第183話 この親バカな女神からの英才教育を‼
ダクネスの自信に満ちた態度に俺はハッと気分が冴える。
「あー、こいつ! ダスティネス家の地位を利用して戸籍を元に戻しやがったな。これだから追い詰められた金持ちは!」
「カズマ、それではまるで私が悪いことをしたかのように言って……!」
手元にはカツ丼はないが、悪いことだからお前を問い詰めてるんだろうが!
「ダクネスも初期の頃から変わって物事を柔らかく見るようになりましたね。ここ最近、カズマと行動を共にしてきたからでしょうか」
「めぐみん、お前まで私をそんな目で見るのか……!」
そうだ、めぐみん、もっとガツンと言ってやれ。
同じ布団で寝た女だけあり、俺のことがよく分かるようになってきたな。
「ちょっと二人とも喧嘩を吹っ掛けるなんてらしくないわよ」
そこでアクアが俺らの間に割って入る。
お前は割り箸のおてもとか?
「ダクネスはね、見た目はこうでも本当は乙女心が満載なのよ? 可愛いワンピースや熊さんのぬいぐるみとかが大好きで、みんながいない時はゼル帝の面倒を見てくれる、とても良い子でもあるのよ!?」
「そんな純情可憐で通っているダクネスが戸籍をねじ曲げるくらい訳ない……」
「……ちょっ、ちょっと何をするの。グーで叩くのは止めて! 私はダクネスの味方よ!」
ダクネスが無言でアクアをボコろうとする。
いいぞ、明智光秀なる筋肉女よ、とっととあの女神をやっちまえ!
『コンコン』
「こんにちは。お邪魔だったかなー?」
場違いな登場に困り果てた銀髪の女の子が頬を掻く。
「あっ、クリスじゃん。何か用か?」
「あはは……いつも賑やかな連中だね」
そうさ、俺らはフル○ウスのようなフレンドリーな家族を目指しているからな。
(何の心得だよ?)
****
「──という理由でさ」
クリスと一緒にソファーに座り、彼女の身の上話を聞くだけで目頭が熱くて……。
「助手君は協力してくれるみたいだけど……って何でキミは泣いてるの?」
「お頭も色々と
「それ、苦労をじゃないの?」
「へへっ、日本語って難しいなあ」
「いや、キミ、絶対わざとでしょ?」
俺は窓ガラスの方を見つめながら、天にいる可愛い神様に想いをぶつけていた。
「だから、みんなにも神器集めを手伝って欲しいんだ」
「そうか。話は大体分かったのだが、悪いなクリス」
「今はいなくなった領主の代わりに私が領主の仕事をしていて。本来ならば父の役割だが、幾分まだ体調不良であって……」
「別に良いよ。そっちの方が優先的だし、ダクネスの気持ちだけでも受け取っておくよ」
心配げなダクネスを気遣い、朗らかに笑みを返すクリス。
「私は手伝ってもいいですが、状況にもよりますよ。その神器に手を付けている者がいたら、爆裂魔法で灰にするぞと脅迫することしかできませんが」
「あはは……、ありがとう。めぐみんにもお願い事ができたら、その時は頼むね」
クリスが両手を合わせながら困ったように愛想笑いをする。
そりゃ、めぐみんは下手すれば恐喝になるもんな。
「そっ、それでアクアさんは……」
「私は手伝えないわよ」
アクアが手元に寄せたひよこを撫でながら、無関心な返答をする。
「おい、お前はひよこに餌やって、空いた時間は猫のようにゴロゴロニャーゴしてるだけだろ? 俺らのメンバーの中でも一番に暇してるんだから少しは力になってやれよ」
「じゃあ、カズマには親の気持ちというものが理解できるのかしら」
「何だよ、日中、母親を困らせていた不良少年のカズマさんの呼ばれ方は伊達じゃなかったぜ」
「そうよね、いかにもカズマらしいわよね」
「お前、東○湾に沈められたいか」
アクアが大人びた雰囲気でゼル帝の体を優しく撫で続ける。
ゼル帝は気持ち良さそうにアクアの手の中でつぶらな瞳を閉じていた。
「学校にもほとんど行かず、家でゲームばかりする引きこもりのダメな息子でも、親から見たら可愛いものよ」
「おい、やっぱ気分変えて、太○洋のど真ん中に突き落としてやろうか」
「ダメな子供ほど愛着がわく、そんな格言を私は知ってるの。だから私はこの子を強くて崇められる最強のドラゴンに育てたい気分なの」
どこの本で学んだんだ、その豚の格言は?
