第182話 この卵から生まれた我が子の魔力を‼

「うわああーん! 私の我が子を返してよー!」

「フハハハッ、この鳥類は我輩を親として見なしたのだ。毎度お騒がせしますな女よ、いざ、自分が寝取られた気分はどうだ!」


 俺とめぐみんの爆裂魔法の日課から帰宅すると、バニルの靴元になつく丸々としたひよこと、それを泣きながら奪還しようとするアクアがいた。


 それでもって絨毯には体が消えかけたウィズと口をあんぐり開けて白目で気絶中のボロボロなダクネスの二人が寝転がっている。


「これは何の騒ぎだ? アクア、俺がいない間に何があったのか説明しろ」


「ええ、私たちが変質者の仮面を尋問中に、急にこのインチキ仮面が怒り出して、バニル式目から達人ゲームとか叫んできて、こちらに攻撃してきたの!」

「とっさに私は魔法の障壁で弾き返したんだけど、ダクネスがそれを見事に食らっちゃて」

「だから反撃の狼煙のろしとして浄化魔法を放ったんだけど、今度はあのあんぽんたんがウィズを盾がわりにして、そのウィズはおかしくなって消えかけて!」

「もうあいつは炭火焼きのくん製にするしかないと思った時に……」


 なるほど、詳しく話を聞き、一つだけ分かった。

 お前の言うことはよく分からん。


「いい加減なホラを言うんじゃない、このホラ吹き女め! その女はそこに転がる筋肉娘と、裏切っても貧乏な店主と共に行動する最中に、無実な我輩を黒に仕立てあげ、闇雲に我輩を攻撃してきた」

「だから命が危うくなった我輩はそこで正当防衛という意味を籠め、目からバニル式殺人ビームで反撃をしたのだ!」

「すると、そやつは我輩のビームを綺麗に反射し、それに筋肉女が犠牲に遭い、おかえしとばかりに向こうから魔法を放ったので」

「我輩は店主の身体で魔法にバリアをして、ポンポコ女神との真の決着をつけようとした時に……」


「「ゼル帝が生まれたというおめでたい出来事が起こった……」」


 二人の言葉が綺麗に合わさる。


「のよね」

「とも言える」

『ピヨ!』


 なるほど、もう一度話を聞いて分かったことがある。

 例え一匹増えようと、さっぱり分からん。


「それでこのひよこはどうするのさ」

『ピヨッ!』


 死人のダクネス(死んでない)を近くのソファーに寝かし、キングスフォード・ゼルドマン(ゼル帝)も無事に生まれたのを見た俺は次のコイツの就職先を脳内で探る。 


「将来、ビックになって美味そうな唐揚げにはなりそうだが?」 

「揚げないわよ! ドラゴンを食べるなんておかしいでしょ!」


 いや、お前も常識的におかしいだろ。


「でも生まれたての生き物って可愛らしくて心が和みますよね。おいで」

『ピヨッ』


 めぐみんがひよこに手を伸ばし、愛らしく迎え入れる。


 まあ、普通はそうなるよな。

 カツオダシでもなく、見た目ひよこだし。


「ねえ、鉄仮面もどきな悪魔! この子は神の私が選んだドラゴンの最高権力になる力を内に秘めた子なのよ。あんたがいるとゼル帝が悪い子になっちゃうから、とっとと帰りなさい!」

