第187話 この厄介ごとの火種を消すために正しき道を‼(4)
「そういうわけでクリス。おおよその話はこれで以上であーる。イヨォォー、ポンポコ!」
「何なのさ、歌舞伎役者口調で言ってくる、そのふざけた企画は!?」
俺はクリスと街の喫茶店で落ち合い、会長さんとの話の内容を伝えるが、当のクリスはいささか不満げなようだ。
「しかし、あの堅物の会長さんとの戦いは激しかったよ。最後には和解し、大空を見上げながら、『ああ、あの太陽は情熱的で眩しいぜ』と喜んで『太陽に咲けよ』みたく、仲良く肩を並べたんだけどね」
俺はやり遂げた感満載のスッキリとした営業スマイルになり、軽くため息を出す。
「キッ、キミがそういう話に持っていったのかぁー!!」
怒ったクリスが丸テーブルを両手で叩いて、前のめりの体勢になる。
「何でそんなことを勝手にするんだよ! 元はあたしの祭りなのに、それを諦めて先輩の祭りを手伝わないといけないじゃん!」
「いや、何でお前さんがアクアの祭りごとを手伝うのが断定なんだよ」
クリスが俺の座る方に体を傾け、俺の着ているマントを千切れるくらいに握って俺の首を強引に振りまくる。
そんなにコンポタ乱暴(うまい棒による乱闘)のように扱ったらシワが出来るだろ。
時と場合によっては、クリーニング代を出してもらうぞ。
「ここは強制の頼みじゃないんだから、嫌だったらキチンと断ろうな。アイツのことだからすぐに自分が苦手な仕事を押しつけてくるぜ」
「そうなんだけど、先輩に頼まれたら、いつの間にか上手い手口で、その仕事をやらされていて……後、キミの蘇生の片付けとかもあるし」
「すみません。いつも厄介な物を散らして。お世話になりやす……」
みすぼらしい汚物処理をする女神を想像し、俺は申し訳ない気分になる。
「まあ、それなりの理由があってな。魔王軍の侵攻とかで人々はお祭りを心から楽しめないらしくてさ」
「みんなには魔王軍のことは置いといてもらい、賑やかに祭りを盛り上げるために、祭りが好物なアクシズ教徒の力も借りるというわけさ」
「……そこまで言われるとあたしには拒否権はないけど、キミって街のみんなを助けるみたいな真面目なヒーロー型のタイプだったかな?」
おう、何度も手強いモンスターに、魔王軍の幹部とも死闘を繰り広げ、さらに神器を探して協力もしてるのに、ちょっとそれは酷い言い方ですな……。
俺はクリスに対して、渋い柿を噛んだような複雑な気持ちを素直に表す。
「ご、ごめんね!? そんな顔で睨まないで。あたしが言い過ぎたね。わざとじゃないんだ……!」
「キミの言い分も分かったよ。先輩もそこまで危ないことはしないと思うし……いや、多分しないはずだよね?」
「……」
「何で無言で黙ったままなのさ!?」
とにかく口で言うよりも体験してみないと始まらない。
まずはお試しコースで一回だけやってみよー! ということになったことだし……。
「アクアも飽き性な部分があるし、ひよこなゼル帝の面倒とかもあるから、一回やっただけでお腹一杯だろう」
「それで大丈夫かなぁ……」
「もしアクシズ教団のお祭りの方が人気になって来年からあたしの祭りが取り下げになっていたら嫌だなあ……。いや、別にあたしを祀って欲しいという願望はないんだけどね?」
何だ、アクアみたいな自分が一番的な語り口をしてるけど、女神の連中って、こんな面倒な性格の持ち主ばかりなのか……。
****
俺たちの座るテーブルに店員からコーヒーカップが置かれ、カップの中からほのかな湯気が宙に溶け込んでいく。
「それでお祭りの件は決定として、新たな神器がある場所は掴めたのか?」
「うん、何件か調べながら、何とか突き止めたんだ。でもさ、今回も保管状態が厳重でさ……」
「アンダインという名前の貴族が隠し持っているみたいだけど」
「ド○クエのゲームによる、氷魔法が得意そうな名前の貴族だな」
「ゲームはともかく、この人は変なのばかり集める狂った性癖の持ち主でさ……」
何々、偉大なる魔法使いの師匠から学んだ氷魔法だけじゃ飽きたらず、美少女が肌身離さず持っていた薬草を大量の金と引き換えに貰って、家の額縁にしれっと飾っているキモいヤツか?
「うーん、貴族が相手なら正攻法として、ダクネスにお願いしてみたらどうだよ?」
「それは無意味な行動だね」
クリスの話では、アンダインはその神器を闇ルートから入手したらしく、いくらダクネスが来ても『何も知りません』の一点張りと言うに違いないと……。
欲しい物はどんな汚い手段をとっても手に入れる
「いくらダクネスが訪ねて来ても『そんな物、名前すらも知らないですよ。そもそも私の元に来るのが間違いなのでは?』と誤魔化して話を終わらせるのが見えてるよ」
あの失踪したおっさんといい、貴族というヤツはどいつもこいつもフランスも、とんでもないのばかりだな……。
まあ、犯罪まがいで非合法的な取り引きとやらが、脅して入手したのか、盗み出したのか経緯は不明だが、そんな貴族なら俺たちも遠慮は入らないということになるな。
「それでさ」
「今回はその貴族の屋敷に下見に行こうと考えているんだ」
「……!」
俺は鼻から息を漏らしてクリスに分かりきった質問をする。
「……てことはアレですよね、練りわさび入りの泳げないたい焼きさんなお頭」
「そうだよ、たい焼きも美味しいけど、わさびじゃなくてアレのことだよ。助手君」
「はい、ヨーカイならぬ、りょーかいしやした!」
参ったな……。
またあのふざけた仮面を身に付ける時が来るとは……。
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