第186話 この厄介ごとの火種を消すために正しき道を‼(3)
「じゃあ、あなた。私の備蓄食料のカップラーメンが底をつきそうだから、新しいのを買ってきてくれるかしら?」
「はい、アクア様。任せて下さい!」
セシリーは両手を合わせて駄女神の願いを受け入れる。
「カップラーメンのお湯を沸かし、出来上がった熱い麺をフーフーと息で冷ましながらフォークで食べさせる所まで……って何をするのよ!」
「おい、ちょい待て」
俺はセシリーが被っているフードを背後から掴み、手前に引き寄せる。
「あまりアイツを甘やかさないでくれよ。すぐ勢い余ってとんでもないことを言いかねないぞ。それにあんたやたらとアクアに尽くすよな。ヘルパーでも始める気か?」
「それにその対応からして、もしかしてアクシズ教団はあのアクアの真の姿を知ってるつもりなのか?」
俺はセシリーの考えていることを知りたい。
ただそれだけのことだ。
「えー、お兄さん、またまたご冗談を。この人は偶然にも名前が一緒なアクア様で、たまたま同職のアークプリースト。私はアクア様の奴隷として彼女の存在を目の当たりにし、食って寝るだけの生活を営むためにこの街を訪れたのです」
俺から顔を明後日の方向に向けたセシリーの言ってることが、むちゃくちゃな部分から、恐らく教団はアクアがこの世界に下りたことを知ってるな。
(愛の街、アクセール)
「ねえ、カズマ。私たちの目的を忘れてない?」
「ああ、分かってらい麦。面倒だな」
アクアが小声で俺に意図を伝える中、俺はセシリーに例の誘い文句をかける。
「あのセシリーさん。実はお願いがあって」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ、お兄さん。自分の身内みたいな感覚でセシリーお姉ちゃんって呼んでいいわよ」
ああ、ガチでめんどくさい女だな。
「ええっとですね……この街で女神エリス祭があることはご存じで──」
「ちっ、そんなこと知ってるわ! 調子に乗りやがって! あの極悪なエリス教徒がふざけた祭りを行おうとしてることは!」
これまで上品だったセシリーの口調が一気に荒くなる。
「祝い事が大好物なアクシズ教団を無視して勝手にエリス教団で祭りをするなんて。もう殺っちゃおうかしら」
「そうね。こうなれば、アクシズ教団と仲間たちによるエリス絶滅世界大戦をおっ始めるしかないわね!」
つまり、核兵器(ネズミ花火)で平和をぶっ飛ばせというヤツか。
「それでは今からエリス教会の開いた窓から水の入ったバケツで床を水浸しにして、床もろとも腐らせてあげるわ。それで怒り狂ったエリス教徒が外に出てきたら、めぐみんさんが魔法で蹴散らして、お兄さんの役割は『日頃から憎まれてるエリス教徒に、ついに神からの罰が与えられたんだ。修繕費は全部お前ら持ちな』と皮肉に呟く部分をお願いしますわ。まあ、アクア様は酒場でお酒でも飲んでのんびりと堕落に染まっていて下さい」
「いや、行かせねーし、俺も言いたくないし、説明の下りも長いし、色々とツッコミ所が満載だろ!」
俺がセシリーの服を引いて動きを止めるのに対し、アクアもめぐみんもキラキラとした瞳でセシリーを眺めている。
「お前らも満足げな顔で見送ってんじゃねーよ!」
「そうやって犯罪行為をするんじゃなく、こっちも女神アクアの感謝祭をすればいいだろ」
俺の意見に理解がいったかのようにこちら側へとキラキラとした目線を送る女子組。
カズマコーチ、私苦しくったって頑張りますってか……。
****
俺たちはセシリーを筆頭に街にある有名人なお店を訪ねていた。
「初めまして。わたくしはアクシズ教団の支部長でもあるセシリーという者です。実はあなた様にお願いを申し上げたく……」
「帰ってもらえますか」
