらどうするつもりだったさ!」

「悪いな、ちょっと色々とバタついてな!」

「まあ、キミのことだから仮眠のつもりで寝入ってしまったんでしょ……もう怒る時間もないし、遅れた理由は今度聞くからね」


 腑に落ちないクリスと一緒にアンダインの庭を越えた裏口の扉の前には二人の男の衛兵が見張りをしていた。


「今日こそは聖鎧せいがいアイギスを手中に収めるからね。覚悟はいい?」

「メジャー、お頭」

「でも流石に前回のようにはいかないようだけどね。数は二人ときたか。祭りなどのお祝い事があったせいか警備も手薄だね」


 あちこち走り回ってのモンスター退治で、日本のように楽しむ花火大会という雰囲気じゃなかったけどな。


「よっしゃ、あいつらなら俺が瞬時に息の根を止めてみせましょう。さっさと終わらせて早く帰りたいですし」

「キミって夜ではやたらと活動的だよね……」


 よせやい、俺に活動的という陽キャな言葉は似合わないぜ。

 せめて、闇を支配する夜行性モグラもどきと言ってくれ。


****


「それにしてもさ、今回の祭りはたまらねえな」

「例年以上の盛り上がりに、売り子が全員水着という設定なんだぜ。発想が天才だな」

「まあな。あの過激で有名なサキュバスのコスプレの許可が下りたのも凄いよな。あのダイナマイトな迫力は忘れられねえよな」


 月夜の中、男の欲望に華を咲かせる、剣を腰にぶら下げた見張りの二人組。


「本当に最高だよな。今回の祭りはさ。今回の祭りの仕掛け人も中々のものだけどな」

「ああ、エリス教団とアクシズ教団の出店を経営し、盛り上がった所でさらに金をむしりとろうとした悪魔的知能な持ち主でさ……」

「そうそう。今回アクシズ教徒を祭りに加えたのも、売り子水着化の件もその男が決めたらしいぜ。名前は、さと……」

『ダブルドレインタッチ!!』


 俺は二人の衛兵の顔面に両手を当てて、アイアンクローの状態にし、無言のままにエネルギーを吸い付くし、その場で二人とも昏倒させる。


「ちょっと助手君ってば」

「危ないなあ、後少しで叫ばれる所だったじゃん!」

「何の、この通り瞬殺できましたから」

「えっ、死んでないよね?」


 俺は二人の遺体(死んでない)を草むらにそっと寝そべらせ、駆けつけてきたクリスとファーストコンタクト(違う)をとる。


「まあ、あまり無鉄砲なことはしないでよ? しかし、祭りの仕掛け人って何のことなんだろうね?」

「さっ、さあ? し……知らぬがホットケーキ(ホトケ)でやんす」


 俺はクリスを置いて、すたこらとがら空きな裏口の奥に入っていった。


****


 ──月の光を照明とした薄暗いアンダインの邸内にて、一つの赤い球体を手に握る俺。


「お頭、今日は鎧にギャーギャー騒がれないようにきちんと下調べしてきましたよ」 

「音を遮断する結界が作れる魔道具を買ってきました。ウィズ魔道具店じゃなく、正式な販売をしている店からです」

「助手君、あたしもだよ」


 クリスもマントと胸の狭間から何かの風呂敷を取り出す。


「この布でアイギスを包んだら念話は使えないし、音も漏れないよ」


 クリスが風呂敷を片手に持ち替えて臨戦態勢に挑む。


「それではさっさと片付けますか」


****


 俺たちは前回のように宝物庫からの隠し扉を潜り、静電気ビリビリな結界を空間に張り巡らせ、頑丈な鎖に縛られたアイギスの元へたどり着いた。


『よう! 久しいな。この前の人拐い犯じゃないか!!』

『ほんと学習することを知らず、またまた懲りずにやって来てからさ。お前さんらには負け犬の遠吠えがお似合いだぜ。

おーい、者ども、賊が侵入したぞー‼ 今度こそ捕まえて手足の先まで丸焼きだぁぁー!!』


 しかし、アイギスが叫んでも辺りは静寂でシーンとなっており、何も反応はない。


『あれ? おかしいな?』

「へっへっ。能天気予報な鎧だな。俺たちがこのままお前さんを持ち出すのかと思っていたのかよ!」

