第189話 この聖鎧アイギスを無事に盗むために潜入を!!(2)

「助手君もビックリするのも無理はないよ。神器が喋るという情報はこちらにもなかったからさ」


 俺の驚きぶりにクリスも動揺を隠せないようだ。


「そ、それでさアイギス」

『アイギスさんと言わんか、小僧ごときが』


「ムキー!」


 アイギスから小僧扱いにされたクリスの何かがぶちギレた。


「何なんだよ、失礼だねっ! あたしは小僧じゃないって‼ 神器の分際で何でそんなに生意気なことを言うのさ!」

「お頭、血の通ってない鎧相手と喧嘩してる時じゃないでしょ!」


 涙目で腹を立てたクリスがアイギスに飛びかかり、ボコろうとしたところを俺は力ずくで止める。


「そ……それもそうだったね。ごめんね、その……アイギス……さん」

「あたしたちがここにやって来たのは、今一度キミの力が欲しい相手がいるからなんだ」


 落ち着きを取り戻し、平静になったクリスがアイギスと穏やかに対話を始める。


「そう不安がらずに安心して。あたしがキミの新しい持ち主を見つけてあげるからさ!」

「その人は前のご主人と同じ異世界人であってね、日本という場所からこの世界を救うために転生してきた……」

『ああん? 何でそんな面倒なことをやらすんだよ。俺は反対だね』


 アイギスがクリスの意見に突いた。

 随分と注文が多いだけどな。


『また人様の言うことを聞いて頑固な鎧になって持ち主を守るんだろ? 今さらそんなこと言われてもな。何世紀前の考えだと思ってんだ? バカも大概にしろよ!』

『それにその持ち主は俺の理想のタイプなのか?』


 アイギスから次々と出てくるワガママにクリスが苦笑いを……いや、そのまま精神的ショックを受けて放心中か……。


「……まあ、あやふやな言葉かも知れないけど、正義感と勇気を持っていて優しい性格の……」 

『違うぜ、中身なんて適当でいいんだよ!』


 何とか心を繋ぎ止めたクリスが柔らかな応対をする中、この鎧はとんでもないことを言い始めた。


『どんな腐れたような性格でも見た目が良ければそれでいいんだよ! 胸がデカイのか? それともスレンダー派か? ああ、言っておくが色気もクソもないガキは駄目だからな』


 アイギスが見えない鼻息をフンスと鳴らしながら、自身の性癖に対して熱く語り出す。


『あっ、でも美人系より可愛い系を求めてるからな。前のご主人様は剣士だったからもち剣士希望で。それから鎧の下は薄着限定な』


 なあ、この心まで薄汚れた鎧を海じゃなく溶鉱炉に沈めてもいいか?


「助手君、気持ちは分からないでもないけど、今はグッと堪える時だよ」

「ええ。本音はドロドロンに溶かして別の澄み渡る鎧にリサイクルしたいんですけどね」


 クリスも俺の気持ちを感じ取ったのだろう。

 アイギスの強情さに困った感情を見せる。


「じゃあ、お頭。いっちょ始めますか。では後ろにまわってもらえます?」

「うん、了解」


 俺は修羅の道を歩むことを決断し、無心で背中の風呂敷から例の梱包用のぷちぷちを取り出し、クリスと一緒にアイギスの大柄な体を包み込む仕事を始める。


『おい、お前ら俺の体に何やってんだよ? それに名前も名乗らず、こんな真夜中に押しかけて来てさ』

「ああ、俺たちはクール宅急便と見せかけて、この屋敷に侵入してきた盗賊だよ。お前を無事に持ち帰ってから、きちんとした持ち主の相手になって欲しいんだ」

『……』

「お前は神器なき聖鎧せいがいなんだろ? まだ鎧としての人生は長いんだ。今からでも遅くない、汗水流して頑張って働こうぜ」

『……』


 不意に壊れた玩具のようになり、アイギスからの返答が途絶える。


 ようやくこの鎧も現状を理解してくれるようになったか。

 まあ、あの優しきクリスのことだから、悪いようにはしないさ。


「ごめんね。日本からこの世界にやって来る女の子はそんなにいないんだ」

「だから……キミの希望通りにいくのは難しいんだよね」

『……』


 アイギスは自身の不本意な発言を悟ったのか、ただ黙ったままである。

 まあ、書く方は楽でいいが。

(何の話だよ?)


「でも女の子が来た時はキミの言う通りにできるかも知れないから……今はあたしらを信じて身を任せて……」


 クリスが優しい笑みをアイギスに向けた途端……、


『……この、人さらいぃぃぃぃぃー‼』


 スケベ鎧の助けを求める大声で目を覚ました屋敷内の住人が騒ぎ出し、俺とクリスはその場から猛ダッシュで逃げを決めた!


****


 新しい朝が来た。

 くそったれな朝だー!

(アクセルラジオ体操第一のテーマ)


「ちっ、あの女体好きな鎧め。とんでもない目に遭ったぜ」

「ああまでされたら盗りようがなくて逃げるしか方法がないよな」


 我が家に帰宅し、朝日が昇る窓のカーテンを閉めて、布団に寝転がる俺。

 まあ、今は眠いから、とにかく一回寝入って、起きてからクリスと会って再度作戦を立てればいいか。


 俺はすずめの鳴き声を子守唄代わりにし、布団に潜り込んで安眠モードに入る。


「カズマー!」

「もう朝よ。呑気に寝てないでさっさと出かけるわよ!」


 何も知らない能天気女神の挨拶にイラつきを感じる俺。


「おい、アクア! こんな朝早くから何なんだ! 俺は今から眠るんだから起こすなよ!」

「なーに? カズマ徹夜でもしたの?」

「ああっ、分かったわ! カズマも今日からやるお祭りの準備に待ちきれなくて眠れぬ夜を過ごしたんでしょ?」

「違うわ! 俺は小学生で遠足を楽しみにしてた子供か!」


 怒りで目が冴えた俺はあまりもの女神の言い分にお布トーンを宙に蹴飛ばした!


****


 俺はアクアに強引に誘われ、寝不足のまま、アクアと街並みを歩いている。


「おい、祭りの準備とか昼からでいいだろ? 朝っぱらから気合いを入れてやることか?」


 俺は再びやって来た眠気に耐えきれず、大きなあくびを連発する。


「カズマ、何、寝言をほざいてるのよ」


 いや、寝言が聞きたいなら静かに寝かせてくれよ。 

(スイミン、スイミング、ハンバーグ不足)


「私たちは冒険者よ。いつものようにモンスター退治のクエストを受けるのに決まってるでしょ!」

「えっ、祭りの準備はどうした?」

「そうよ。祭りの準備よ?」

「だから何で……」


 お前は日本語も通じないほど、お馬鹿な女神になったのか?


「ダクネスもめぐみんも待ってるわ。私たちも早く行きましょ」


 アクアの早足についていきながら思う。

 このまま凍れる眠り人のように黙って寝かせてくれないか……。

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