第185話 この厄介ごとの火種を消すために正しき道を‼(2)

「おい! おイタが過ぎるぞ、邪教徒たちが!! 俺らの大事な仲間を返してもらおうか!」


 扉をぶち壊した薄暗い室内には髭面のおっさんと、シスターの青い修道服を着た金髪女が座り込んで、床に例のブツを並べていた。


「カズマ、こんな所にどうして……」


 二人の背後に立っていためぐみんが驚いた顔をしている。

 めぐみん、今忌々しいヤツらを俺のア○パンチでぶっ飛ばすからな。


「安心しろよ、めぐみん。そこの犯罪者なんてちょちょいと魔法の縄で縛って、さっさと警察に連行するからさ」

「おい、お前ら、いたいけな女の子に犯罪の真似事をさせやがって。覚悟はできてるんだろうな!」


「まっ、待って下さい!」


 シスターらしき女が手に例の袋を持ったまま、俺の判断を鈍らせる。


「確かにこれはこの世界で輸入が禁じられた品物でもありますが、今回は私個人が使用するものですから……」

「でもそれを俺の仲間にお裾分けしようとしたじゃんか。普段からおかしいあいつがさらにおかしな人格になったら、お前さんは責任をとれるのか? 駄目な女神に代わって俺が正義の鉄拳をお見舞いしてやる!」

「えっ、いや……」


 シスターが愛らしくあたふたしながら、俺の行動を遅くさせる。

 恐らく俺の脳内の通信制限速度を超えたか。


「何事なのですか! 私たちの場所にやって来て、速攻で喧嘩腰なんて──」


 めぐみんがあたふたしながら、その場の売人を守ろうとする。

 いや、俺がもっと健康的な遊び方を教えてやる。

 だから悪の道に足を踏み入れるな。


『ゴットブロー!!』

「ぐばはっ!?」


 俺がシスターと揉める中、アクアのキレのある強パンチが売人らしきおっさんの顔面にクリティカルヒットする。


「ああっ、アクアも。殴ったら駄目ですよ!」


 完全にノビてしまったおっさんを見てから頭を抱えるめぐみん。


「カズマ、この男はアクシズ教徒じゃないから神の天罰を与えたけど、そっちの女の子からは親愛なアクシズ教徒であるオーラが感じとれるわ。とりあえず彼女の話を聞きましょう」


 アクアが真剣なまなざしでシスターの方に敵意のない目を向けると、見つめられたシスター側の目が大きく見開いた。


「まさか……あなた様こそが」

「……ふふっ、こんな神々しい方が現れるなんて。つくづく悪いことは出来ないわね」


 女というより、若い美人のお姉さんと言った所だろうか。


「ええ、私の負けよ。さっさとこのブツを燃やし、警察の元に連れていけばいいわ」

「そうか、まあそう気にするな。自首した分、罪は軽くなるからな。じゃあ警察の方に一緒に行ってもらうぞ」

「ええ、無論よ」


 膝の上に粉袋を置いたまま、シスターのお姉さんは俺の言うことに素直に従う。


「お姉さん、それは正気ですか!?」

「ふふっ、めぐみんさん心配してくれるの? まあ罪を償ってから、またいつかこうやって世間話でもしましょうか」

「……今日の夕方くらいに、また会いましょうね」


 今日の夕方だと?

 ヤ○ルトレディーの取り引きで、そんな短期間で署を出れるかよ。


「あなた、何て複雑な表情をしてるのよ。ところてんスライムの違法所持なんて一時間ほど説教されてすぐに釈放よ」


 お姉さん、それって食欲のない夏場にツルリといけるアレですかー?