「この部屋には結界を張らせてもらった! いくらお前が叫んでも外に声は漏れないぜ。さっさと腹をくくれ!」

『なっ、何だと!?』


 熱くなる口振りだったアイギスが戸惑いを隠せない中、俺たちは冷静に次の任務を開始する。


「じゃあ、お頭。手っ取り早くコイツを運びましょうか」

「了解。じゃあ、正面からこの布を被せるね」

『ちょ、ちょいお前さんら、待てって!?』


 リサイクルという死期が近いせいか、非常に焦った口調になるアイギス。


『ここは俺と取り引きをしようじゃないか。お前らは俺の力を求めているんだろ!?』

『なら俺も多少は持ち主は選ばないし、それ相応の持ち主を見つけてきたら、惜しまなく協力はするからよ!』 


「ホワーイエブリわん? そんな都合のいい取り引きがあるなよ。この鉄屑が!」

「お前の持ち主はブリーフ一丁なムキムキマッチョのおっさんに確定してんだよ」


 鎧よ、お前にはと罰が必要だ。

 コスプレ好きのおっさんに包まれて、むさ苦しい空気でも味わってろ。


『おい、納得がいかねーぞ! お前が鎧だったらのことを考えろよ!』

『お前だっておっさんよりも、可憐で可愛い女の子をソフトに包んで守ってあげたいだろー!!』


 いや、その気持ちは分かるが、前回はお前のせいでとんでもない目に遭ったからな。

 は償って貰うぞ。


「お前、過去に活躍した偉い鎧だからって都合のいい欲求ばかり言うなよ。ちょっとは立場をわきまえろ、このバーカバーカ!! ギャハハハ!」


 俺は舌をレロレロと出しながらアイギスを小バカにする。


「助手君、あたしが言えた立場じゃないけど、鎧相手にやることが残忍だよ……」


 クリスが風呂敷を持ったまま呆れ返っている。


『いやだああああー! おっさんの生春巻きになるなんて死んでも死にきれんー!!』

「もう無駄な抵抗はやめろ! お前の行く末はゲームオーバーだ……」 


『ブゥン!』

「ぐふっ!?」


 そこへ鉄のパンチのような衝撃を受けて吹っ飛ばされる俺。

 何だ、鎖で縛られたアイギスの攻撃を食らうはずがない?


「えっ、鎖がない?」


 クリスの言葉でアイギスを見るとヤツの体に鎖は付いていない……というか全部さっぱり消えてる?


『ならば俺、決めたわ。水○黄門のような長い旅に出る』

『俺を喜んで着てくれる美女を探すの旅に出るわ』


 この屋敷で可愛いメイドさんからワックスで磨いてくれた恩も忘れないが、また俺たちみたいのが来て、空気を汚されるのも嫌だし、それに自分のご主人様は自分の力で探した方がスッキリするとか……。


 ……というかアイギス、何で自力で結界を解いて一人で動けるんだよ?

 これが国境を越えた愛の力ってヤツか?


「アイギスちょっと待ってよ。この世界ではキミの力が必要なのさ! あたしが新しいご主人様が見つかるまでキミを着るからさ……!」

『フ○ーック!』


 アイギスの兜の目先が怪しく光る。


『男か女か分からん盗賊に着られて嬉しいわけないだろ‼ 言っただろ、俺はご主人様は自力で見つけると』

『そんなに着られたいなら俺様との相性チェックでもしようか、坊主らしきヤツ』


 チャラララッチャーのファンファーレ音と共にアイギスがクリスを見定めるための厳しい格付けチェックが始まった。


 顔つきは美少女だからAランク、でも職業の適正はCランク、さらに胸のランクは……ペッタンコでランクすらもならないなと……。

 

『それでは今回は俺との相性が最悪だったということで! では生まれ変わり、魅力的な女に実るまでさいなーら!』

「むかっー!! こっちが優しく頼んでいれば言いたい放題ばかり!」


 色々と衝撃の鑑定を受けたクリスが涙目になってついにキレる。


「そっちがそうなら力づくでも止めてみせるよ!」


『バインド!』


 クリスの放った縄による捕縛スキルがアイギスの全身を包み込んだ!

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