俺が昔持っていた漫画からの影響か?
「私は、この子には英才教育をして、ドラゴン界の先陣を突っ切る勇ましい子にさせるつもりなの」
「ねえ、親の姿を見て子は育つっていう言葉もあるでしょ? だから私の強い部分や信者たちから崇められる姿をこの子にも見せたいの」
手伝えないとは、そんなどうでもいいことからなのかよ。
「それでお前はどうするんだ?」
「そうね、ここはひとまず、魔王でも倒そうと思ったけど、互角通しの力でその場では永遠に決着がつかないかも知れないわよね」
「……お前は魔王と肩を並べて、製造業のラインにでも働きに行くつもりか?」
ふと、沢山のひよこ饅頭を製造している職場を思い浮かべるが、アクアのことだから、酒のつまみに饅頭を食ってばかりで話にならないようなので、この話の腰を折ることにした。
「そもそも、そのひよこは魔王と戦う時の切り札として利用するんじゃ?」
「何、ふざけてんのよ! もし可愛い我が子が大きな怪我でもしたらどうするの、カズマ責任とれるの!」
「お前の魔法で回復できるだろ」
「身体じゃない、心の問題よ!」
ああ、確かにまだ小さいひよこだし、メンタル弱そうだもんな。
「まあ、それはいいとして……」
ゼル帝をテーブルにゆっくりと離すアクア。
「この子に私のことをお勉強させるのはまたにしましょう」
「それよりも大きなイベントがあるからね」
「イベント? 弁当屋の経営か?」
「違うわよ、食いしん坊カズマ。みんなは女神エリス感謝祭って知ってる?」
黙ったままだったクリスが驚いたような顔になる。
「女神エリス感謝祭? 何の芸能人によるご当地番組だ?」
「カズマは知らないのですね?」
女神エリス感謝祭とは……。
一年を無事に過ごせたことに感謝をし、幸運の女神様を称える壮大なお祭りのこと。
この時期になると、この異世界の至る所で行われるお馴染みの行事だという。
「エリス祭りは、ここでもやるんですね。何でも幸運の女神エリスのコスプレをすると、一年を素敵に過ごせるという言い伝えもありますよ」
「へえ、ハロウィンみたいで結構、洒落てんな」
「
当然と言ったように誇らしげな顔をするダクネス。
……ということはこの街でも色んなエリス様の衣装姿が見れるということだな。
今からでもワクドキで胸の高鳴りが止まらないぜ。
「カズマ、デレデレと鼻の下を伸ばしていますが、別に女性だけがエリスのフリをする訳ではないからですね」
「……そうか、それならエチケット袋がいるな」
エチケットならぬ、当日は酒を飲みすぎないようにしよう。
「だから何を勘違いして熱狂してるのよ、みんな?」
アクアがテーブル席を平手で叩き、近くにいたひよこが騒音の犠牲となる。
「私は盛大に祭りを楽しもうと、話を持ってきたのよ!」
「あたた! この私がいるのにいたたっ! ゼル帝、お母さんをついばむのは止めて!?」
『ピー!』
ゼル帝は間接攻撃してきたアクアを敵と見なしたようだ。
でもコイツはさっきから何が言いたいんだ?
「エリス祭りがあるなら、私のアクア祭りもないとおかしいでしょ!」
「今年はエリス祭りは止めて、アクア祭りをやってもらうのよ!」
『プー!?』
アクアが胸に手を当てて異論を言うなか、クリスが口に含んでいたコーヒーを思いっきり吹き出した。
まあ、目の前にその本人がいるんだし、分からんでもないが……。
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