「は? そのスライムってヤツで中毒になったり、意味もなく興奮したりするんじゃ?」

「そんなわけないでしょう」


 めぐみんが不可思議な顔で俺に説明する。 


 ところてんスライムとは俺の思った通り、食用であり、ところてんのような食感の味わいがクセになる皆に愛されるソウルフードでもあるらしい。


「いや、だって禁じられた品物だから持っていたら罰せられるんじゃ?」

「ええ。ちょっと昔の話になるのだけど……」


 愛しさに切なさにまぶたを閉じかけたお姉さんの話によると、温泉の街アルカンレティアで魔王軍によるところてんスライムを利用したテロ事件があったらしい。


 たちまち街の温泉はところてんスライムだらけになり街中はパニックに……。


 これには何かの意図があると闇に隠された研究所などで大規模な研究が始まり、ところてんスライムの安全性が分かるまでは無闇に口に入れないようにと世界中で警告が発せられたのだった……バブゥ。

(こんばんは赤ちゃん)


「つくづく思うんだが、魔王軍の連中って頭がイカれてんのか?」


 これまで倒してきた魔王軍による幹部もどこか感情がぶっ飛んでいたし……。


「イカれてるはさておき、私にはところてんスライムは欠かせない食品なの!」

「これがなかったら、もう生きていけない。例え罪に問われようとも……!」


 お姉さんが両手を顔につけて申し訳無さそうに泣き崩れる。

 そこへ神々しく光り輝いたアクアが優しき眼で、そっと手をお姉さんの肩に置いた。


なんじ、親愛なるアクシズ教徒よ……アクシズ教の学びより、第7項を思い出すのです」

「あっ、はい。あの第7項ですか! 

『汝 我慢をせず、飲みたい時や食べたい時は好きにその欲に従うがよい。明日もそうして満足に食べられる日が来るとは限らないのだから』ですよね」

「そうよ、汝は我慢する必要はないの。人の皿に美味しそうな食べ物がのせてあっても食べたいなら食べていいのよ」


 それやると確実に信頼を裏切る孤独の道を進むことになるぞ。


「ところてんスライムが食べたいなら自由に食すといいわ。我慢は体に悪いし、今を目一杯楽しまないと」

「ああ、アクア様。素敵なお言葉をありがとうございます」


 おい、何か話が怪しげだが、こいつらの暴走を止めた方がいいのか?


「それよりカズマはアクアとどうしてこの場所に?」

「ああ、実はだな……」


 俺は置かれた事情をめぐみんに詳しく説明した。


****


 しばしして、気絶から回復したおっさんを追い出し、俺たちはアクセルの街中にいた。


「……なるほど。私が危ない遊びに手を染めそうだと思って、部屋に入ってきたのですか」

「そうさ、悪いな。俺の勘違いでその場の空気をめちゃくちゃにして」


 恥ずかしさが込み上げてくる俺は上手いことが言えず、顔が熱くなるのを肌で感じる。


「別に気にしなくてもいいですよ。私のことを心配して言ってくれたのでしょ?」


 そんな俺にめぐみんは実に嬉しそうな顔で俺を褒めてきた。


「俺らの大事な仲間を返してもらおうか! なんて。カズマの名言がまた一つ増えましたね」

「あ、あのな。あの時はガチでお前を……」


 言いたいことはあるのに言葉に出来ない想い。

 こんな時、ヘタレハツライ。 

(ガチガチに緊張中)


「何ですか、この男は。めぐみんさん!」


 今度はお姉さんが俺という餌に食いついてきた。


「めぐみんさんの微笑みにツンデレの雰囲気出しまくりで、めぐみんさんも特に嫌な顔を見せずに!」

「めぐみんさんってば可愛すぎですから、今すぐ思いっきりハグをしてもいいですか!?」

「それは止めて下さい」


 めぐみんが断固として拒否る。

 ああ、魔導カメラで良い絵が撮れたかも知れないのに。

(ゆりゆり)


「とにかく彼女の自己紹介が先でしたね」

「この方はセシリーさんでこの教会の責任者でもあります。この人は私の……」

「そう、血の繋がらない義姉です」

「セシリー、それは違うでしょ」


 その強引な姉設定からして、セシリーも萌え萌なゲームがお好きなのか?


「……まあ、その以前にお世話になった知り合いですよ」


 気のせいか?

 この人、美人なのにてんで駄目なイメージが膨らんでしまう。


「あらためまして、お初になりますアクア様。あなた様の噂はアクシズ教団の最高責任者のゼスタ様から小耳に挟んでおります」

「私の名前はセシリー。あなた様のお役に立てることがあれば何でも相談して下さいませ」


 セシリーはアクアの元にしゃがみこみ、女神の言葉を待っていた。


 さて、アクアの女神っぷりが試されるぞ。

 お前が起こす蒸し暑い不快指数がな。

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