「ちっ、貴様が言わなくても我輩は帰らせて……」

「……おやや」


 バニルの靴に体をなすりつけるゼル帝。

 ゼル帝はバニルから一向に離れずにその動作を繰り返していた。


「ええっー、ゼル帝どうしたのよ!? あなたのママは私なのよー!!」


 アクアが俺の襟元を掴みながら半泣きになる。

 この手を離せ、俺は関係ないだろ。


「もしかして生まれた時に初めにバニルを見て親と思ってしまったんだろうな」

「フムフム……親であるか」


 バニルがゼル帝を摘まんで手のひらにのせて何やら考えている。


「だが連れ帰ったら貧乏店主に調理されそうだし、かといって養うのも大変だからな」

「ならばしょうがない。おい、泣きべそ女、ゼル帝の寝床を案内しろ」


 悲しみで目を潤ましたアクアが『ここです……』とソファーに一本の指を向ける。

 いくら一人用でも、ひよこをソファーに寝かせるんかい。


「むぬぬ……」


 バニルがそのソファーに座り込み、座禅のように指通しを合わせ、その両手の内側にゼル帝を置く形を取り、何やら唸り出す。

 頭か腹か知らないが、悪魔にも調子が悪い時があるんだな。


「脱皮!!」


 バニルが痛快に叫ぶと、自身の体の後ろからもう一人のバニルが飛び出してきて、俺とアクアのド胆を抜く。


『ピヨ……』


 バニルの脱け殻とも知らず、ゼル帝は手の中で安心しきった表情で休んでいた。 


「それでは我輩は仕事で忙しいので、これにて失礼する」


 そのまま気絶した店主のウィズを引きずりながら、バニルは自身の脱け殻にゼル帝を預けて、俺の屋敷を後にした。


 この世界の生き物も見慣れてきたけど、お前の姿も常識的に外れているな……。


****


 数日後、俺は違和感のある悪魔に落ち着かない気分だった……。


「おい、アクア、頼みがある」

「あのソファーにいるバニルの脱け殻を魔法で消してくれないか。めっちゃ存在が気になって夜中トイレに行く度に驚くんだが……」

「だってゼル帝が折角気に入っている寝床よ。ママである私がそんな非道なことできるわけないでしょ」

『ピヨー……』


 こんな状況でもお前さんは母親ぶるんだな。

 親として刷り込みされたのはバニルなのに……。

 自分の家なのに他人が気になってくつろげないとか、どんだけ嫌がらせな悪魔だよ。


「あとさ、ちょむすけの様子がおかしいんだが……」


 バニルの座るソファーの近くで警戒の姿勢をとっているちょむすけ。


「何かさ、ゼル帝相手に威嚇してるんだよな。もしや怖がってるのかな」

「有望なドラゴンのゼル帝とは違い、猫か、犬か、分からない、どうしようもない生き物よね」


 親バカから見て、ひよこは別格とでも言いたげだな。


「それは魔力に反応しているのでしょう」

「めぐみん、この毛玉のぬいぐるみに魔力だと?」

「ええ、卵がかえる時に私やアクア、バニルやウィズなどの経験豊かな能力者が魔力を注いだせいでしょう」


 ドラゴンが産んだ卵に魔力を注ぐと子供も強い魔力を秘めて生まれてくる。

 鶏でもその現象が起きるとは……とめぐみんが口走りながら、興味深そうにメモをとっていた。

 何に使うメモだよ?


「じゃあ、めぐみん考古学者。こいつをレアガチャのように丁寧にしつけていけば、いずれは魔王軍と対決できるの秘策となり……」

「いいえ、ひよこですから魔法もブレスもできませんよ」

「いや、だったらさ、ある日になって突然凄い力を持って目覚め、超強いボディビルのような魔剣さえも通さない強靭な身体を持った究極のひよこに……」

「なりませんよ。魔力が高いと若さを保てて長生きすることはありますが、この子はただのひよこです。半分眠りながらでも余裕で倒せる冒険初期に出現する雑魚のモンスターをビビらせることしかできないでしょうね」

「ならさ、俺のドレインタッチでこいつをマナタイト代わりの便利なアイテムにしよう」

「そんなことしたら普通に死にますよ。ひよこですから」


「ボソボソ……じゃあさ、こいつを食べたら魔力アップとかして賢者になれねーかなぁ……」

「……まあ、強い魔力が手に入るなら食してみることもできそうですね」


 俺とめぐみんは小声で精のつく若鳥の唐揚げのレシピを練っていた。


「ウチのゼル帝を食べるなんて許さないわよ。もう向こうに行って!」

「ダクネスもあのいやしい二人からゼル帝を助けてよー!」


 アクアがダクネスという中立者に救いを求める。  


「何だ、まだ食うか、食われるかの瀬戸際な話をしてるのか?」

「ふふふ……お前たちの行動を見ていると、私の本当の居場所に帰ってきたという安心感が芽生えるな」

「カズマもめぐみんもアクアと喧嘩をせずに、これからも仲良くしていこうじゃないか」


 随分とご機嫌なダクネスだが、領主に捨てられたトラウマは平気なのか?


「私は捨てられてない。領主は悪事が知れて夜逃げしたのだ!」

「なーる……でも未経験のバツイチのままには変わりはないけどな」

「まあ、これからの転職先に有利だし、お前も色々な属性を身に付けていけばいいさ」


 特殊なジャンルが多すぎて、レアカード扱いになり、カードゲームな闇市で値が張りそうだけどな。


「私はクルセイダーの職が一筋だし、バツイチでもないぞ!」

「私の籍は変わらず、綺麗なままなのだ」


 はっ、ダクネスも何を言ってんの?

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