第192話 この感謝祭を繁盛させるための糸口を‼(1)

 ここ最近の俺は毎日、忙しく時間に追われていた。  


 朝はモンスターを倒すために街の外を出て、昼からは祭りの準備と街中を飛び交う日々。


 これも例の店のため……いや、祭りのためを思えば、こんな日常も苦にはならない。


 引きこもりの俺が楽しみたかった学園の文化祭のようなイベントを心から楽しむ……そんな願いが叶ったような気分だった。


 さらに俺は商店街の役員会議にも毎日必ず行って、祭りに関してのアドバイスを色々と提案した。

 全てはこの祭りが無事に繁盛して欲しいという想いからだった。


「──売り上げアップの目論みとして出店の女性の売り子さんたちは、みんな水着にしてみてはどうでしょう」

「おおっ、それは素晴らしい考えだが……あまり過激にやり過ぎると警察から出店禁止の命令が……」

「何の、サツが怖くて祭りが出来ないだろ。儲かる理屈が分かっていて、それをやらないのは商売人として落ちぶれている!」

「ああ、まさにそうだ!」


 役員たちが俺の言葉に賛成の意義を示す。


「じゃがな……利益だけの結果で来年以降の祭りごとを小さく制限されてもな……」

「売り子を水着にさせる正当な理由があればきちんと話はつくのだが……」


 そこへ商店街の会長さんが渋い顔をしながら、鋭い意見を口に出した。


「そこは俺の出番だ。俺なりに考えてみたのだが……」

「アドバイザー殿、その考えとは!?」


 なーに。

 実に簡単なことさ、その命をこの命探偵に預けとけ!


****


「カズマ、ちょっといいか?」


 ダスティネス家の応接間イコール事務室になった部屋にて、教壇のようなテーブルの座席に腰かけた領主代行のダクネスが、一枚の企画書を手に取り、何やら頭を悩ましている。


「この祭りの実行委員から『熱中症の対策としての女神エリスとアクアによる水着感謝祭了承案』というものが来ているのだが……これは何の意味があって……」

「ああ、祭りの当日は真夏日になるだろうから、最初から服の下に水着を着ていれば、打ち水で下着が見えても大丈夫という寸法でさ」


 俺は夏にも関わらず、涼しげな顔をしながら、大胆な提案を吐いた。


「俺が住んでいた国ではこんな祭りには参加しなかったから、どうしても成功させたいという俺なりの意気込みも含んでいるのさ」

「なるほど。領主代行でまだ書類整理にも慣れていなくてな。疑ってすまなかった」


 ……という感じで丸く収めてきたつもりだったが、アドバイザーとして、順繰りと物事が進まないこともあった。

 たまには意見が対立し、運営委員たちと時もあった。


 爆裂魔法の使い手がいないせいで夏祭りに重要な花火大会が中止になるのを問われ、じゃあ、俺の仲間のめぐみんを使い手に選抜しようとすると、バカ野郎の台詞から始まって大喧嘩になったり、他にはサンバカーニバルのようなセクシーな踊りを追加しようとしたら、堅物な保守派からの反対意見があったりと色んな議論があったが……、


 ……俺による祭りへの純粋な情熱は理解されたようで、最終的には『爆発ポーションの使用許可書』と『仮装のパレード企画決定書』という二枚の書類にして纏め上げ、うまいようにダクネスを納得させた。


 ……それから、ついにこの祭りの当日がやって来たのだ──。


****


「アクセルの皆さん、長らくお待たせしました!」


「本日から合同祭初となる、女神エリス&アクア感謝祭を始めたいと思います。皆さん、大いに楽しんで下さい!」


 若い女性アナウンスの声から感謝祭の始まりを告げられ、観客の嬉しそうな叫び声と共に空に上がる開始の花火。


 酒を片手に盛り上がる大人たち。

 パンやワインなどを勧める女性店員。

 綺麗な手から風に流されていく色とりどりなテープの飾り。


 その盛り上がりの花火の音は俺の家にまで聴こえ……。


「──うん……早いな。もう朝か」


 以前に紅魔の里から持ち出したゲームガールのゲームに夢中だった俺はカーテンのない窓からの朝の日差しを浴びる。


 毎日頑張って労働した分を取り戻そうと遊んでいたら徹夜してしまったか……まあ、今日は休みなんだし、後で寝ればいいか。


 俺はとりあえず飯でも食べようと、あくびを手で押さえながら、リビングへと向かった。


****


「あっ、カズマ。おはようございます」


 ミニトマトをフォークに刺し、口に運ぼうとしためぐみんが律儀に挨拶をしてくる。


「おはようさん。あれ、お前一人?」

「ええ、アクアはお祭りが楽しみでしょうがなかったらしくて、もうここには居ませんよ。モグモグ……」


 めぐみんがミニトマトを頬張り、食事中のハムスターみたいな様子が数十秒続いた。


「ダクネスなんてアクシズ教団が下手なことをしないか不安で大慌てで行きましたね」

「……そうか、領主代行も色々とあるんだな」

「……そんで、めぐみんは祭りには参加するのか?」

「いえ、私は……」


 お祭りに行く相手がいなくて寂しがっているゆんゆんの所に行って、向こう側から遊びに行こうとも言い出せない彼女をからかうつもりらしい。


 ……めぐみん、そこまで嫌がらせせずに、ゆんゆんと祭りに付き添えばいいだろ。


「カズマはどうするのですか?」

「俺は夕方まで寝た後に祭りの出店で爽やかに愚痴をこぼしながら、金もないんで店を冷やかす予定さ」

「カズマらしい相変わらずの堕落と皮肉っぷりですね」


 めぐみんがコーヒーカップを口にして朝食を食べ終える。 


「それよりもカズマ。三日目のお祭りの夜は何か予定はありますか?」 

「うん? 何だよ、急に改まって?」

「はい。その日の夜は花火大会があるのです。アクシズ教徒が異常な問題を起こさなかったら花火を打ち上げる予定みたいですが……」


 めぐみんが食器の置いたトレイを運び、俺の背中で立ち止まる。


「もし、無事に三日目の夜が来たら、私と一緒に花火を見に行きましょう」

「へっ、そうだな……」

「じゃあ決まりですね。私、待っていますので」

「おおう……」


 突然のめぐみんによる言葉の投げかけに俺の目が宙を泳ぐ。


 おい、このイベントフラグってもしや……!

 女の子と祭りに行って花火大会に行くとか……マジ、青春してるって感じだよな!


 何度も駄目になりかけた花火大会の中止を未然に防いで良かった!


 めぐみんがリビングを去ったのを確認したチキンな俺は拳を胸まで上げてガッツポーズをしてみせるのだった。

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