第197話 この花火大会の下で二人肩を並べて青春を‼(2)

 それから俺はよく分からん紅魔族のことは考えずに、憂さ晴らしにめぐみんたちと出店を練り歩いた。


 射的屋で持ち前の弓矢を全て中央の的に当てて、動物のぬいぐるみやお洒落なツボなどの豪華景品を奪い……、

 くじ引き屋で一等や特賞のみのくじを引き当てて、短剣や開けてビックリ玩具箱などの豪華景品さえも根こそぎ奪い去った……。


「カズマ、何に腹を立てているのかは知りませんが、もう少し立場をわきまえた方が良いと私は思います」

「射撃のスキルや幸運のステータスによる力でお店を荒らして……やることが大人げないですよ!」


 俺の行動にお怒りなしゅうとめめぐみんが腕を組んで俺に説教を始めるが、誰のせいだと思ってんだ?


「そうです。射的屋のお姉さんもくじ引きのおじさんも涙を流すほどに虐めて楽しいですか?」


 ゆんゆんもめぐみんと同様、俺のピュアな心を盗んだ共犯者のクセに何をほざいてやがる。

 祭りというのは店主に向かって戦いに明け暮れるイベントでもあーる。


 ジャパンではくじが無くなっても一等の商品が当たらないとかしょっちゅうだったし、大当たりを引いて景品の箱を開けたら、似たような名前の偽物の品とかな。 


「……カズマが前にいた世界ってどんだけ残酷なのでしょうね」 

「さあな、人造人間にでも聞いてみたらどうだ? 命の保証はしないけどな」

「まあ、人造ニンジンもいいですが、今年のお祭りはいつもとは違いますね」


 めぐみんよ、食い物扱いしてスルーするなら、残酷な天使の○ーゼをマイクの音量大で聴かせてやろうか?


 キーン!

(マイクのハウリング音)


「カズマが考えた仮装パレードとかもユニークですよね。みんな好きなようにコスプレして楽しんで歩いていますよ」

「サキュバスやインキュバスという肌の露出の多めな服を着た人もいましたし、実は本物のサキュバスとかも混じっているかもですね」


 めぐみんの『怪しげなお姉さんを探せ』的な当たり文句の言葉にドキドキが止まらない。

 赦せ、何も知らない無垢な少女よ。


「おやおや? こんな所に小僧のお出ましか」 

「あっ、バニルじゃんか? ここで何してんの?」

「フッ、我輩は日々の赤字の売り上げを減らすために、こうやって真面目に出店を経営しているのである」


 丸椅子に座ったバニルの横には大量の仮面が木の飾り棚にて、均等に並べてある。

 そうか、ヒーローやアイドルのキャラクターの絵柄のお面屋みたいなものか。


 ただ、バニル自らが着けている変なお面は素人の俺から見ても売れないと思うぞ。


「小僧も一つ買っていかんか。今ならバニル仮面、お安くしとくが?」

「カズマ、良いですね。センスのいいお面だと思いません? アクアやダクネスの分も買いましょう!」


 お前、マジで言ってんの。

 数日後にはゴミになるだけだぞ?


「それからそこの一人ポツンと立っている孤独なる少女よ。祭りで暇を持て余しているのなら、我輩と店番を代わってくれぬか」

「えっ、孤独なる少女って私……?」

「我輩は本家の仕事もしないといけないのでな。ここは黙って頼まれてくれ」

「いえ、別にいいですけど孤高なる少女に改名してくれませんか? ……って違う!」


 ゆんゆんの一人ボケツッコミに、肩にポンと手を置いて、持ち場を離れるバニル。


「ちょうどいい。孤高なルナー少女、この景品は邪魔だからお前に預けていくな」 


 俺は景品とゆんゆんというお荷物をバニルの出店に残して、めぐみんと出店を見て回ることにした。


****


「何だかんだで自然と二人きりになりましたね」

「まあな、ゆんゆんが巻き添えを食らったおかげだけどな……」

「それではここからは私と一緒にゆっくりとお店を見ていきましょうか。これはこれで戦いから一息ついて、素敵な息抜きになっていいものです」


 そうだった、俺はこの世界に来てから戦いに日常を費やしてきた。

 前の世界のジャパンではあり得ないことをしてきたんだな。


 バニルというおかしな悪魔に、貧乏店主ウィズのリッチーに、色っぽいサキュバスの女の子たち。

 獣人やエルフ、ドワーフとかもこのパレードに参加してるな……。


「……最近は特に意識してなかったが、ここは異世界で間違いないんだな」

「……」


 めぐみんが何の言葉に間を受けたのかは知らんが、こっちに気を取られている。

 普段なら塩ラーメン対応なのに、珍しいこともあるもんだ。


「おう? どうかしたか? 爆裂魔法が撃てなくてウズウズしたような表情をして」

「……いえ、何でもないです」


 そうか、めぐみんは俺のさっきの言葉に反応して……察しのいい性格だもんな。

 こいつらにも俺は異世界から来たと言うべきか……別にこのことを言っても何とも影響はないだろうしな。


 アクア本人も水の女神とアレほど主張しても全然信用してないし、俺もおかしいヤツのレベル設定にされるかもな。


 でもめぐみんとダクネスと知り合って段々と仲良くなってきたし……いつかゆったりとした時間に俺の居たジャパニーズの話でもしようか……。


『ヒュルルルー』

『ドーン! ドーン!』


「おおっ、何の騒ぎだ?」

「どうやら花火大会の時間になったようですね」


 上空に撃ち上がり、大きな音を響かせて広がる色とりどりのカラフルな光景。

 これが異世界での花火大会なんだな。

 俺の居た頃の世界での花火と何も変わらない風情ある美しさじゃないか。


「それではカズマ」

「私たちも参戦に行きますよ!」


 俺の手を強引に引っ張って、急に走り出すめぐみん。


「何だよ、サーセンって。いちいち謝らんでもここからでも花火は見えるじゃんか!」

「何を惚けてるのです! 冒険者の私たちが居なくて誰がこの祭りを守るのです!」

「お前なあ、これは花火大会だろ? ワケわからんから詳しく説明してくれ!」


 腹が痛いんでトイレか、それとも奴隷か、何か知らんが、俺の横を全速力で突っ走る魔法使いたちの存在も謎だし……。


「虫ですよ。毎年かがり火に集まった虫の駆除のクエストがあるのですよ!」

「かがり火の流れに興奮した虫たちが街の空を漂いながら攻撃の機会を狙っているのです!」


 そこで花火大会の出番らしい。

 虫たちのいる中央に爆発魔法や爆裂魔法を打ち上げる作戦とか……はあ? これは祭りと見せかけた3Dシューティングゲームなのか? 


「何だよ、よく分からないから要点だけ言えよ!」

「……つまりですね」


 俺の国では花火大会はお祝い事だが、この世界は夏の花火にやって来た虫へ対抗する奇襲の意味を持つらしい。


「こんにゃろー! 相変わらず俺の性に合わないよな! だから異世界って嫌いなんだよー‼」

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