第195話 この感謝祭を繁盛させるための糸口を‼(4)

 女神エリス&アクア感謝祭も二日目の夜を迎えていた。


「昨日はあれから大繁盛だったようだな」


 アクシズ教徒によるクレーム対応と迷惑料の支払いにダクネスが困惑しながらも頑張っていたみたいだが……。 


「はい、いらっしゃい!」


 悩み歩いている俺の耳に聞き慣れた日本流の挨拶が飛び込んでくる。


「ジャパンという国の名物料理の焼きそばはいかがですかー!」


 やる気に満ち溢れたターバンを頭に巻いた若い店員が出来上がった焼きそばの入ったトレーを片手に熱心に声かけをしていた。

 これには俺も思いも寄らない心情だった。


「こちらもいかがですかー! 外はカリっと、中はトロトロ。果樹園で採れた無農薬のたこ焼きになりますよー!」


 驚きはそれだけじゃない、向かい側の店では前だけにつばのついた帽子を被ったおっちゃんが鉄板でたこ焼きをせっせと作っているし……、


「はーい、冷たくて美味しいかき氷はどうですかー! イチゴにメロン、バナナに宇治金時クリーミーバター味や、新食感で癖になるところてんスライムの味などもありますよー!」


 セシリーさえもがイチゴのかき氷が山盛りな器を持って、かき氷店の客寄せをしてるではないか!?


「あっ、カズマ、いいところに来たわね」

「お昼に作った氷が切れちゃったの。私が水を出すからカズマは魔法で氷を作ってもらえる?」


 中身が空な木の寿司桶を持って、これまたイキイキとしたアクアに俺は思っていることをぶつける。


「おい、この異様な盛り上がりは何だよ? 昨日と全然、雰囲気が違うじゃないか?」

「えっへん。私なりに日本のお祭りの屋台を勉強して運営してみたのよ」

「なるほどな。ちょっと変わった感じの店もあるが、いい感じに人気みたいじゃないか」

「うん、朝から断トツに人気な出店たちに急成長したのよ!」


 つまりアクシズ教団のバブル成長期というものか。


 そうだな、こんな感じで普通のことをすればアクアの信者だって自然と志願者は増える。

 こうやって、みんなから楽しんでもらえるところを傍目に見て、アクアも悪い感じはしないはずだ。


「ええ、みんなカズマのおかげよ。ありがとう!」


 アクアの屈託のない笑みで俺の心の何かが揺さぶられる。


 いつもとアクアの様子が違って見えるのだが、祭りのノリに飲まれて、おかしくなったのか?

 蝉退治の時から、アクアが別人……いいや、魅力的な大人の女性に見えてしょうがない。


「まあ、こんなにも人気なら、さぞかし儲かっているだろ? 今こそこの機会にあのオンボロ小屋のアクシズ教会をリフォームしてみたらどうだよ?」

「いいえ、現実的にはそんなにも儲かってはいないわ。カズマの言っていた真面目に誠実という商売を胸に刻んで良心価格でやっているから」

「それにこのお祭りを開催する時にアクシズ教団も多額の費用を出したから、赤字続きで……」

「そうか……、まあ、これならあっという間に黒字に巻き返せるさ。この世の中、童心に帰り、酔い潰れた仲間の額に落書きをしたくなる黒い油性ペンの存在感が切っても切れないようにな!」


 アクアが背中側に両手を組んで、俺の前に一歩踏み出る。


「別に売り上げなんて関係ないわ。私はアクシズ教団の子供たちが楽しそうに笑っていたらそれでいいの」

「カズマさん、このお祭りを開いてくれて、アクシズ教団を救ってくれて本当にありがとう」


 今までにない無邪気なアクアの喜びの顔が脳裏に焼き付いて離れない。


 俺はそんなアイツを見て思った。

 アイツは金や名声に縛られるのではなく、純粋に祭りを楽しくやりたいだけなんだ。


 なのに俺は女性の売り子を水着にさせたり、二つの教団をいざこざにしてお金をむしりとったりと己の欲望のことしか考えてなかった。


 そうさ、俺の考えが間違っていたんだ。

 今までの流れをアクアに話して、めぐみんやダクネスたちにも謝り、アドバイザーも辞めて、明日の三日目の祭りを楽しもうじゃないか。


 めぐみんと仲良く花火を見て、色々と落ち着かないダクネスの愚痴を聞いて、アクアたちと酒を飲んで仲良く過ごして……、 


 ……と男気に溢れた考えで役員会の行われていた屋敷のドアを盛大に開け放つと、そこには布の面積がほとんどなく、際どいラインが目立った水着姿のセクシーなお姉さんとロリなお嬢ちゃんの二名がいた。 


「おおっ、待っていましたよ! アドバイザーさん!」


 水着のお姉さんの隣には例の会長さんも付き添っている。


「あの、これは何のつもりで……?」


 俺の心の答えだったものが一瞬で膠着こうちゃくする。


「常連さん、こんばんは。いつもお店に来て下さり、ありがとうございます」

「役員の皆様から真相を聞きました。大変ご活躍のようですね」


 お姉さんもお嬢ちゃんも何も理解できてない俺を褒め称えてくる。


「おやおや、これは意外でした。彼女たちとは初めての交流じゃないんですね」

「彼女たちはこの街で小さな飲食店を経営しており、今回の祭りでも率先となって水着を着て、売り子をしてくれたのですよ」


 飲食店って何の冗談だよ。

 会長は例の彼女たちのアダルトな店の正体を知らないのか?


「今回のお祭りでは私たちによるサキュバスのコスプレもOKと了承してくれたのですよ!」


 えっ、お姉さん、サキュバス本人じゃないの?

 ……とは、ウブでネンネな俺はそうとは言えず、逆に彼女の姿が色っぽ過ぎて、まともに直視すらもできない。


「それでアドバイザー殿にお礼がしたいと言ってきたのですよ」


 お礼どころか、下手な水の女神よりも神々しくて、その場にひれ伏せたい気分なんだけど……。


「さあさあ、アドバイザー殿、立ち話もなんですから席について!」


 会長さんが俺の背中を押して強引に席に座らせる。


「アドバイザー殿のお陰様でこの感謝祭は、今までにない利益と売り上げを出していますから! 今日は我々の奢りで祭りでのお礼も込めて朝まで無礼講でいきますよ!」

「いや、俺はだな……」


「それではこれからのアドバイザー殿のご活躍にご期待をしましょうか! さあ、アドバイザー殿も何か一言を!」


 おい、ここにはアドバイザーを辞めたいとやって来たんだぞ。

 こんな今だってアクアは頑張って商売をしているんだ。


 ここで濃厚な味付けな接待に飲まれたら、また堕落になって、辞退なんて無かったことになるだろ。

 さあ、男、佐藤和真さとうかずま、ここはきちんと話の筋を通して……!


「あの……実は俺、アドバイザーを……」

「常連さん」

「今日はお祭りの感謝の意を籠めて、看板娘の私たち二人がお酌を担当しますね」

「うふふ。今夜は絶対に帰しませんから」


 お姉さんが俺の目の前でグラスに酒を注ぎ、水着から弾け飛びそうなエロい実りが俺の感性に思いっきりぶっ刺さる。


「皆さん……」


「これからも大儲けして、みんなで幸せな道を掴み取りましょう!

乾杯ー!」

「「「かんぱーい!!」」」


 俺はサキュバスの誘惑に溺れ、浴びるように酒を呑み、その言葉通り朝までどんちゃん騒ぎをした……。

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