第196話 この花火大会の下で二人肩を並べて青春を‼(1)

 私こと、華咲く乙女なめぐみんは、服を床に脱ぎ捨て、掛け毛布も被せてないベッドの上でシャツとパンツという恥ずかしい姿で堂々と寝てる男にいい加減嫌気がさした。


 折角せっかく、おめかしまでして、お気に入りのドレスに着替え、鍵の掛かってない不用心な男部屋のドアをノックし、反応がなかったので『もしや!? 不治の病で苦しんでるのか!?』と焦って部屋に入ったものの、この男は私との約束をも忘れ、こんなアホんだらな状態だった。


「いつまで寝てるのですか、このカスマー!!」


 この薄情者。

 思わず怒りであなたに怒鳴る理由にも少しは気づいて欲しい……。


****


 満月の光りに照らされた感謝祭三日目の夜、俺は非常に不機嫌なめぐみんと街中で肩を並べて歩いていた。


「もう最低の男ですね! 女の子と花火を見る約束をしていたのに夕方になっても支度もせず、堂々と寝ているとは!」

「あぁー、よしてくれ。二日酔いで頭が痛いんだ。あんまり耳元で怒鳴らないで……」

「何寝ぼけているのですか! 昨日帰ってきた時はご機嫌でしたが、どこで飲んでいたのです?」


 いや、サキュバスのお姉さんからお酌されながらも、中々家に帰らされないゆえ、胸が張り裂けそうなドキドキな夜でしたとか、口が裂けても言えるかよ。

 俺、クールビューティフルでイケてる? と呟く口裂け男だけに……。


「だ……だからさ、雨天時の体育祭みたいに、ダクネスにお願いして、花火大会は明日に変更してもらおうぜ……」

「そんな無茶ぶりを言ったらダクネスもいよいよ狂い出しますよ」


 領主代行、頭が錯乱し、清○寺の境内の柵からから飛び降りる。

 大丈夫、命綱がしっかりと腰に着いていて、ちゃんとした安全なバンジージャンプだから。

(※YouT○beのチャンネル登録の真似事ではありません)


「……ダクネスも今日はアクアたちに振り回されぱなしですし」

「えっ、アクアたちがどうしたんだ?」


 昨晩のアクシズ教団の出店の売り上げが好調だったまでは良かったが、その裏目をついて、アクシズ教徒たちが調子に乗り始め、エリス教団より儲かっているのを利用して、もっと出店の数を増やそうとか、魅力ある売り子を増やして客を呼ぶために規模を大きくしようとか、様々な模索をしているらしい……。


「はあ? 意味分かんね?」


 じゃあ、昨日の夜にアクアが見せた俺への曇りなき笑顔は何なんだ? 


 元がポンコツ女神だけにボロいヌ○カベが見え始めたのか……いや、現場に居たわけでもないのに、決めつけるわけにはいかない。

 アクアは善人のように生まれ変わって、純粋な想いで商売を楽しんでいるんだ。


 きっと他のアクシズ教徒たちが不平を言い出して暴れ出して……うんうん、そうさ。

 それに今考えても頭痛が酷くなるだけだ。 

 ここはややこしいから、その件はダクネスに砲丸投げの軌跡のごとく、全て丸投げにしよう。


「おしっ、俺は決めた! 今日はアクシズ教団の出店には寄らないどこうぜ。お客の俺たちが楽しみから、パニック症候群になっても困るからな」

「ですね。厄介事でデートの雰囲気が盛り下がったら最悪ですものね。まあ、カズマはいつもの服装ですけど」


 そうさ、俺は同じ服を何着も持っているアニメのキャラみたいな男だからな。


****


「あっ、あの、私、誰かとお祭り事に参加するのは初めてなんだけど!」

「ねえ、私どこかおかしい格好はしてないよね? 気合いを注入して親友の誘いに乗ったんだけど!」


 白い半袖ブラウスにピンクのキャロットスカートというガーリーなよそ行きの服のゆんゆん。

 そんな場違いなお洒落な女の子を見るだけでゆんゆんの本気さを知らされる。 

 まあ、ボッチの防具ステータスなんて、みんなそんなもんさ。


「別におかしくないですよ。祭りくらいでウルトラハイにならないで下さい」


 めぐみん、二人っきりになれたと思っていたら、ゆんゆんも誘うんだな。


 お前、俺に対する嫌がらせか?

 俺の君に恋い焦がれていた気持ちを踏みにじるのか? 


 まあ、恋愛なんてほとんどが片想いさ。

 君を好きにならなくて良かった。

 指と指通しを引っつけて切ない気分に浸る憐れな俺……。


「さて、ゆんゆん。祭りの良さを知ってもらうため、ゆんゆんのお財布で片っ端から出店を見に行きましょうか」

「うん、お支払いもお手柔らかにね」

「あっ、カズマ」


「……今はまだ早いですので、二人っきりの時間は後でじっくりと楽しみましょう。無事に花火大会を終えたら一緒に帰ることにしましょうね」


 めぐみんが俺の耳元でくすぐったい言葉をかける。

 彼女による突然の告白に魂を抜かれた俺は、それこそセミの脱け殻のように、その場で突っ立っていた。


「これまではお祭りの時は家に居たんだけど、こんな風に仲の良い友達とお祭りに来れるなんて嬉しいです。紅魔の里から一人立ちして良かった! ねえ、カズマさん?」

「あれ、カズマさん? 何だか固まっていて様子が変なのですが……」

「なむふぉ!?」


 ゆんゆんに不意を突かれた俺は異世界語でもよく分からん返事を返す。

(ナムホ、心臓バックマン)


「なん、ナーン、何でもないぜ。かく言う俺も祭りの熱気に当てられてさ。ジャパン時代の時の熱い血が騒ぐぜ!」


 血が沸騰していくのが内から感じて力がみなぎってくる……って、

 おい、筆者、俺は普通の人間の設定だぞ!


「しかし、その格好からして意外だな。ゆんゆんは今まで祭りの日は引きこもりだったのか。同じヒッキー仲間としてよく理解できるぜ。その気持ち」

「カ、カズマさんご冗談を。私はカズマさんのような陰湿でジメジメとした引きこもりじゃないです!」


 おい、俺は引きこもりを通り越した一人部屋を愛するカタツムリのつもりか?


「私が一人でお祭りに行き、そこで同級生が集まって遊んでいたら、それこそ気を遣わされるでしょ」

「あなただけ誘わなくてごめんと謝罪されたら、私の方が悪い気がしますし、だから……」

「ああー! もう分かった! 俺が一方的に悪いから、それ以上ロンリー論理な内容は言わんでいい!」


 それにしても、ここ最近の俺を取り巻く流れがおかしいぞ。


 めぐみんからは完全に尻に敷かれたレジャーシートな状況で、二人っきりで家に帰って存分にイチャつこうみたいな発言(してない)をするし……そこで別の恋愛イベントなんかに変わる(恋愛ゲームのし過ぎ)んだよな?


 今度こそは期待しても裏切らないよな?


 ……というかさ、女って男から思うだけ思わせて、うまい具合にこっちの男からの返答を黙って待っているよな……。


 異性に免疫がない俺にとっては意味不明な行動だ。

 やり口がせこいというか、女って中々ずる賢いよな……。

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