第198話 このダクネスの告白に答えるために本心を‼
あの悪ふざけがすぎるスケベ鎧にリベンジしようとアンダイン邸に再度侵入を試みた静かなる自室での夜……。
「よし、ハンカチもOK、財布もOK。プチプチも背負って忘れ物はなし。あんにゃろーめ。今日こそは地獄(現実?)の厳しさというものを見せてやる」
俺は黒装束に身を包み、みんなに気づかれないよう、例の仮面を着けて窓からこっそりと出ようとする。
『コンコン』
「カズマ、カズマは居るか」
突然の来訪者からのドアノックに全細胞の血が持っていかれるほどにビクつく俺。
この凛とした声はもしや……?
「な、なっ!? ひょっとするとダクネスか!? どうしたこんな真夜中に?」
「ああ、そうだ。すまない……こんな時間にすまないのだが、少し時間はあるか?」
「おう! 分かった。ちょっとこの姿は仮のものだから通常モードに戻るな」
いや、もういちいち着替えるのも面倒だし、レディーを待たせるのも失礼だ。
相手がダクネスならありのままの姿でもいいだろ。
「ハア、ハア……まっ、待たせたな」
全ての邪魔物を脱ぎ去り、パンツ一丁の裸で廊下に出る俺。
「なっ、何で服を着てないのだ、お前は! それにそんなに息まで乱して……今まで部屋で何をやっていたのだ!?」
ピンクのネクリジェ姿のセクシーなダクネスが俺を見てドン引きしている。
「バカ、勘違いするな! 寝る前の日課の筋トレで腕立て伏せをしていただけだ!」
「いいから早く服を着ろー!! 警察に通報されたいのか変質者!」
「おおぅ。まさか元祖変質者から変態扱いされる日が来るとはな……」
──改めてジャージを着込んだ俺はダクネスの話を聞いてみる。
「それでこんな時間に何だよ? 用件なら明日の朝でもいいじゃないか?」
「えっと……いや、別に明日でもいいわけだが……」
ダクネスが顔を俯かせながら、こんな深夜に俺に伝えたいことを語り出す。
「ほら、最近、お互いに忙しくて屋敷でも顔を合わせる機会もなかっただろう?」
「何だよ、それだけのためにわざわざ部屋に来たのか?」
クリスと待ち合わせをしてるから、さっさと用事を言って欲しいんだけどな……。
「……カズマ、お前とは二人だけの時にきちんとお礼を言っておこうと思ってな……」
お礼って、領主のおっさんからお前を拐ったことか?
「あれは俺が好き勝手にやったことだ。礼はいらないさ。それにお前だって俺たちの借金を肩代わりしてくれたんだ。逆に俺の方が礼を言いたいくらいだよ……」
「カズマ……」
ダクネスが頬を染めて俺の方を煮詰める……煮詰めるって何だよ、俺は男爵イモの煮物か?
「お前は何も知らない貴族の娘である私に、普段じゃ考えられないくらいの多くの思い出をもらった」
「お前と出会わなければ、みんなとあれほどの大冒険もしなかっただろう」
「お前と出会ってからのこの一年はとても楽しくて幸せな日々だった」
おいおい、ダ○の大冒険のようなこと言うなよ。
俺たちは武術を鍛えてきたわけでもなく、そんなに大それた冒険もしてないだろ?
「だから……今ここでお礼を言わせてくれないか」
何を思ったのか、ダクネスが俺の両手を握りしめて、目の前まで近づく。
「領主から助けてくれただけでもなく、こんな距離を置くような変な性癖な私といつもいてくれてありがとう」
「お前たちと暮らす毎日はとても心が落ち着く。まるで顔の知らない亡き母上のような気持ちだ」
おい、ダクネスお嬢さん、かっ、顔が近いってばよっ!?
「だから貴方にここでお礼を言います」
「今までずっと一緒に過ごしてくれて、あの婚約から救ってくれて心から感謝します」
いつもとは違う頬を赤らめたダクネスによる母性のまなざしに俺の心が動転する。
何なんだ、何で俺の手を握ったまま、いきなり恋愛イベントになってんだ!?
俺のイベント上では、表向きなめぐみんルートは実は引っかけで、シークレットな裏面ルートが正解であり、本当はダクネスルートだったのか!?
いや、クールビューティフル(自称)な俺よ。
ダクネスからはお礼を言われただけじゃんか。
童貞でもないのに、何動揺してる!
いや、俺、れっきとした童貞ですよ!!
……というか、俺も男だろ、相手が可愛くて美人な女の子だからって誰でも流されたらダメだろ!
さっきまで、めぐみんと花火を見て盛り上がったばかりじゃないか……。
「だからな……今夜は……その……」
「何か……お礼を……」
ダクネスが俺から手を離し、モジモジしながら落ち着かない様子になり、上目遣いで俺を見つめる。
それを見た俺の中の何かがプツリと切れた。
いや、
ダクネスがこんなにも大胆なアプローチをしてるんだ。
ここは男の中の男を見せる時だろ。
「そ……そう気にす、すんなよ! めぐみんにもダクネスを助けてありがとうと二人っきりの時に言われたしさ!」
「まあ、そんなちっぽけなことなんかいいさ。俺とお前との仲じゃないか!」
「……」
するとダクネスが急に俺から目線を外す。
あれ、何か気に障ったか?
「……全くお前はムードの欠片も何もないな。こんな時でもめぐみんの名前を出すのだな」
「……と言いたい所だが、こんな時間に部屋を訪ねる私の方もズルかったかもな……」
そう呟いたダクネスが俺の顔に手を触れて近づき、俺の体に身を寄せて頬に……、
……優しくて柔らかい感触の……キスをした。
突然の唇の訪問に俺の目が点となり、ダクネスは恥ずかしさのあまりに顔を反らす。
「今のは、この前約束したクーロンズヒュドラを倒したら頬にキスを……というものだ(第153話参照)」
「……じゃあな。あの領主から助けてくれた礼はまた今度に……」
ダクネスが俺に背を向けてその場から立ち去ろうとするが、俺も男だ。
ここではっきりとオセロのように白黒つけてやる。
「……ちょっと待て、ダクネス」
ダクネスが後ろ向きのまま、何かを期待してか、動きがピクリと止まる。
「もうお前なんなんだよー! お前さ、ここまでやってみせて、ほっぺにチューだけとか信じらんねーだろ、ふざけんなよ! めぐみんもだが、お前も期待させて何様のつもりなんだよ」
「リテイクだ、さあ、恋するコンティニュー希望だ!! 黙ってないで、さっさと心の電源を切って始めからやり直せ!!」
「お前は多少はネジ曲がった性格だが、やれば出来る真面目な子なんだ。勇気を振り絞って大人の階段を踏み出そうじゃんか!!」
俺の誠意ある発言? の連発が効いたのか、ダクネスが細かく肩を震わせる。
「……お前はどうして毎度ながら、そういう風な解釈をするのだー!」
「さっきまでの甘酸っぱい青春の語らいを返せー‼」
ダクネスが振り返り、逆ギレして俺に食ってかかる。
そうだ、下手に女っぽく色気づくより、その脳筋の方が余程お前らしいぜ!
こうして俺はクリスとの待ち合わせ時間に大幅に遅れることとなった……。
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