「なんだとー! こんなにも律儀で丁寧なお礼をしてお願いにきたのにこのボケナスビが! ひょっとして私の魅力的な体と引き換えなら願いをオッケーしてあげるという背教者のつもりかー!」
「何だ、この狂ったとんちんかんな女は! だからアクシズ教団なんて相手にしたくない……ってちょっと待ってくれ……びでぶ!?」
「テメエ、この聖なる拳でぶっ飛ばすぞ!!」
セシリー、殴った後で言うなよ。
よくそんな気短な性格で責任者が勤まるな。
「なあ、めぐみん。あの人のダチならあの乱闘を止めろよ」
「勘違いしないで下さい。セシリーとは姉でもなく、ただの知り合いです」
しょーがねえ、話が進まないから俺の出番か。
「セシリーさん、ちょっと下がってて、今度は俺が話をするから」
俺はセシリーにタコ殴りにされた商人を辛うじて助ける。
「あいたたた……何の話でしょうか……ってあなたはお金持ちの冒険者のサトウさんじゃないですか!?」
俺はそんな諭吉のような偉大な名前で伝わっているのか。
「まあ、とりあえず聞いて下さい。商店街の会長さん」
「実は毎年やっている感謝祭を女神アクア感謝祭にしたいんですけど」
「何度も言いますが、帰ってもらえますか」
めぐみんが激怒したセシリーを動けないよう、後ろから羽交い締めにする。
「だから最後まで話を聞いて下さいよ」
「……でもアクア感謝祭とかしたらエリス教団が黙っていませんよ」
俺はそこで機転を利かせる。
祭りの変更ではなく、女神エリスと女神アクアの共同感謝祭にすること。
そうすることでアクシズ教徒も納得するはずだと……。
「無茶ですよ。争いの元になりそうで、どこにも良い部分なんて見当たりませんが……」
俺は会長さんをなだめるために肩に手をやる。
「女神エリス感謝祭って毎年それなりに儲かっているんですよね?」
「何ですか? まあ、ここ最近は伸びしろはありませんが、それなりに儲かっていることは確かですが……」
「なるへそ。その低迷を逃れるにはエリス教徒とアクシズ教団は仲が良くないと……つまりですね……」
では共同開催にしたらどうだろうか。
祭りごとが好きなアクシズ教団はエリス教団にライバル意識を燃やし、大きく盛り上がる。
それを見たエリス教団も黙ってはいないはず……。
そうやってお互いの対抗心を上手く利用することで祭りの存在は大きくなり、商店街の売り上げも伸びることに……。
「なるほど。でも祭りの資金源はどうします?」
「エリス教団からの多額の寄付が主でやっているお祭りなのですが……」
「でしたらアクシズ教団にもお金を出させることで、二つの教団により、より大きな資金が都合よく調達できるでしょう」
「なるほど。よく考えましたね!」
カラコンもしてないのに会長さんの目の色が変わる。
「それなら二つの教団の感謝祭をやりましょう! その若さで大金をモノにしたサトウさんの考えは一味違いますな」
「フッ、それほどでもありませんよ」
俺は髪をかきあげながら、自称最高のイケメンスマイルをする。
「そうですね、サトウさんにはこの祭りのアドバイザーになって、今後もご協力をお願いできますか。無論タダ働きではなく、こちらから賃金も出しますので!」
「おう、俺で良ければ喜んで! 今後も素晴らしい知恵を授けますよ」
さあ、これからも一休さんのトンチな頭脳に酔いしれるが良い。
「はははっ、とても良い商談が出来まして、嬉しい限りです」
「ええ、共にぼろ儲けの利益を出してジャンジャン儲けようじゃないですか」
俺と会長さんは固い誓いの握手をしながら、高笑いをする。
二人で肩を並べて見上げた空は全てを見透かしたように雲一つない晴天だった。
「本当にあのカズマに頼んで良かったのでしょうか」
「そうね、お姉さんも不安になってきたわ」
男同士で意気投合する中、めぐみんとセシリーだけは取り残されたままだった。
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