第194話 この感謝祭を繁盛させるための糸口を‼(3)
「お前さあ、あんな子供をダシに使いやがって。ドラゴンと騙されたニワトリを買わされた恨みでもあんのか?」
「何よ、お祭りとはぼったくりや詐欺の店をやらないと、ちゃんとした運営ができないものよ。それにゼル帝はちゃんとしたドラゴンの子供よ」
お前らアクシズ教団は祭りをやらしてもとんでもないことをやらかすよな。
盛り上がる以前に客から批判されまくりじゃんか。
「まあまあカズマ。こっちの店の売り上げは凄いのよ。怪しい接客もしてないし、もうじゃんじゃん儲かっていて!」
能天気な女神の後についていった先には木の箱に座っている複雑な面持ちのクリスがいた。
「あっ、おかえりなさい……」
店番であるクリスが三本の棒によるくじを持ったまま、お客の相手をしているようだ。
アクアの話では暇そうにお祭り前でうろついていたので手伝わせたらしいが、エリス教の女神がアクシズ教の店番なんて酷すぎるだろ。
「くっ、またハズレか!」
「もう一度やらせろ!」
何やらおっさんたちが、その割り箸の片割れを片手にして勝手に盛り上がっている。
同じ盛りでも決してライスの大盛りではない。
「本当にクリスは良い逸材よ」
三本の棒からくじを引いて当たりが出ると二倍の掛け金になるらしいが、クリスは一度もその当たりを引かせていないらしい。
なるほどな、俺とのじゃんけん勝負でも負け知らずだったクリスの運の力を利用した……そういうフレミング左手の法則的な商売(違う)か。
「ちっ、またハズレかよ! どういう理屈なんだ? 三本のうちの二本は当たりなんだぜ!?」
「よし、次は俺が相手だ!」
片割れのおじさんがクリスの手のくじの前で目を瞑って祈りを捧げる。
「幸運の女神エリス様、当たりが出るように天で願っていて下さい! 俺、今度負けたら正式にアクシズ教の信者になりますから!」
「えっ、どういう意味……」
本来は女神であるクリスの声はおじさんには届かない。
「よし、これにするぞ!」
「ぐっ……駄目だったかー‼」
「全財産をかけたのにもう散々だぜ! 今から嘘つきのエリス様とは絶交だー‼」
「そ、それはー!!」
クリスがショックを受けて、へなへなと床に倒れ込む。
おいおい、この期に及んで貧血か?
鉄分はちゃんと摂ってるか?
「素晴らしいわよ。また一人エリス教徒を辞めさせるなんて!」
そのまま四つん這いになり、どん底に落とされた気分になっているクリス。
アクアのためとはいえ、自身の信者を無くすことを自ら行って何がやりたいのだろうか……。
「アクア様……」
そこへ残念そうな顔つきのセシリーがアクアを呼び止める。
「あの……私の所のお客さんもあれから一切居なくなりまして……、さらに、このくじ引きのお店の売り上げも
「ここは思い切って、ところてんスライムの出店を出すべきでしょうか……?」
「うーん、ついに観音様による奥の手を使う時が来たようね」
「おい、性懲りもなく、変な店を出すな!」
このアクシズ教団の連中は商売というものをよく理解してねえな。
エリス教と一緒に祭りを盛り上げるはずだったのに、このままだとアクシズ教団側は逆に出店停止は免れないだろう。
「まあ、ここは俺が何とかカバーするか。アクアは宴会芸で客を呼んで、セシリーは接客だ。ちなみにクリスは俺の助手担当な」
「ねえ、どうしてあたしが手伝う意味があるのさ!?」
ここはクリスにも犠牲になってもらおう。
中途半端なやらせ方より、最後まで俺たちと戦って欲しいからだ。
俺は幸運の女神さえも味方につけることにした。
****
月夜が照らす城下町から香ばしいソースのいい香りが漂う。
「何だ? あっちの店から美味しそうな香りがするんだが……」
次々とその出店に列を作る人を見かけ、連鎖反応でお客がどんどん集まって来る。
「はい、いらっしゃい、いらっしゃーい!」
「アクシズ教団名物の焼きそばが食べれるのはこのお店だけよー!!」
アクアが扇子を持って舞い踊る中、俺は店内に備え付けた鉄板の上で中華麺を炒め、クリスはひたすら炒める食材を包丁で刻む。
「クリス、新たな焼きそばのオーダーが入った! キャベツと豚肉を急いで追加だ!」
「あいさ、助手君!」
店で購入したお客がトレーに載せられた出来立てホカホカの焼きそばをズルズルとすする。
「おおっ、すげー美味いじゃないか。この焼きそばとか言う食べ物!」
「ああ、ソースと麺との絡みが最高だよな!」
お客さんの反応も上々で思った以上だ。
「おい、兄ちゃん。カラシマヨネーズ入りのキャベツを大盛りで麺は固めでお願いな!」
「俺にもくれ! 大急ぎで二つ作ってくれ!」
「了解、少々お待ちを!」
どうだ、俺が思った通りの大賑わいだ!
最近覚えた料理スキルが活躍できる日々がこんなにも早く来るとはな!
「カズマ! ねえカズマ聞いて!」
「例の焼きそばがね、お客さんからとっても美味しいって大人気なの。来年のお祭りでもやってくれないかって!」
「こんなにもお客さんに褒められて私もとても嬉しい気分なんですけど!」
アクアが心底楽しそうに笑顔を見せる。
「決まってんだろ、アクア」
「人間真面目に汗水流してコツコツと商売した方が儲かるという仕組みなんだ!」
「人の心を掴む商売とはな、変なぼったくりなんてせず、誠心誠意な気持ちをぶつけるのが一番大切なのさ!」
俺は焼きそばを炒めるコテを片手にアクアに笑いかける。
元は引きこもりだったのに、働いて金を稼ぐことに対し、こんなにも充実した時間を送るようになるとはな。
「しかし、こんなにも大評判なら俺も本格中華料理の専門店を出してもいいかもな」
「お客様、焼きそばのお口直しにところてんスライムのメニューもいかがですかー!」
「おい、小悪魔セシリー! 食後のデザート感覚じゃあるまいし、違法食品のスライムなんて強引につけるな!」
「ねえ、助手君。エリス教徒の人たちもこっちに集まって来てるんだけど、今日のあたし、一体何がしたいんだろうね……」
今日、大きな赤字だったアクシズ教団の出店で、この焼きそば店だけが唯一の黒字となったのであった。
お陰様で商売大繁盛、ありがとやんしたー!
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